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すり替え  作者: 大和香織子
第二章 自白
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石丸順子2

 石丸順子 2


 刑務所を出てから、私はすぐに会いにいきました。


 母が書いた手紙を何度も何度も、手紙がすりきれそうな程に繰り返して読みました。


 そして、この目で真実を確かめに行きました。手紙に書いてある住所を見た時、私はその住所、番地、マンション名を知っていました。

 それは私が清掃会社で働いていた時のマンションでした。


 そして、ドキドキしながらインターホンを鳴らしました。しかし、誰もでてこないので、同封されていた鍵を回して中に入りました。とても緊張しました。


 そこにいるおばあさんは疲れたのか、こたつの中で寝ていました。しばらく眺めていると起き上がって私の顔をみて驚いていました。

そして「まぁよく来たねえ」と言いました。


「日比ヨネコさんですか」唾をゴクリと飲んでそう聞きました。

「うん」そういっておばあさんは頷きました。ニッコリとしていました。


  それから私は溢れ出る涙を手で拭いながら、電話の横に立てかけてある介護日誌を開いて、名前と顔が一致するのを確認しました。


 そのおばあさんは、家まで送り届けてあげたり、直美ちゃんが殺害された日にタクシーに乗せて買い物に行ったあの認知症のおばあさんでした。私の中で色々な事が、バラバラだったパズルのピースが一つまた一つと一つの大きな物になるように繋がっていきました。


 直美ちゃんを殺害したと言ったあの日、直美ちゃんとは本当に偶然に会いましたが、私は直美の為ではなく林檎が食べたいと言った母の為にスーパーに向かったのです。


 いつものスーパーでは、その日、林檎はおいてありませんでしたから、それで隣町まで買いに行ったと言うわけです。


おばあちゃんが気分が悪くなったと言うのも、あれは本当の事でした。タクシーの方からもお聞きだと思いますが、それが後遺症のせいだということまでは、全く知りませんでしたが。


 私は、誰かの世話をやくよなタイプではないのに、どういうわけか、あのおばあさんの事だけは、放っておくことができませんでした。どうしてだろう?と考えたりしていましたが、まさかそれが、血の繋がった母親だったからだとは気が付きませんでした。


「お母さん」そういうと、母は大粒の涙を流しました。ずっとお母さんって読んでみたかった。


 母は認知症が入っていますから、私の事なんて分からないだろうに、母は、うんうんと頷きながら泣いたのです。


きっと、認知症がいくら記憶を消していく病気だとしても、心の中の大切な記憶までは消せないんじゃないかってそうやって思います。


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