廃神社の話
住職は語り出す。
私がこの街にやってきた頃――そうですね、あなたたちのお父さんが生まれるよりもはるか昔のことですね。
私は寺に到着し、諸用も済ませた後、街の散策に出かけました。そこでその神社に行き着いたのです。
寺である程度、この街のことを教わっていましたから神社の存在は当然知っていました。特に目的も無かったんですがなんとなく訪れたわけです。
早速参拝すべく、階段を上がったんですが、目の当たりにした神社の境内からは明らかな違和感が感じ取れました。
下から見た丘の印象よりもだいぶ狭かったんですよ。
不思議に思いながらも敷地内を見て回る事にしました。
奥行が足りないと思い、本殿裏の藪をかきわけたところで、さらに奥に通じるけもの道のようなものを見つけました。
私も当時は怖いものなどなく、果敢にその道を進んで行ったものです。
十メートルも進まないうちに開けた場所が見えてきました。
藪を抜けるとそこにはボロボロの建物が構えています。どうやらそれは神社の本殿のようでした。ほかにも狛犬や燈籠、手水舎なんかも設置してあります。ただしそれらは本殿同様ボロボロ。全体的に薄暗く、おどろおどろしい様子でした。
そしてこの時、先ほどまで感じていた違和感の正体がはっきりしました。表の神社は確かに狭かったのですが、それ以外にも異様なことがあったのです。表の神社には本殿がない。あれはあえて言うなら拝殿でしょう。こちらの裏の神社には一通り揃っている。さらに鳥居です。裏の神社には、ちょうど私が藪を抜けた場所、その真上にしっかりとあります。また、ふもとにも立派な鳥居はありましたが、表の神社境内の入口にはありませんでした。最初に見た表の神社は神社としての構造に足りてなかったのです。
結果、この考えに行き付きました。
表の神社はいわば仮初め、神社の本質はこちらである、と。
そうすると新たな疑問が浮上します。一体何の意味があってこんな形をしているのか。なぜ仮初めが必要なのか。何から隠そうとしているのか。そして、何を隠そうとしているのか、とね。
裏には何が祀られているのでしょう
住職は、そう締めくくった。
言われてみれば俺たちが見ていた神社には足りない部分があったかもしれない。ずーっと通っていた神社が見せかけだったなんて。俺は恐怖心とともに心の奥底から湧き上がる探究心を感じていた。
「それで、いったい何が祀られているんですか?」
ナオは当然の疑問を口にする。しかし、住職はその問いに明確な回答は示さなかった。
「まあ、そこまで危ないところでもないですし、十分気を付けなさい」
わかったような、そうでないような。気を付けながらなら行ってもいいって事なのか。行く前から何もないよってネタバレされた様で若干興ざめだな。
それ以降こちらからの質問は出ず、向こうも話すことは伝え終わったと言うように沈黙が流れ、俺たちはお礼を言って寺を後にすることにした。
建物から出ると雨はすっかり止んでいた。時間も十一時過ぎ。もうこれからどこか行くって感じではないな。今聞いた話も踏まえて今後の動き方を決めなければならない。俺は公民館に行くことを提案し総意を得たので向かった。
公民館に到着すると、昨日おばさんたちに話を聞いていた席にかける。
「何はともあれ川の方は解決してよかった。資料にまとめる内容としてもまあ問題ないだろう」
「だなー。そして廃神社の件なー」
「面白い話だったね。もちろんいくんだろ?」
「ああ、何もないって行く前から言われちゃったけどな、この目で確かめてみようぜ。もういい時間だから午後からだな。いつも通り一時半でいいだろう。集合場所は、そうだな……神社の下で集まってそこからじっくり見ていこうか」
「ちょっと待ってよ!」
計画に異議を示したのはタクヤだった。
「武器は!? せっかく用意したのに山のベースにおきっぱなしだよ!」
「あー……」
周りを見渡すとみんな苦笑い。だが誰も答えてやらない、と思ったらナオが口火を切る。
「そうだね、山に集合としよう。な、ユウキ。現地集合じゃ味気ないしね。みんなで一歩一歩、目的地に近ずくにつれて覚悟を決めていく……みたいな」
「あ、ああ。そうしよう。山に一時半な。それにナオの言う感覚はわかるわ。是非ともそうしよう」
タクヤは満面の笑みである。
そういや武器どうなんだ、とナオがトモヒロの聞いているがトモヒロは濁していた。
「ノブには帰ったら連絡入れておく」
「たのんだぜ、リーダー」
そして、公民館を出た俺たちはそれぞれの帰路についた。
「ただいま~」
「あら、おかえり。早かったのね」
「なんかあったのかい?」
ばあちゃんからは心配までされる始末だ。
「いや、きりが良かったから早めに解散しただけだよ。午後からが本番さ」
「そうかい。で、寺には行ってきたのか?」
「ああ、行ってきたけどその頃にはもう雨やみそうだったね。今はもう完全に止んでるし。んで、川の話も気にすることはないだろうって」
「そりゃよかったね」
母さんが昼食の準備をしてくれている間、俺は一旦部屋に引っ込んだ。川の件を忘れないうちに書き留めておくためだ。ノートを取り出すと現地で起きたこと、寺で聞いたことをとりあえず箇条書きしておいた。いちおう神社の方も書いておこう。書き終えたところでノブに連絡を入れることを思い出した。
ノブの家に電話をかけると三コールほどで相手が出る。
「もしもし」
「おう、ユウキか」
「あ、ノブか。午後の予定が決まった。一時半に新ベースに集合だ。山の方だぞ」
「ああ、わかった。間に合うように行くとするわ。詳細は向こうで教えてくれ」
手短に用件だけ告げ電話は終わった。
受話器を置いたところで母さんに呼ばれた。ばあちゃんと三人で昼食を取る。俺の気持ちは午後のことでいっぱいだ。食べ終わり、まだ時間もあるので部屋でシミュレートでもしておこう。
さて、集合は山だからな。そろそろ出発しようかな。持ち物はいらないだろう。
居間を横切るときに遊びに行くことを告げ家を出た。
今日は……涼しいな。
朝から降っていた雨はもう止んでいるが、空はまだ曇っている。薄暗い街をすり抜ける様に、俺は早足で山へ向かった。
山のふもとまで到着だ。途中時計を見たけど多分十分前には到着するだろう。みんなは到着しているだろうか。
山を登り、分岐点まで来て左に折れる。林を抜けてベースがある領域に到着するとなにやら声が聞こえてきた。
「……というわけでナオくんにはこれね! 小さいけど攻撃力は俺の次に高いから!」
「あ、ああ。ありがとうな……」
どうやらタクヤから伝説の武器の授与式が行われていたようだ。あのナイフ――ただの枝だけど、あれの攻撃力がそんなに高いんじゃノブも板きれの立場がないじゃんか。ま、いいか。俺のムラマサはどこいったっけな。
「あ、ユウキくん」
「おう、タクヤとエイコとナオだけか」
「ちーちゃんもきてるよー」
奥からエイコの声が飛んできた。
「うん。あとは来てないのはトモヒロくんとノブくんだね」
エイコとちーちゃんはソファーに腰掛けて、スティックをプラプラともてあそびながらなにやら話をしている。
ナオは授かったナイフをまじまじと眺めているようだ。なんだろうこの空気、手持ち無沙汰だ。早くみんな集合しないかなあ。
「よー、みなさんお集まりのようで」
俺も暇を持て余し、そこらへんに転がっていたムラマサを拾い上げふりまわしていると、ようやくトモヒロとノブがやってきた。
「二人そろって登場だな」
「ああ、途中で合流してな」
「じゃあそろったな。ぼちぼち始めるか」
「あ、その前にはい、トモヒロくんの。あと……っしょ、と。はい、ノブくんの」
タクヤがトモヒロに長い棒切れを、ノブに板切れを渡す。
「……おい、待て。おめぇまさかこれ持って行動しろっていうのか?」
ノブがタクヤに食ってかかる。当然だ。俺でもそうする。しかしタクヤは意に返さないようで首を傾げている。
「はあ……。分かった。五分だ。五分間お前がこの板を両手で頭の上に掲げていられたら持って行く。ただし、板がお前の頭に当たるか、もしくは頭より下に下がったらこの板は置いて行く」
タクヤはまだ理解できないようで板を受け取るとトモヒロの合図でそれを持ち上げる。
あ、その前にしっかりと俺とトモヒロの分も変更出来ることを条件に加えておく。
「じゃあ、じっと待ってても仕方ないから話を続けるぞ。今から神社へ向かう。神社に到着したら、午前中に聞いた話を参考にしつつ、ふもとからじっくり見て行こう。本殿の裏に着いたら奥に続く道をみんなで探して、見つかり次第突入する」
そこまで話して周りを見渡すが特に質問などもなさそうだ。タクヤは少し震えながら話を聞いている。
「特に異論がなけれが出発の準備をしよう」
エイコとちーちゃんは枝を、ナオも二人よりは太くしっかりした枝を拾い上げる。俺らはタクヤ待ちだったが、結論としては俺とトモヒロもナオと同じくらいの枝に落ち着いた。一つ想定外だったのは、ノブはトモヒロに授けられた双剣のうちの一振り、短い方を選択した。
「まあ、向こうでなにがあるかわからねえしな。こんなもんでも役に立つかも知らねえな」
だそうだ。それに気を良くしたのか、タクヤも手に持っていた枝を捨ててエクスカリバーを拾いなおしていた。
何はともあれ準備は整ったので出発だ。
俺たちは足早に神社へ向かった。




