石丸順子
学は、そのうち家に帰ってきてくれなくなったのです。
私は一生懸命学を探しました。何か事故に巻き込まれたのではないかと、心配でたまりませんでした。
しかし、探しているうちに、私のこれまで生きてきた人生、辛かった記憶が鮮明に思い出されて、そのうちに、やっぱり私はそういう運命なんだ、いつだって私は誰からも必要とされず、捨てられてしまうのだと。
学だけは違う、学だけは私をそんな風にして裏切らないと思っていましたが、私の過去が私は捨てられる運命なのだという思考回路を作ってしまっている以上、それを否定することが難しく、また私はそれでも愛されているのだからと言う風には、到底思えなかったのです。
それから、私は探すのをやめました。
誰かをさがすという行為自体が、私を苦しめるから、探すなんていう事は身体が拒絶反応を起こしてしまう。
しかし、人の温かさ温もりを知ってしまった私は、一人で家にいるということが辛くてたまりませんでした。
一人でいると、どうしても冷たい暗闇に自分の心を向かわせるようで、苦しい。
そんな時に出会ったのが、シーズーのリングです。
リングという名前を付けたのは、学の代わりに指輪という存在が傍にいてくれているようにとそんな事を思ってつけました。
学の結婚指輪をはめている姿が私は好きでしたから、代わりにと言ってはリングに申し訳ないのですが、そんな気持ちでつけた名前です。
学がいなくなってから、お姑さんは学が遊びに来てくれないからなのか、学が消えて半年後に亡くなってしまいました。
寂しかったのだと思います。いくら今日の事が分からないようでも、学が会いにいくと笑顔を見せていましたので、学の事を表面上では忘れていても、心の奥深くで息子として刻み込まれているのではないだろうか、そういう風に思いました。