捜索1
準備も整ったので俺と母さんは家を飛び出した。
間際に、ばあちゃんにこれを持ってけと投げ渡されたお守りを握りしめて、山の方へと走る。
みんなとはふもとで落ち合うことに決めた。下手に待ち合わせをするより時間を食わないだろうと思ってのことだ。
けれども家を出て五分もしないうちにトモヒロ親子と遭遇、さらにその後すぐにノブとも合流した。
トモヒロ父はトモヒロそっくりだな。そのまま大きくしたような印象だ。
母さんはトモヒロ父と情報交換をしながら走る。俺たちも三人で状況を確認しながら向かう。
途中、コンビニの前を通過するときにトモヒロが立ち止まった。
こんな時に正気かよ、コンビニに何の用だ! そう思い咎めようと振り向くと、先にトモヒロが言葉を発した。
「あれ、ナオじゃねーか?」
トモヒロの視線を追ってコンビニを向くと、そこには雑誌か何かを立ち読みしているナオがいた。
呼んでくる! と言い残しトモヒロはコンビニに入って行く。そこに、前を走っていたノブと母さんたちが戻って来た。
「急に立ちどまってどうしたの?」
「いや、ナオがいたんだ」
ノブだけが反応を示す。母さんたちは当然のことながらわかっていないようだった。
「ナオ……誰だ?」
トモヒロ父が問いかけてくる。
「最近俺たちとつるんでるんです。夏休みで里帰りしているそうで。今回の件も間違いなく関係者です」
「ナオも連れて言った方がいいだろう。あいつの判断力はきっと役に立つ」
そうノブが付け加えた。
「……君たちにそこまで言わすとは、なかなか信頼されている子だね」
そう話していると、トモヒロがナオを連れて戻って来た。
「話は聞いたよ、僕も行こう。既に沼の方は人が向かってるんだね。神社の方は誰も行ってないのか?」
「ああ、みんな沼に行っちゃったよ。神社はおろか、山も俺たちだけだ」
「なるほどね。じゃあ手分けしよう。可能性はかなり低いと思うけど、トモヒロとノブ、それと……トモヒロのお父さんですか?」
トモヒロ父はうなずく。
「三人は神社の方をお願いします。奥までさっと、ひと通り見たらすぐ山の方に来てください。頼んだぞ、トモヒロ」
「おう、まかせとけ。かっとびで行ってくる」
そしてノブと目配せしてうなずき合っていた。
「俺たちは山へ直行だな」
俺の言葉にナオは頷く。
確かに神社の可能性はかなり少ないだろう。しかし、万が一そっちにいたら、ずっと見つけることができずに無駄な捜索を繰り返してしまう。
捜索場所を潰して確証を得るつもりなんだな。
「じゃあ行きましょう」
母さんの言葉を合図に、俺たちは再び駆け出す。
そしてあっという間に神社のそばまで近づいて来た。
「よーし、このままトップスピードで駆け上がるぞ! てめーらついてこれっかぁ!」
「当たりめえだろ!」
「お前、誰に向かって言ってるんだ?」
トモヒロの咆哮に二人は呼応する。
ここまで走ってきたペースも結構の速さだ。俺も若干息が上がっている。
しかし三人はそこからさらに加速する。
一瞬で俺たちと距離を開けると、勢いそのまま神社への階段に斜めから突入し駆け上がって行った。普段の競争なんて目じゃないくらいの速さだった。
「は~、すげえなあいつら」
ナオは陽気におどけてみせる。こんな場面で、きっとわざとだろう。
俺たちが神社への階段前を通過するときには、もう三人の姿は見えなかった。
「人選は正解だったな」
「ああ」
ナオは短く返した。
程なくして俺たちは学校の前を通過する。
「ところで、なんで沼だったんです?」
ナオがそう聞いてきた。俺に聞かれても知らないよ、と思ったが、ナオの視線は母さんを向いていた。
「ええ、実は昔、私があなたたちくらいの頃に、似たようなことをしてたのよ」
家での会話でもそんなようなことを匂わせていたな。
「私と父さんとトモヒロくんのお父さん、エイコちゃんのお父さんに、ほら、図書館で働くお姉さんいるでしょ」
あの人もそうだったのか。だからあんなに話を聞いてくれたのか。
「実は後一人いたんだけどね……」
「まさか沼で……」
「ええ……」
母さんは俺の言葉に顔を背けて返答する。
それで過敏に反応してたのか。そして司書さんも沼に一人で近づくなって言ってたのはそのせいか。
重くなった空気をナオが断ち切る。
「たぶん山だ」
「えっ?」
「ユウキが明日の予定を話している時だ。彼女は山というワードに反応していたように思える」
「そんな……全然気がつかなかった」
「うん、まあそれは仕方ないだろう。ユウキは全体に話をしていたんだし。僕は聞いているだけだった分、周りが見えてただけだよ。逆の立場なら気づけたさ」
ナオはそう言うがはたしてどうだろうか。今となってはなんとも言えない。
「やっぱナオに来てもらってよかったなぁ。さっきの神社の件もいい采配だったし」
俺は笑顔を作ってそう言った。
「何言ってるんだよ。ユウキだって同じこと考えたろう、さほど変わらないって」
「考えたよ……でも結果的に除外した」
「……常識と信頼に阻害されたんだよ。優しいな、君は」
そうナオは言った。たぶんフォローしているんだろう。正直よく理解できなかった。
何も言葉を返せずにいるとナオが反応する。
「ん? なんだ、伝わらなかったか」
黙って頷き、もう少し分かりやすく言ってほしいと告げる。
「うーん、一言で言うなら、僕は状況を見て彼らを駒として使った。君はそこに心情を加えたんだろう。立場の違いだよ」
今度はなんとなくわかるような気がした。
「君の立場なら同じ選択をしたかもしれない。でも時には情抜きで行動しないといけない事もあるんだよ。それと、神社の三人もちゃんと理解した上で行ってくれたようだし、できた連中だな」
「……あなた、ナオくんだっけ。とても大人びた考え方をするのね。年はいくつ?」
「小六です。ユウキ達より一つ上ですので」
「それにしたって……。里帰りって言ってたけど……」
「あ、山のふもとが見えて来ましたよ」
ナオの声に前の方を見る。ようやく到着だ。
「母さん、トモヒロ達から連絡は?」
ないわね、と母さん。
「じゃあ……進むぞ!」
俺は自身を奮い立てる意味も込めて二人に向けて言った。
俺たちはとりあえずベースがある最初の分岐まで上がって来た。
「山に来てみたはいいけど、どこを探せばいいんだ」
「昨日の話ではさらに上で失踪した子が見つかったんだよね。そこも分岐点だったとか。思い当たる場所はあるかい?」
確かにこの上、上級者ルートにはさらに分岐があったな。
まっすぐ山頂へ行く縦のルートと、山をぐるっと回る横のルート、だったかな。
「あるな。行ってみよう」
俺たちはその場所へ急いだ。
山道は月明かりで意外と明るい。二人の顔も認識できるくらいだ。けれど両脇は林で真っ暗。足を踏み入れたら深い闇に呑まれて二度と戻れない、そんな気にさせるくらいだ。
「もうすぐだ。ほら、見えてきた。あそこだ」
俺の指差す方に若干ひらけた場所がある。
「ちょっと待って」
その時母さんが声を上げ立ちどまる。
「思い出した。さっきからなんか引っかかってたのよ。確かあっちの方向。トンネルかなにかがあったはず」
母さん達が小さい頃、山を探検していて見つけたらしい。入り口は板が打ち付けられていて入れなかったそうだが。
「あなたたちが言う失踪した子もその場所を口にしたって聞いた覚えがあるわ。もしかしたら関係があるかもしれない」
「なるほど、他に手がかりもない。そこに行こう」
その時、突如音楽がなった。
母さんの携帯電話に着信があったんだ。どうやら神社の方はくまなく探したが、何も見つからなかったそうだ。かなり時間が経っているところを見ると相当力を入れて捜索してくれたんだろう。
俺は母さんにとりあえずベースの分岐まで来るよう言ってもらう。
「あの連中ならすぐ来るだろう。そしたら二手に分かれて探せるな。俺たちはさっき言った通りトンネルに向かうぞ」
「ユウキのお母さん、これを」
ナオはそう言って懐中電灯を母さんに手渡した。リュックに入っていたようだ。
「ありがとう。準備がいいわね」
母さんはそれを受け取り駆け出した。
ここからは母さんを先頭に進む。
とりあえず分岐まで上がり、そこから左に折れて林に入ってからは、もはや覚えていない。右に左に、母さんの後をついて行くので必死だった。
「この先よ」
どうやら到着するようだ。
急に林を抜ける。目の前には岩がむき出しの山の斜面、そこに開いた洞穴のようなものが飛び込んできた。
母さんの言う通り、入り口には板が打ち付けられている。
まるで何人たりとも進入を拒むかのように。




