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表神社


 なんだろうな、今日の天気は。


 もう雨は上がっているが、空は厚い雲に覆われている。まだ二時半くらいなのに結構薄暗い。それに、さっきよりも気温も下がってきているように感じる。なんだか、雰囲気が醸し出てるなあ。


 俺たちは神社のふもとに佇んでいた。


「着いたな」


 そう言いながらナオは鳥居を見上げる。

 それに釣られるように、みんなの視線も上がった。

 鳥居は当然のことながら、堂々と構えられている。


「よし、今日はここからが本番だ。気合い入れて行こう」


「おー!」


「時間はたっぷりある。先ずは鳥居を調べてみよう」


 毎日のように視界に入るものだが、そうまじまじと見たことは無かったな。


 みんな左右に散らばり、鳥居に触れては眺め観察を始めた。ごく普通の朱色の鳥居だ。なかなか年代を経ているのか所々で塗装っぽいのが剥がれて地が出ている部分もある。


「う~ん。なんか書いてあるような気もするし、気のせいかなぁ」


 エイコの声にみんなが集まる。指をさされた部分を見ると、こちらも少し広めに塗装が剥がれて木目が見えているが。ウーム、確かに黒っぽい線が見えるような……カビ? なんとも言えないな。


「鳥居はこんなもんか、一見すると何の変哲もない。でも、もしかしたら朱色に塗る前になにかしら文字が書かれていた可能性があるかもしれない、と」


「普通はそんなの書くもんなのかー?」


 トモヒロがナオに問いかけていた。確かにそんなもん当然ないもんだと思ってたけど、自分の常識を過信してたかも知れない。どうなんだろうか。


「どうだろうね、聞いたことはないけど。もし書いてあったんなら何の意味があって……なかなかそそられるじゃないか」


「特別な何かを祀っていた神社……」


 ちーちゃんの発言に一同息を飲む。


「よ、よし。じゃあ次に行こう。階段だ」


「なんだ、段数でも数えてみるか?」


「いいな、そうしてみよう」


 ここの階段は途中に踊り場のような広い場所が存在する。ノブの提案に乗り、とりあえずそこまで数えながら登ってみることにした。


 ……三十三、三十四、三十五、三十六っと。


「数えたな、せーので言うぞ。いっせーのっ」


「三十六!」


「三十七!」


「おい、誰だ三十七って言ったやつ」


 即座にノブが反応した。その言葉に呼応し一人が手を挙げる。

 タクヤだ。


「……三十六だな」


「間違いない」


 タクヤの意見は淘汰された。


「しかし、こう見てみると確かに歪だなー。見てみろよ、下からここまでとこっから上までと全然段数違うぜ」


 トモヒロの言う通りだった。この先は今までの半分くらいだろうか。続けよう。


 …九、十、じゅうい…


「あ」


 不意に後ろからちーちゃんが声が聞こえて来た。

 驚いて振り向くと、俺のすぐ後ろに居たトモヒロが前のめりで倒れ階段に手をついた瞬間を目の当たりにした。


「おい、どうした? 大丈夫か」


「あ、ああ。なんかにつまずいたみたいだ。大丈夫だよ。……あ、数忘れた」


 俺もだよ。やりなおし!


 改めて数え直すと全員一致で二十段だった。


「半分よりは多かったけどやっぱバランスわりーな」


「だな~。なんでだろうなあ」


「本当は同じ段数だったんだけど上の部分がなくなっちゃったとか……?」


 ナオの突飛な発言に最初はみんなバカにしていたが、想像するとやや戦慄する。

 ……気を取り直して先に進むことにしよう。


「さあ、着いた」


「言われてみると何にもねーな」


 もはや見慣れた光景だった。地面は砂利が敷いてあり、奥に建物が建っている。賽銭箱があり上にはガラガラが付いている。まあそれだけだ。遮る物も少ないから遊ぶには持って来いだな。


「建物を観察してみるか?」


「それもいいけど二手に分かれよう。建物を観察する組と奥に神社に続く道を探す組でどうだろう? ここは君らの庭みたいなもんなんだろ。それなのに知らなかったって事は道も簡単に見つからないかもしれない。早めに探しておこう」


 俺たちはナオの提案を受け、二組に分かれた。

 俺とトモヒロとノブ、それにタクヤが奥の道を捜索だ。あと三人に建物の調査を任せた。


 それぞれ分かれ行動を開始する。

 俺たちは建物の裏手に回ってきた。さっきは庭なんて言われたが、実際ここら辺をまじまじと見ることなんてなかった。ちょっと暗くて薄気味悪いなここは。


 ノブとタクヤは持っていた棒で藪をつついている。俺も枝切れでやろうと思ったがどうにも長さが足りない。こんなことならマサムネを持ってきた方が良かったかもしれない。

 仕方ないのでベースの方に行って使えそうなもんがないか探してくる。


 ちなみにトモヒロはおかまいなしに藪に突っ込んでいってる。


 ベースへ向かう部分の藪に突っ込んでいって思った。

 ここは奥に道があるって知ってるから躊躇なく進めるけど藪を抜けるのに結構遠距離があるんだよな。これは見つけるの大変かもしれないぞ。


 程なくして藪を抜けベースへ到着した。荷物が減ってしまったベースの中に入り、何か使えるものがないか探してみる。


 ここいら辺はガラクタ置き場だ。この近くで拾った使えそうなもんを置いている。そこには一本のプラスチック性のバットとカラーボールが置いてあった。

 そういやこれも拾ったやつだったんだ。結構遊んだなあ。ちょうどよさそうだ。

 俺はバットを手に取り、ついでにカラーボールも持って行くことにした。


 急いでみんなの元へ戻ると、建物組は調査を終えていたようだ。


「あ、もどってきた」


「おー、なんだ、そのバット持ってきたのかよ」


 エイコとトモヒロに迎えられた。


「で、どうだった?」


「まだ見つかってねーよー」


 うん。そうだとは思ってたし、そっちじゃない。俺はナオの方を向いて聞く。


「建物は?」


「これといって……ってかんじだね。中がよく見えなかったんで、どこか開くとこないか色々いじってみたんだけどね。開かなかったよ」


「だからダメだって」と女子二人にたしなめられているが、こいつ意外と大胆だな。


「そういや初めて会った時もお前ここ見てたな。何してたんだ?」


 ノブが藪をつつきながら問いかけた。


「ああ、もうだいぶ前のことのように感じるな…… 実はその時からこの神社には秘密がある、というような話を知ってね。ネットで見たんだけど。それで興味があったから見にきて、君たちに出会い、神社はそっちのけになってたってわけだよ」


 なんだ、知ってたのかよ。図書館で話してやった時、リアクションに違和感があったのもそのせいか。


「ただ、改めて見てみると確かに新しい感じがするね。神社らしくもない」


 そうなのか、よくわからんな。曰く、他の神社を見れば違いがわかるそうだが、あいにくこれ以外は見たことないもんでね。


「わかった。それじゃあ全員で奥への道を探そう。なかなか見つからなくってな」


 三人を加えて捜索を再開した。俺は持ってきたバットを使って藪を薙ぎってみる。まあ、深くて意味はあんまないんだけどな。


 そんなことをしていると、少し離れたところでエイコが声を上げた。


「あった! 多分これだよね……? ねーっ! あったよー!」


 エイコとちーちゃんがが立っているところに一番近かったタクヤが駆け寄っていき、 藪に体を突っ込んだ。そしてすぐにその身を引き抜く。


「うん、ここだな。道っちゃあ道か。手前はほんとよくわからないけど、奥の方は確かに行けそうだったぜ」


 どれどれ…… なるほどな。確かに奥の方に地面が露出してる部分が見えるわ。


「でかしたぞ」


「まあね~」


 タクヤに行ったつもりじゃなかったが……まあいいや。


「よし、みんな一旦集合してくれ。これから奥の神社へ向かう。ここから先は何が起こるかわからない。みんな、気を引き締めて行こう」


「何もないって寺で言われたけどなー」


 うるせー、こういうのは雰囲気なんだよ。


「道は狭い。隊列を組むぞ」


 まあ、俺らなら二列でいけるな。


「俺とトモヒロが先頭だ。次にタクヤ、そしてエイコとちーちゃん、最後がノブとナオだ」


 この布陣は俺らの基本陣形のアレンジだ。今回はナオが入っているから最後尾のタクヤとチェンジ。もちろんそれぞれの配置に意味はある。去年くらいに、半日もかけて考えたんだ。


「じゃあいくぞー」


 先頭トモヒロの掛け声で一行は出発する。


 藪の深さはベース側と大差ない。けど、あっちは何度も通ってるから踏み固められてちゃんと道になっているが、こっちは初めてだ。草木が邪魔で進みづらい。それでも俺はバットで、トモヒロはノブから棒を借りて草を払いながら少しずつ進軍していく。


「……結構あるな」


 みんなが薄々感じ始めていたことを口に出したナオが続ける。


「後ろはもう表の神社は見えないよ。道はわかるけど」


 振り返るが確かに見えない。若干の不安が湧き上がってきた。そんな時、今度は前の方からトモヒロの声が飛んできた。


「おい、みてみろ。もしかしたらついたんじゃねーか」


 前に向き直る。前方は若干の明るくなっている。


「そうかもしれないな。もうここまできたら焦らずゆっくり着実に行くぞ」


 走り出したい衝動に駆られながら自分にも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。みんなも同じだったようで一瞬前のめりになって立ち止まる。


 あと五メートル……三メートル……一メートル。そこで一同立ち止まり息を飲む。


「いいか、行くぞ」


 俺たちは一斉に藪を抜けた。



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