#1 はじまり
ふと、目を覚ました。彼がこの世界に来てから最初の朝だ。
彼にとっては見慣れた部屋、のはずだった。家具の位置もベッドの位置も、寸分の狂いもなく、彼の普段のものと変わりなかった。
しかし、その中身はまるで違った。ましてや、彼の視界には今までに見たことのない存在が入っていたのだ。
ベッドから半身を起こす。隣で未だに眠り続けているその少女に目を向ける。とても愛嬌のある顔立ちであり、その姿は小動物を連想させる。腰まで伸びるロングヘアもそうだが、服装も可愛らしい桃色のパジャマであり、そういった外見がさらに彼女の可愛らしさに拍車をかけていた。上半身を起こした彼に離すものかと抱きつくのだから、これ以上のものはない。
「ほら、離してくれよ」
彼が彼女を引き離そうと試みるが、全くもって動かない。もしや起きているのではないかと、てこでも動かないほどにしがみついたままだった。
もしも彼女が彼にとって赤の他人であったなら、彼はここまで冷静ではいられなかったであろう。暴走していたことが容易に想像できる。しかしそうならないのは―――――彼女が彼と同一人物であるからだ。
***
さて、これは彼がとち狂って彼女が自分と同一人物であると断定しているわけではない。彼が妄想の世界に囚われてしまっているわけでもない。
彼の名前は高坂歩、今年で十七歳となり高校二年生へと進級した。ではなぜ彼は、自身と彼女が同一人物であると断定できたのか。
世の中にはこんな言葉がある。
―――――パラレルワールド
平行世界、平行宇宙、または平行時空とも呼ばれるものであり、そんな世界に歩は飛ばされてしまった。文字通り、平行に存在する世界であるのだから、彼が元いた世界との違いはぱっと見ただけでは全くわからないものだった。見つけられたとしても、「こんなもんだったかな」と流してしまうほどの違和感のみであろう。もっとも、気がつく者は気がつくのだろうが。
しかし、唯一彼が元いた世界との決定的な差異が見つけられた。それが、彼が住んでいる家であった。同じベッドで寝ていた彼女が最も良い例だろう。元の世界では彼女は存在していなかった。ゆえに部屋の内装が女の子らしいものとなっているが、これも大きな相違点の一つであった。
彼の隣で眠っていた少女がピクリと体を震わせ、目を開く。彼を見るなり驚いた素振りを見せたが、すぐに思い出したようで納得した顔をした。
「おはようございます」
彼女がほにゃりと柔らかい笑みで挨拶をする。そんな表情の彼女を見るなり、歩は一つため息を吐いた。「こいつが自分じゃなければ、素直に可愛いやつだと思えたのに」と。
「……ああ。おはよう」
なんてぶっきらぼうに返答してしまったことに歩は自己嫌悪を抱いた。そんな返答をしてしまってさえも、彼女は微笑を崩さないままなのだから居心地が悪く感じた。
「どうしてこうなったんだ……」
意識せず、そんな言葉が口から零れた。
拙作を読んでいただきありがとうございます。同一CPといったジャンルなのでかなり特殊な作品かなと思いますが楽しんでもらえたら幸いです。
また、かなり改稿しました。だいぶ前のものと変わったかなぁ、と。急な変更をしてしまい申しわけありませんでした。