準備
図書館に併設されている食堂。
軽食や比較的ガッツリと定食もある。でも飲食はここだけで、図書館の方には持ち込み禁止、食べながら本を読むことも禁止だ。
きっとこぼした奴がいたんだな……。
「僕は……サンドイッチとコーヒーにする」
ナオはそそくさと決めて入って行ってしまった。
「あたしもそれにするー」
エイコもそれに続く。
「俺はハンバーグ定食にするぜー」
しまった。タクヤにとられてしまった……
「俺は……そばでいいや」
トモヒロのチョイスはシブい……
あ、取り残された。みんな決めるの早いよ……。やばいぞ、早く決めないと。
うーんうーん、この間ナオはとんかつ食ったって言ってたな。……よし、カツ丼にしよ。
俺もみんなの後を追い店に入る。
ここは初めて入ったけど、食券式のようだ。
今ちょうどタクヤがエイコからお金を受け取って券を買ってるところだった。
トモヒロも買い終えたところで俺の番だ。
こういう初めて触れる機械は少し緊張するぜ。だけどそれも杞憂に終わり間違えることなく食券を買えた。
余裕が出来たところで食堂を見渡す。なかなか広いな。六人掛けの机が十一個も並んでる。けれど、他の お客さんは居ないようだな。
券と引き換えにカツ丼を受け取り、みんなが先に座ってる席へと向かう。
「いただきまーす」
おお、このカツ丼はなかなか美味そうだ。このカツが……。
「それじゃあ食べながらでいいから軽く現状報告と行こうか」
あ、うん。カツ丼のレビューをしてる場合じゃなさそうだ。あ、うまい。
そしてナオは続ける。
「午後からちゃんと、ベース組と情報交換しないといけないから、こっちで分かったことをまとめて、午後の動き方も少し考えておこう。じゃあユウキ、頼むぞ」
ナオはそう言うと、サンドイッチに手を伸ばした。
俺が進行するのかよ。
「しょうがないな。じゃあタクヤはついてこれないかもしれないが、パッパッと行くぞ。
お前には午後に合流したらちゃんと説明するからな」
「うん。わかったわかった」
こいつはもうハンバーグに夢中なようだ。ほっておこう。
「トモヒロとエイコの状況は把握している。ナオもいいよな」
コーヒーを飲みながら頷いている。
「よし、じゃあ2人に俺たちの成果を話そう」
俺は失踪事件と廃神社の話を伝えた。
話が終わる頃にはみんな食べ終わり、食器も下げた。
「あの神社にそんなとこがあったのかよ!」
「ね! いっつも行ってたのに全然気がつかないなんて!」
「こいつは行かざるをえねえだろー!」
廃神社は予想通りの反響だ。
「失踪事件はつまり何も分かってねーって事な」
まあ、要約するとそういう事だな。
そんなにがっかりするなよ、ナオ。
「じゃあ一時半に山集合だから一時過ぎまで休憩だ。タクヤ、ちーちゃんに連絡は取ったのか?」
「あー忘れてた」
「おい……。今すぐ連絡してやれ」
「しょーがねーやつだな、わかったよ」
「あ、おい。それ俺の時計じゃねーか?」
席を立とうと、机についたタクヤの腕を指差しながらトモヒロは言った。
「そうだった。ノブくんから返すようにって預かったんだった」
しょーがねーやつはお前だな。
まあいい、みんなは各々席を立ち去って行くが、ナオはさっきの本の続きを読むのかな。読まないんなら俺が読みたいんだが……。
「ユウキ、ちょっと」
お、ちょうどいい。そっちから声がかかるとは。
「どうした?」
「午後は街に出る予定だよな」
「そうだな、それと山と図書館でも作業が残ってたら班わけするつもりだったが……図書館はもう十分だろ」
「それなんだけど、僕は図書館に残ろうと思ってるんだ」
なに、もう十分だろう。まだネタを探すつもりか?
「失踪事件とこの辞典に関連がないか調べてみようと思ってね。ほら、司書さんから聞いた話でも山に関わる点があったろう。ユウキが見つけたブログも山だったし」
失踪事件が不評だったのが相当こたえているようだな、わかったわかった、やらせてやろう。
まあ、冗談は置いといても、確かに理にかなう。街に行くにも人数が多すぎると面倒だしこっちにある程度置いておいてもいいかも。
「そうだな、ベースの方はもういいだろうし、街と図書館で班わけといくか」
「うん、それで僕はこのまますぐに調べようと思う。午後の班わけと街の方は任せて大丈夫かい? 図書館組はこっちによこしてくれれば面倒見ておくよ」
あ、そういうことね。山には行かずにこのままここに残ると。
まあその方が合理的ではあるし、……ちょっとずるい気もするけど。
でも図書館組の意図は把握した。
「わかった。なら遠慮なく希望するやつを送るぞ」
「うん、それでいいよ。あと、君たちは街の方に戻るわけだろう。どうする? また夕方に集合するかい」
「あーそうだな……そのまま解散して、明日確認でもいいか」
「うん、その方がいいだろう。じゃあ明日の集合場所だけ聞いておきたいな」
明日か……多分廃神社に行くか、もしくはまだ情報収集か……。
いずれにせよこっちまでくる必要はないだろうな。
「神社のベース集合だな。時間は今日と同じでいいだろう」
「わかった。神社に9時半だね。いい情報を持っていけるようにがんばるよ」
「あ、それならさ。午後の時間まで辞典見せてくれよ。街に調査に行くのにそこらへんのことを知っておきたいし」
その言葉にナオは納得し、辞典をわたしてくれた。
俺は時間が来るまでのあいだ、四つのエピソードを読むことにした。
四つのエピソードを速攻で二回ずつ読み頭に叩き込んだところで時計を確認するとすでに一時を回っていた。
辞典をナオにわたしてみんなに声をかけ、山へと向かうことにする。
図書館を出ると日差しが容赦なく降り注いでくる。
涼しいところにいたからすっかり忘れていた……。ナオがうらめしい。
これは図書館組、人気かな。
みんなで他愛もない会話を交わしながら山へと向かって歩く。
道中、誰とも遭遇する事なく山のふもとへ到着した。
「トモヒロ、今何時だ?」
「んー、一時……二十五分」
ちょっと遅れるくらいだな。多分ちーちゃんはすでに到着している頃だろう。
「少し急ごうか」
俺はみんなを急かし、少し早いペースで向かった。
登山道の分岐に到着する。
こちらから伺ってもベースの方に人気は感じられない。
といってもこっちからは何もわからないんだよな。
脇道に入り林を抜けると、ベースにはノブと、えっと……シスターだっけ、とニート、ちーちゃんもいた。
「おう、遅かったな」
「悪い悪い、普通にきたつもりだったんだが、図書館からここへの時間を見誤ったかも」
「ま、いいけどよ。それで図書館の方はどうだったんだ」
「ああ、色々と情報が入った。まずは情報交換だな。こっちの話も聞かせてくれ」
「よっしゃあ! ようやくお披露目するときが来たようだな!」
後ろを歩いていたタクヤが待ってましたと言わんばかりに、飛び跳ねるようにベースの裏に走っていった。
あ、タクヤじゃなかった、スミスだった。
スミスは両手にいっぱいの木の枝を持って戻ってくる。
「へへへ、ジャーン! こいつが俺の見立てた伝説の武器たちだ」
「おう! いいぞー! スミスー!」
「スミス……?」
あ、ちーちゃんは居なかったな。ナオが3人にあだ名をつけていたことを教えてやる。
「ふーん……」
冷めた反応だった。あまり興味はなかったかな。
「そしてこれが……! ってユウキくん! ちゃんと聞いてる!?」
「えっ、あ、うん。聞いてるぞ」
「そう? ならいいけど。そしてこれがユウキくん専用武器! その名も……」
……なんだ、溜めてくるな。
「妖刀! 真・まさむね終式」
ガーン、妖刀。そしてまさむね最終形態って感じだな。
見ると結構長い木の枝だ。とりあえず受け取ろう……って重いよ。地面に立てると胸まで高さもあるし。
「あ、ありがとう。さすがスミス……」
周りを見るとトモヒロは二本の枝を振り回している。軽そうでいいなぁ。
腕を組んで木に寄りかかっているノブのあしもとにはでかい板が一枚。
あれは持てませんわ。
スミス自身の武器も用意していたみたいで、名を「聖剣・エクスカリバー」だって。
名前も普通だし、むしろそれなりにかっこいいし、なにより他のやつより持ちやすそうで振り回しやすそうだ。一番いいやつを自分用に確保したなあいつ。
あとはナオのナイフと、エイコ、ちーちゃん、プリースト、そう、シスターじゃなかった。それにニートはナイフよりちょっと長い枝っきれだ。それらは刃物ではなく、魔法使い用の杖だそうで、ニートは不満そうだった。
これでスミスのお披露目会は終わった。次はプリーストの番か……。
ある程度時間がかかる事を覚悟はしていたが、こちらは比較的あっさりと終わった。
人数分の全回復の葉と、復活の葉、どくけしそうの三枚ずつの配布だった。
これは行きがけにアドバイスしていたナオのファインプレーだな。
最後にニートだが、ベースの中は何も変わってなかった。
なんでも敵や獣がベースに入らないように見張りをしていたらしい。
よくやった、と褒めておく。
ノブが俺は何もできなかったと報告し、ニートたちに役立たず呼ばわりされていたが、それはもうお察しだ。ご苦労だった。
山組の報告が終わったので、続いて図書館組の話を始める。
ナオが失踪事件について、俺がその詳細と廃神社についてを調べたこと。
トモヒロとエイコは司書さんから本を紹介してもらい、この地に関わる四つのエピソードが存在していること。
そして、午後はそれらについて街で聞き込み班と図書館でさらに調べる班に分かれ行動をする事を説明した。
「すげぇな、こっちで遊んでるうちにそっちではちゃんとやる事やってたんだな」
「ちょっと、遊んでるってどういうこと?」
ノブがタクヤたち三人に突っ込まれてる。珍しい光景だ。
「ああ、悪い。言葉を間違えた」
「それじゃあ班わけとするかー」
全然悪びれないノブの謝罪にトモヒロが言葉をかぶせて流れを強引に変える。
「んじゃあ、街に聞き込みに行きたい人~」
手を挙げたのはトモヒロにエイコ、タクヤ、ちーちゃんだった。
またもノブ達は別行動のようだ。
「午前中は外だったからな、午後は室内で休ませてもらうわ」
ああ、ちょうどそういう組み分けになったか、タクヤは別として。しかし、戦力であるノブをうまく活用できていない葛藤を覚えるな。
仕方ないか。
「オッケー、じゃあ決まりだな。図書館の方はナオがいるから指示を仰いでくれ」
「ん、わかった。じゃあ行くぞ」
ノブの号令で俺たちは山を降りる事にした。




