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とはのちかひを  作者: 173
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第伍話

 第五話、エピローグです。




 宿舎に着いた息子を、担当の役人が迎え入れました。


 「御疲れさん。訓練は明日から。時刻は厳守だ」


 「あ……はい」


 呆然としていた息子は返事が多少遅れてしまいました。

 其れに気付いた役人は口の端を持ち上げて訊ねます。


 「どうした。残して来た女の事でも考えてるのか」


 「えェ、まァ……そんな所ですかね」


 息子が苦笑してそう答えると、役人は表情から笑みを消しました。


 「だとしたら、必ず生きて帰れよ」


 役人の豹変振りに、息子は対応が遅れてしまいました。

 其れを気にする事も無く役人は続けます。


 「私が言うのも何だが……此の戦争は近い内に終わる。負け戦で、だ」


 「良いんですか、そんな事言って」


 呆れた息子は、ついそう問うてしまいました。


 「良い訳無かろう。でもな、こんな馬鹿な事で命を落とすんじゃないぞ」


 「本当、御役人の言葉とは思えませんね」


 何処か楽しそうに息子は言いました。


 「放っておけ。まァ、御互いしぶとく生き残ろうや」


 「御互いに、ですね」


 「御互いに、だ」


 そう言って役人は立ち去ろうとしました。

 ですが、ふと思い出した様に、息子へ振り返ります。


 「お前さん、其の女には何て言って出て来たんだ?」


 何と言おうか少し迷って視線を落とし、息子は口を開きます。


 「何も言っていません。唯、」


 「唯、何だ?」


 問われ、息子は下げていた顔を役人へと向けました。


 「本を、渡して来ました」






 泣き崩れる恋人の傍らに、一冊の詩集が落ちています。

 良く見ると、頁の所々、幾ツかの文字が丸で囲んであります。

 囲まれた文字を順に追って行くと、其れは意味を為し始めました。


 即ち、


「       」


 と。


 其れに恋人が気付いたのは、もう少し後の事でした。






 戦争が終わったのは、更に、もう少し後の事でした。






―了―

 此処までの御付き合い、本当に有難う御座いました。


 本稿はラジオドラマの台本として作り上げたものを、小説として改稿したものです。

 時代や世界を限定せず「戦争」と言うものを描いてみたつもりです。

 結果として極めて地味な、盛り上がりも目新しさも無い物語として仕上がりました――が、私個人としては満足しております。


 斯様な自慰的文章に御付き合い下さりまして、感謝の念に絶えません。

 今後とも宜しく頂ければ、幸福の極みであります。

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