聞き込み
ふもとのところでノブ達と別れ、俺たちは街方面に向かう。
「聞き込みって言っても、どこに行くんだ?」
「ああ、ちょうど考えてたところだ」
新しい話に手を広げるつもりはない。これ以上はまとめるのが面倒だからな。
「この地にまつわる伝承とかでしょ~。やっぱお年寄りの方達がいいのかな」
エイコの言う通りだな。失踪事件も十二年前とかだったしな。
「そうだなあ。そこらへんの家にいきなりピンポンして聞くってのもなあ」
「ん? それでいいんじゃねーか。忙しければ向こうから断わるだろーしな」
「トモヒロは全然動じないな……。まあそれは最終手段かな。どっか人の集まるところとかないかな」
「公園とかかー?」
「このめっちゃ暑い中で?」
トモヒロの意見にエイコが即ツッコむ
「……公民館でなんかイベントやってないかな」
「おー、やってるかもな。行ってみよーぜ」
ちーちゃんの提案で公民館に行ってみる事にする。
公民館は神社より北のほうに十五分くらい行ったところにある。公民館の中にも小さな図書室があるので俺たちはこっちをよく利用している。
そうだ、あの本こっちの図書室にもないかな。着いたら探してみよう。
俺たちは学校を通過し神社の先の道を右に曲がり、しばらくして公民館に到着した。
時計を見れば三時前。今日は何かイベントがないか確認する為、公民館の予定が書いてある黒板の方へ向かう。
「お、やってんじゃーん。茶道教室に短歌の会。三時までと四時までだ。ここに居れば話が聞けるかも知んねーぞ」
だいたいこういう教室が終わると参加者はこのラウンジで小一時間ほどお茶してるんだ。
図書館も目の前だし、夏休みの宿題だって言ってペンとノート持って話を聞きに行けばぞんざいな扱いは受けないだろう。
「いいな、じゃあラウンジで待ってようぜ。ちょっと俺はここの図書室にあの本がないか見てくるわ。エイコ、手伝ってくれよ」
「う、うん、いいよ」
俺はエイコを誘って図書館に入った。
時間もそんなに無いから急ごう。
「じゃあ二手に分かれて探そう。見つからなければそれでもいいし、さーっと見る感じで」
「うん。ね、ユウキ。なんでトモヒロじゃなくてあたしだったの?」
「ん? トモヒロだと本の表紙どころかタイトルすら覚えてねーよ、とか言いそうだからな」
「あ、そう」
エイコは納得したのか、そそくさと本を探しに行った。俺も早く探そう。逆側から行くか。
それから十分ほど探したけど結局見つからなかったので二人でラウンジに戻る事にした。
ラウンジに戻るとすでに茶道教室は終わっていたようで、七人くらいのおばさんたちが談笑していた。俺たちの親よりは、はるかに上の世代だな。
どうやらその輪の中にトモヒロも加わっているようだ。
「お、おー来た来た。来ましたよ、アレが我らが調査隊隊長です」
俺の事か、拍手はやめろ。
「トモヒロ、なんだよ調査隊って」
「おめーが来る前にアポ取っておいてやったんだよ。できた隊員だろ」
本当にな。よくやったよ特攻隊員。
「えーと、じゃあすみません。ちょっとお話を聞かせていただきたいんですけど。実は僕たち、夏休みの宿題でこの地にまつわる伝承を調べてるんですけど、四つのエピソードに行き当たりまして、それらについて知ってる事があれば教えて欲しいなと」
「あらあら、夏休みも始まったばかりなのに、もう自由研究だなんてうちのも見習って欲しいわねえ」
「本当に、うちなんか毎年最終日まで残して、結局私たちが手伝うはめになっちゃうんだもの」
おおー、なんか話に花が咲いてしまって、見事に相手にされない。
「ご協力願えますか?」
トモヒロの一声でみんなの意識がまたこっちに向いた。
「ええ、いいわよ。知ってる事ならね」
「ごめんなさい、私はそろそろお買い物に行かないと」
「ええ、もちろんです。お手をわずらわせてすみません」
トモヒロの台詞に、よくできた子ね、と世辞をいい残して四人が帰ってしまった。残った三人の人に話を聞くことにする。
「一つ目は、この町の北の川にまつわる話です。今は、土手が大きく盛られていますが、その昔この川にはヘビの神様が宿っていて川にゴミを捨てたりすると怒って氾濫させていたとか」
そんなかんじの話だったな、辞典に載っていたのは。場所的には例の心霊スポットと重なるし何か関連があるのかもしれないけど、ここは現地にも行くつもりはないし適当でいいだろう。
「あー、確かに昔はしょっちゅう溢れてたわねえ」
「私が小さい頃も、確かあれは小学二年の時だったかなあ……」
溢れてたらしい。それからおばさんの幼少期のエピソードが始まったけどあまり関係なかった。
しかし、そんなに昔の事をよく覚えているもんだ。俺なんか三日前に食べた夕食すら定かじゃないってのに。
ともかく、ヘビの神様について真偽は定かじゃないけど昔は氾濫していた。十分だ。
あとはいつ起きたか、ネットかなんかで調べて年表みたいにまとめればいいだろう。
「……ありがとうございます。次のお話いいですか? 二つ目は、学校の裏の方にある沼についてなんですが、あそこには河童が出るとか」
「あの沼ねえ……。確かに昔から事故が多いわ」
「そうね、確か二十年前も……。そういえば私が子供の頃もその沼でちょっとしたさわぎになった事があったのよ」
「ああ~、あったかも~」
またもやお花が咲いてしまったようだ。でも今度は少し興味深い話だぞ。
おばさんたちは話を続ける。
俺たちは誰も口を挟まずに黙って聞く。
「隣のクラスの男子たちが沼の周りで遊んでたらしいのよ。かくれんぼだかなんかしてね。それで日も暮れてそろそろ終わろうかってなって、集合したそうなの。そしたらね……どうなったと思う?」
「えー、一人足りないとかあ?」
「うんうん、そう思うわよね。でも違ったそうよ。人数は合ってるんだけど、一人ずぶ濡れでね。それなのに平然としてたんだって」
「川に落ちちゃったの?」
「さあね、聞いても答えなかったそうよ」
「……」
「……」
「ええ~、オチなし~?」
「まあ、現実はそんなもんよ。ただその子、カナヅチだったんだけどその後スイスイ泳げるようになったくらいかな」
「なにそれ。河童と入れ替わっちゃったんじゃないの~」
なんともいえない話だけど、脚色してエピソードの一つとして報告に載せてみてもいいかもな。
「そんな事よりあんたたち、その沼に行くつもりなの?」
「え、あ、はい」
俺は不意に変わったおばさんの雰囲気に気圧され、とまどいつつも答える。
「今は沼に柵も張られてるからそうそう落ちたりしないだろうけど、近寄っちゃダメよ。本当なら行くのもよしたほうがいい」
「そうね、特に夜になると真っ暗になるからね。夜の水の中ってあなたたちは知ってるかしら。本当に何も見えないって。自分が今、上を向いているのか下を向いているのかすら分からなくなる……って聞くわ」
「上も下もって、息を吐けばどっちに泡が移動するかわかるじゃんなー」
「それすら見えないんだろうよ。そもそもパニクってそんな事できないんだろ」
俺はすぐにフォローしたつもりだったが、トモヒロの言葉が気に入らなかったのか。水災がどれほど恐ろしいことなのかを体験談を豊富に織り交ぜながら嫌という程聞かされた。
ひとしきり話し終えたところで、おばさんたちは満足したのか帰って行ってしまった。
「はー、まったく。何かしらねーけど怒られた気分だぜ」
「本当にだよ! 俺らが何をしたってんだよな」
トモヒロとタクヤはご立腹だ。
「トモヒロのがちょっと失言だったかもな。まあ、次はもっといい話が聞けるって」
なだめる俺の言葉をよそに、タクヤは全く納得いっていないようだ。
「もうやだよ! 遊びにいこーぜ!」
「そうだな。なあユウキ、行ってみよーぜ」
「どこにだよ」
「どこにって、決まってんだろー」
なんだか嫌な予感がする。
「川だよ」




