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廃神社


 事前に寺で情報を得ていた。

 その内容から、藪の向こう側の風景は想像していた。

 朽ちた神社、いわゆる廃墟。テレビでだって見たことある。

 しかし、目の前に飛び込んできた光景は予想だにしないものだった。


「きれい……」


 さっきまで空は曇っていた。表の神社は暗かった。藪の中はさらに暗かった。しかしここはどうだ。明るい。見上げるとうっそうと木が茂っている。そこから木漏れ日が降り注いでいるようだ。草木は朝の雨で濡れて光を反射しているらしい。


「廃墟……、って感じじゃないな、これは……」


 その光景にナオも驚きを隠せない様子だ。


 目の前、奥にそびえるは立派な本殿。そこまでの道には石畳が敷かれている。さらに両脇には石灯籠や狛犬のような像まである。ほかにもよくわからない物体が数多く配置されている。


「これが……一般的な神社なのか」


「いや、まあそうだけど、めちゃくちゃ立派だな」


 どうやら度を超えているらしいが、なるほど。表とは比べようがないな。


「よ、よし。散策してみよう」


 おれの言葉にみんながハッとし我にかえる。見惚れていたらしい。


 ノブとナオが何やら話し合って、ノブの持っていた棒を藪に突き刺した。


「帰りにどっから入ったのかわからなくなるかもしれないからな」


「え? だってここの上、鳥居があるよ」


 と、エイコのツッコミが入った。

 うん。俺もさっき上見た時に気がついた。


「念の為だ」


 照れ隠しだろうか。ノブは笑って言った。


 とりあえずみんなで本殿の所まで行く。広さは表の神社と同じくらいかな。

 目の前まで行くとその凄味がより感じられる。古い感じだけどボロってわけじゃない。雨露に濡れて木の色が全体的に暗くなっていて重厚感が一層増している。

 さっきナオが言っていた表の真新しさって奴もなんとなくわかる気がするな。


 みんなポケットに小銭を持っていたので賽銭箱に投げ入れて、少し調べさせてもらいますと報告した。

 気分的に、こうしておいた方がなんか安心だろう。そこからはみんなは、ばらけて見ていくことにした。

 俺はどうしようかな。みんなは狛犬とか見ている。ナオは本堂の中を隙間から覗いているようだ。あいつ開ける気じゃないだろうな……。


「おい、開けんなよ」


「ん? ああ、開けない開けない。君は僕をなんだと思ってるんだ」


 なんでもすぐに開けようとするやつだと思ってたよ。いろんな意味で。

 まあそれはいい。何か見えたか聞くが、特にこれといったものはなかったそうだ。


 そのままナオと本殿の裏手に回り、一周して戻る。みんなももう飽きてきたようで固まっておしゃべりしているみたいだな。


 俺たちはまだ本殿しか見てないからもう少し待っててもらおう。君たちは本殿見なくていいの? あ、そう、いいのね。


 ナオとは別々に敷地内を一通り見て回る。

 石灯籠なんかの精細さに驚きを隠せないな。でも、これが表にあったら遊ぶのに邪魔だな。

 初めて目の当たりにする本来神社にあるべきものに一頻り感嘆した後にみんながいる場所へ戻った。ナオももう合流していたみたいだ。


「なかなか神秘的だったな。ぼちぼち戻るか」


「ああ、そうだね。そうしよう」


 俺たちは藪の手前に横一列に並ぶと神社に向かって一礼をした。


 その時だった。俺たちの後ろの方から冷たい突風が吹きつけられる。

 思わず前に一歩踏み出した。

 何事かと、みんなが周りを見ていると、いきなりバンッと本殿の方から大きな音がした。見ると本殿の扉が開いている。


 次の瞬間、今度は前方から生暖かい風が吹き荒れた。

 木々がガサガサと音を立てて揺れる。そして、本殿の奥の方からこちらに向かって、辺りが闇に染まっていく。いや、さっきまで煌々と降り注いでいた木漏れ日が無くなっていくのだ。


「戻るぞ!」


 ナオの一声でみんなが我にかえる。棒を差し込まれた部分の藪に勢いよく飛び込む。もはや枝が草がなど言ってる余裕はない。なんだかわからないがここにいてはまずい。一秒でも早く戻らないと。

 その一心で藪を駆ける。もともと大した距離ではないのですぐに前方が少し明るくなる。勢いを弱めることもなくその光の方へ飛び込んだ。


 元の神社に戻ってきた。

 俺は慌てて欠けたメンバーはないか確認をする。……大丈夫だ。ナオも含めてみんないる。


 呼吸を整える。口を聞こうとするものはいない。みんな気持ちの整理で忙しいみたいだ。仕方ないので俺が沈黙を破ろう。


「……なんだったんだろうな。ナオ、さっきの判断は助かった。お前はさっきのあれ、何が起こったのかわかるのか? 神社ではあんなことが起こるのか?」


「いや、なんだろうね。神社だからってあんなことは起きないよ。ただ、普通じゃないと思ったから逃げるように促しただけだ」


「なあ、ここも気味が悪い。場所を移そうぜ」


 トモヒロの提案で公民館に行くことにした。ちなみに装備は神社のふもとに邪魔にならないように置いておいた。といってもタクヤのエクスカリバーは奥の神社に置いてきてしまったようだが。


 興奮冷めやらぬ一行は公民館に到着しいつもの座席を陣取る。

 みんなでさっきの事について語り合う。みんな思った程、恐怖の感情はなかった。むしろ特別な体験をしたと気が高ぶっている。

 タクヤはエクスカリバーを無くして肩を落としているが、明日取りに行こうとの提案に誰一人賛同はしなかった。タクヤは追打ちでちーちゃんに「いくぞ!」と言い放つがタクヤの方すら向かずに完全にスルーだ。相手にされていなかった。


「すごい体験をしてまだドキドキしてるよ。けど、そろそろ時間も無くなってきた。次の話に移ろう」


 ナオの言葉を聞いて時間を確認する。もう四時を回っていた。

 今日はもう十分だろう。明日の行動を決めておかないとな。


「明日は残りの沼と山だなー。そういえば昨日の図書館組はなんか収穫はあったのかよ?」


 そうだった、朝からてんやわんやで聞きそびれてた。


「ああ、調べたよ。でも、さっきの体験の後に話させるなんて、ちょっと酷なことをさせるなあ……」


 そう言ってナオはノブに目配せをする。


「お前らが話を聞いたという係りの人に、もう少し詳しく聞いたんだ。まず、山についてだがベースよりも上の方、中腹くらいで道を外れると行ける場所があるらしい」


「何があるんだ?」


 ノブはトモヒロの質問に頷いて答える。


「防空壕だとさ」


「へ? そんなもんがなんであの山に?」


「そこまでは知らねえよ。そう言ってたんだ。ここいらでも昔戦争とかあったんじゃねえのか?」


「それで、その防空壕がなんなんだ?」


 俺は核心について聞いた。


「昔な、行方不明になった人が二日後にそこで見つかったんだと。でもな、その防空壕の場所まではわからない。明日行くつもりなら相当な覚悟が必要だな」


 ノブはそう付け加えた。明日は山を駆けずり回ることになりそうだ。


「ま、山についてはそんなとこだ」


「そして沼についてだけど」


 続けてナオが説明するようだ。


「河童が出るとか、恐竜が潜むとか色々噂があるんだってさ。でもってそれと関係があるのかは知らないけど」


 ナオは言葉を区切ってみんなの顔を見渡し……


「事故が多いんだって」


 首をすくめて言った。


「司書さんが言うには沼の縁が傾斜になって滑りやすく、土も軟らかくて足も取られやすい。普通に危ないところのようだね」


 なんとも言い難い現実的な話だ。でもおばさんたちに聞いた話とも違わないな。


「だからお寺でも今日は行くなって言ってたんだね。あと行く時は二人以上で行動と」


 言ってたな。でもあんま面白い話じゃないな。行く意味はあるのだろうか。

 俺だけじゃなく、みんなの面白くなさそうな顔をしていると、それを察したのかナオが話を続けてきた。


「まあ、二人以上でってのは他にも意味があるみたいなんだけどね」


「どういうことだ?」


「これはネットで見た情報だ。あそこの沼はかなり昔からあったらしい。もっともそのころは綺麗に澄んでいて池と呼ばれていたそうだけど、その近くには集落があって、そこの一組の若い男女が、まあ付き合っていたそうだ」


 なんか語り出した。


「で、それを疎ましく思う、嫉妬深い女がいて、どうにかカップルの仲を引き裂いて男をものにできないかと画策していた」


 ふむふむ、よくありそうな話だ。


「ある日、池のほとりで休んでいるカップルを見かけて、もうおかしくなってたんだろうね。業を煮やして突撃したんだ。女を池に落とそうとね。もちろん失敗だ。男に阻まれ、嫉妬女の方が落ちたそうだ。そして帰らぬ人に……」


「あらら……自業自得ね」


「うん。で、もう少し続きがあってね。嫉妬女の思いはそれでも消えなかったんだ。どうしても池に落としたかったんだろう。今度は突き落とすんじゃなくて引きずり込むんだって」


「マジかよ……」


「そう。さらにひとつだけ学習していた」


「一人の時を狙うのか?」


 おっと、思わず口を挟んでしまった。


「ああ、初めは一人で池に近づく女性を引きずり込んでたらしいが、いつしか、男女無差別に引きずり込むようになったらしい。一人だったらね。もはや目的を見失ってる」


「なるほどな。沼はそれとなく近寄るなって風潮だったのはそのせいなのかもな。説明ありがとう。背景を知れてモチベーションも少し上がった気がするよ。明日はその観点で見にいこう」


「そうだね。なんでも祠もあるって話だしね」


「マジかよ。作り話とかじゃなかったのかー」


「どこまで本当の話かはわからないけど。まあ、調査報告はそんなもんだ。ね、ノブ」


「ああ、以上だ」


「実際にモノとして存在してるなら調査しやすいな。じゃあ明日は午前中に沼、午後に山がいいかな」


「そうだなー、山はおわんねーかもしんないしな」


「神社のふもと集合、装備後に沼に行って検証だ」


 何を検証するんだよ、と周りがざわつく。冗談だよ、冗談。危ないことはしない。


「そして神社に戻り、午前中解散。午後も神社に集合して山をふもとからしらみ潰しだな。まあ、一日で終わらなければ次の日も散策でいいだろう」


 そこまで言ったところで、ナオが発言した。


「あ、ごめんだけど僕、明日帰るんだ」


「え?」


 急な報告に一同あっけにとられる。


「ほら、もともと一週間くらいって言ってたじゃん? あっという間に過ぎちゃったのさ」


「じゃあもう明日は一緒に行けないのか?」


「いや、帰るのは夕方かな。電車次第では朝かもしれないけど……。夕方ならある程度は行動をともにできると思うよ」


 そうか、もうお別れか。思えば神社で出会ったのがきっかけだったんだよな。一目見た時は……いや、思い出を振り返るのは明日だな。


「じゃあ、明日も九時半に神社集合でいいな?」


 トモヒロとエイコ、ナオが頷く。


「ノブは大丈夫か?」


「ああ」と短く答える。


「ちーちゃんはどうだ?」


「え、あ、うん。大丈夫だよ。九時半だね」


 明日の予定も確認できたので俺たちは解散した。

 俺はエイコたちと一緒に帰り途中で別れて家へと向かった。




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