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不思議の国のアリス?

作者: ほの基地

 作者は不思議の国のアリスをそこまで詳しく知りません。そこを踏まえてお読みください。

 中学生。それは人生で最も愚かで、最も楽しい時である。

 しかし、伏木野 有栖という女子中学生は退屈していた。放課後、ワクワクの広がる帰り道で石を蹴って口を尖らせるほど退屈していた。

 有栖は一人で帰路に着いていた。彼女にはもちろん友人がいるが、友人たちはみんな部活で忙しいのだ。

 帰宅部の有栖は必然的に一人で家に帰ることとなる。


 有栖がなぜ部活動をやらないかと言えば、それはどうにも退屈で、人間関係が面倒くさいからだ。

 彼女は常々自分が天才だと思っている。有栖は中学二年生という中学生の中でもトップクラスにアホになる時期だが、彼女の妄想は現実だった。

 有栖はやれば何でもできた。運動でも勉強でも、その恵まれた容姿から恋人だって選びたい放題だろう。

 だからこそ、彼女は退屈なのだ。


「何か面白いこと、ないかなあ……」


 一人そう呟く彼女は、周囲を見回してガックリと溜息を吐いた。

 面白いことなんて転がっていない。急に中学校を占拠するテロリストも、謎の宇宙人も存在しないのだ。

 そう思って有栖が顔を上げると、彼女の目の前を兎が横切った。ただの兎なら、どこかのペットが逃げ出したのかと鼻を鳴らすかもしれないが、この時ばかりは有栖も声を上げて飛び跳ねていた。


「う、兎のぬいぐるみが歩いてる!!」


 そう、有栖の目の前を横切った兎はどこからどう見てもぬいぐるみ屋さんで売られているようなファンシーな姿だったのである。

 兎は有栖の声に気づき、ゆっくりと綿が詰まってそうな首を回した。


「僕の姿が、見えるのかい?」


 赤い目と、無表情なぬいぐるみの顔に恐怖を覚えて有栖が後ずさる。だが、恐怖も一瞬。

 すぐに有栖は微笑んで頷いた。


「ええ、ハッキリと見えるわ。あなたは一体なに?」

「僕は白兎のラブ。不思議の国から来たんだ」


 不思議の国。有栖はその言葉にどこか聞き覚えがあった。

 いまここにいるのは兎と“アリス”である。そう、これはまるで不思議の国のアリスではないか。


 面白い、これは実に面白いと、有栖は胸中を高鳴らせる。こんな面白いことがあっていいのかと、自分の強運を疑ったくらいだ。

 有栖が次はどんな質問を投げかけてやろうかと考えていると、不意に鐘の音が鳴った。

 おかしい。十七時のチャイムにはまだ早いはずだ。有栖がそう不思議に思っていると、兎のラブは耳をピクピクと動かして辺りを見回した。


「まずい、もう行かなきゃ。お姉さん、さようなら。これあげる」


 ラブは飴玉を有栖に投げて寄越した。それを有栖が慌ててキャッチするころには、既にラブは走り出していた。

 有栖は歯を音が鳴るほどに噛みしめてから口を開き、飴玉を放り込む。


「逃がさないわ!」


 陸上部のエースと互角に渡り合うほどの脚力を駆使してラブを追いかける。

 ラブはその短い足からは考えられないほどにすばしっこかった。ラブの背の小ささもあってか、有栖は追いかけるために周りが見えなくなるほどに集中していた。

 やがて、ラブは足を止める。急に停止した彼にぶつからないように有栖がブレーキをかけるが、勢い余って転んでしまった。有栖は尻を押さえて痛みを堪える。


「お姉さん、やっぱり来たね」


 ラブは振り返るとそう言った。

 彼はさっきまで無表情だったのが嘘みたいに表情豊かに、兎の顔のまま笑っていた。

 そして、有栖は周囲の景色が一片していることに気づく。


 真っ暗な空を照らすように光を放つのは飛行船か。有栖が目を凝らして見ると、それは鯨の形をしていた。驚くべきことに、時折口をパクパクと開いては光る潮を頭から吹いている。

 陸では馬が馬車を引いて走っていた。有栖は図鑑でさえ見たことがない珍しい馬の姿に目を丸くする。だってそれは、明らかにおもちゃのような外見だったのだから。


「ここは一体どこなの……」


 有栖は孤独感に襲われた。さっきまで咲いていた好奇心の花は急速に萎み、いまは恐怖が芽を出している。

 いつも自信満々で堂々としている有栖も、この異常な光景には尻込みしていた。


「ここは不思議の国だよ。ねえお姉さん、お名前は?」


 ラブは真剣な表情で有栖の顔を見つめる。真っ赤な眼差しに耐え切れなくて、有栖は目を逸らした。

 目を逸らしたまま、普段とは違うボソボソした声で自分の名を言う。


「伏木野……有栖」

「アリス……やっぱり、そうだったんだね」


 有栖の名を聞いて、ラブは一人で納得したようにうんうんと頷いた。


「君はアリスの後継者だったんだ。歓迎するよ、七代目アリス」

「……アリスの後継者? 七代目アリス?」


 わけのわからない世界でわけのわからないことを言われる。それがどれほどの恐怖か、わかるだろうか。

 有栖は正直、泣きたい気分だった。さっきまでの退屈でつまらない帰り道に戻りたいとさえ思った。

 そんな時、喧嘩っ早かった兄の言葉を思い出す。


――喧嘩でどうようもなくなったら、高笑いしてやるんだ。そうすりゃ気分も良くなるし、相手も怖気づく。


 アホだなあと思いながら聞いていた言葉だが、有栖はそれを不意に思い出していた。


「ハッハッハ、意味わかんない。何よそれ、七代目アリスってバカみたい」


 有栖は無理にでも声に出して笑ってみる。すると、幾分か気分も晴れた。

 七代目がなんだ。きっとそんなの、三代目のアイドルグループと大差ない。そんなわけのわからないことを考えていると、有栖はもっと楽になった。

 むしろ自分がアイドルにならないか、と誘われている気さえしてきた。こんなことで気分が良くなるなんて変わっているが、思春期の少女の気分なんて秋の空どころか課金ゲームのガチャガチャより気まぐれだ。


 色々と複雑だった有栖の胸中を気にせず、ラブは彼女の言葉に憤慨してぷんすかと怒った。白い毛並がほんのりと赤くなる。


「なんてことを言うんだ! アリスっていうのは、この国の女王の証なんだぞ!」


 さっきまで余裕のある喋り方だったというのに、ラブは子供のように癇癪を起こす。それが更に有栖に余裕を持たせた。

 それよりも、有栖は聞き捨てならないことを聞いた気がする。


「え、待って。私に女王になれって言うの?」


 ラブは確かに『アリスは女王の証』だと言った。

 芸能プロダクションの誘いどころか、一国の王になる誘いを受けていたのだ。有栖は驚きと歓喜で意識が飛びそうになる。

 それを見てラブが少しだけ勘違いをしたのか、声のトーンを落とした。


「もしかして、女王になるのは嫌なの?」

「うっ」


 瞳を潤ませて上目使いを使ってくるラブはなんというか、卑怯だった。有栖はその可愛さに一歩退き、思わず七代目アリスになることを承知しそうになる。

 だが、安請け合いは良くない。仮にも国を背負う立場なのだ。それに、上手い話には裏がある。


「その、七代目アリスになったらどうなるの? 女王様になるってだけ?」

「それだけじゃないよ! 初代アリスの魔力を受け継いで、ありとあらゆる魔法が使えるようになるんだ」


 またもこの兎は聞き捨てならないことを言った。中学生の誰もが憧れる言葉、魔法。そんなものが使えるなんてとんでもないことだ。

 有栖はちょっと本気で七代目アリスとかいうものになるか悩みだした。魔法が使えるなんて、友達にも自慢できそうだからだ。

 そこで彼女は、妥協案を作った。もしこの案が通れば、有栖は七代目アリスになることを引き受けようと思う。


「その魔法っていうのはあっちでも使えるのかしら? ほら、私が元いた――」

「元いた世界? 七代目アリスになったら、帰れないよ?」


 有栖はラブの言葉で固まった。

 そして、服の襟元を掴んで正してから、ふうと息を吐く。


「この話はなかったということで」

「え!? 七代目になってくれないの?」


 ラブは大袈裟に驚いて後ろに転んだ。

 有栖にとっては当たり前である。家族や友達がいる世界に未練タラタラの自分が、知らない国の女王なんてやるわけがない。有栖はそう考えながらも、少しだけ後悔していた。

 魔法なんて素敵なものを自ら手放すのは中学生には苦渋の決断である。


「な、ならない!」


 後悔を滲ませて有栖は叫んだ。


「えー、じゃあ仕方ない。この魔法陣で帰ってもらおう」


 そう言ってラブは地面にどこからともなく取り出した棒切れで絵を描き始めた。

 意外にも淡白な反応に、それを見た有栖が慌てて待ったをかける。


「ちょ、ちょっと待って! そんなあっさりと帰しちゃうの? そうだ、この国を観光した後じゃダメ?」


 有栖は早くもこのアホみたいな環境になれてきた自分に少しばかり驚いていた。それと同時に現れる好奇心。この不思議の国を、自分の目で見て回りたかった。

 ラブは怪訝な表情を浮かべて有栖を見るばかりで、地面に絵を描く手を止めない。有栖はそれを見て、話を続けた。


「ほら、この国を見たらもしかして心変わりしちゃったりするかもしれないし。この国いいなー、素晴らしいなーと思えば七代目アリスにも……」

「なるほど! それは良い案だ! よし、僕がこの国を案内しよう」


 ラブは棒切れを放り投げてそう言った。

 なんてチョロイやつ。そう思いつつも有栖は笑顔でお礼を言った。


「ありがと。よし、ラブ。君は案内係兼この国で初めてできた私の友達だ!」


 有栖がビシッと指を突きつけてそう言うと、ラブは固まった。

 何か変なことを言ったかと慌てる有栖を関せず、ラブは顔をだらしなく弛緩させて頭に手をやった。

 その理由はと言うと、


「と、友達かあ。そんなの初めてできたから照れちゃうなあ」


 このラブは意外にもぼっちだったのである。









 ラブの案内で有栖は国の中を進んだ。有栖に『友達』と言われたのが余程嬉しかったのか、ラブはノリノリで国を案内していた。


「ほら、ここがこの世界最大のお菓子工場だよ! ここから世界中にお菓子が配られるんだ」

「へー、すごいわね。それに、すっごい良い匂いするわ」


 有栖の目の前にある巨大な工場からはピンク色の煙が出ていた。そのせいかはわからないが、甘い香りが有栖の嗅覚を刺激する。

 そんな匂いを嗅いでしまうと、途端に甘いものが食べたくなるのが女の子だ。

 そわそわして有栖が周囲を眺めていると、一軒の店が目に入った。


「あの店……」

「ああ、有名なお菓子屋さんだね。入ってみる?」


 有栖は無言で頷き、そそくさとお菓子屋に入って行った。ラブも慌ててそれに続き、店の戸を開いた。

 中はオシャレなカフェテリアのような内装で、更に客がぬいぐるみたちということもあってかファンシーな雰囲気になっていた。

 不思議の国というよりは夢の国である。


 有栖たちが席に座ると、店員のぬいぐるみ(全長およそ二メートル)がメニューを渡してきた。

 くりくりとした可愛らしい目つきの店員を見上げながら、有栖はポカンと口をだらしなく開けていた。


「どうしたの、アリス?」

「ん? いや、本当に不思議の国なんだなあと思ってさ」


 有栖が店内を見回すと、多種多様な客がいる。ぬいぐるみ率が高いが、中にはブリキの兵隊やリアルな着せ替え人形風の人物もいる。

 見れば見るほど、不思議な光景だ。そんな中で自分は目の前にいる可愛らしい兎のぬいぐるみとお茶をしようと言うのだから、有栖も相当に不思議ちゃんである。


「じゃあこのおいしそうなパフェでも頼んじゃおうかしら……あ、そういえばお金がなかったわ」


 思い出したように有栖は手を叩く。日本円なら持っているのだが、不思議の国でそんな通貨が使えるとも思えない。

 有栖が期待したような目をラブに向けると、彼は胸を叩いて踏ん反り返った。


「任しといて、レディーに払わせるような真似なんてしないよ!」


 そう言って彼は自分の頭にちょこんと乗っているシルクハットを持ち上げた。ラブ的には男を見せたつもりだが、有栖はそんな彼の仕草が可愛くってしょうがなく、机に突っ伏して悶えた。

 有栖は顔を上げると人好きのする笑顔を浮かべた。


「ハハ、ありがとね」

「ふふん、友達だからね! これくらいはね!」


 やたらと友達を強調しながらラブは言う。彼があまりにもチョロすぎるので、有栖は彼の今後が心配になってきた。

 それはともかく、ようやく腰を落ち着けることができる場所に辿り着いたのだ。有栖はラブに質問したいことがいくつかあった。


「ねえ、ラブ。どうして七代目アリスを探していたの?」

「それは女王になってもらうためさ!」


 ラブは即答する。それはさっき聞いたのだ。有栖が聞いてるのはそういうことではない。

 有栖はもっとわかりやすく、年下の子を相手にする時を思い出しながら質問した。


「いまこの国には女王はいないの?」

「いるよ。ハートの女王っていうおばさんが女王になってる」


 女王をおばさん呼ばわりとは、肝の据わった兎である。有栖は童話で聞いたとおりだと思いながら、店員が持ってきたパフェを摘まんだ。


「そのハートの女王に七代目アリスを探せって言われたの?」

「え、違うよ?」


 ラブはキョトンとしながら答えた。てっきり女王を代わって欲しいとハートの女王が考えていると思っていたが、有栖の当ては外れた。

 となると、ラブが七代目アリスを探していた目的が掴めなくなる。


「じゃあ、なんで七代目アリスを探してたのよ?」

「それは女王になってもらうためさ!」


 有栖はラブの返答に頭痛を覚えて頭を押さえた。兎のくせに鳥頭か。有栖は呆れながら溜息を吐く。

 ならもっとわかりやすく、意図が伝わるように質問するだけである。


「なんで女王になって欲しいわけ?」

「えっ……」


 有栖がそう聞くと、ラブは答えに詰まった。目を少し見開いて、目玉を泳がせる。ラブは明らかに動揺していた。

 その反応を見て、頭の良い有栖は察する。彼はきっと、何も考えていなかったのだろう。ただ目的もなく七代目アリスを探していただけなのだ。


「誰かに言われたの? アリスを探して来いって」

「いや、違う……なんでだろう? でも、僕はアリスを見つけて来なくちゃいけないんだ! それは確かなんだけど……」


 ラブは自信がなくなったのか、目に見えて落ち込んでいる。まだ出会ってから付き合いの短い有栖だが、彼のそんな姿は見たくなかった。


「いまの女王に不満があったとか? ハートの女王って私も童話で聞いたことあるけど、嫌なヤツなんでしょ?」

「あ、確かに! あいつやな奴だよ! だって僕の顔に唾を吐いたり、気まぐれに国民を処刑したりするんだ!」


 ラブの私情が混じっていた気がするが、後半聞き捨てならない言葉を聞いた。有栖は思わずギョッとして、パフェのクリームをテーブルに落としてしまったくらいだ。


「しょ、処刑って、そんなとんでもないことするの!?」

「するよ! 僕がずっといた牢屋では、ライオンのぬいぐるみのシンさんとか、熊のぬいぐるみのマイケルがバラバラにされるって怯えてたもの!」


 有栖はまた聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。


「あ、あんた牢屋にいたの!?」

「え? うん、そうだよ。気づいたら城の外に出てたから、抜け出して来たんだ」


 ラブはあっさりと白状する。つまり、この人畜無害そうな白兎は脱獄者ということになるのだ。

 有栖はこんなところでパフェを食ってる場合じゃないと、周囲を警戒する。不思議の国に警察があるかはわからないが、見られたら事である。

 十分に周囲を見回した後、周りには呑気にお菓子を頬張るぬいぐるみしかいないことを確認して有栖は息を吐いた。


「あんた一体何をして牢屋に入れられたのよ?」

「わからない……僕は牢屋に入るの前のことは覚えてないんだ」


 ラブは悲しそうに言う。またもや厄介なことが発覚してしまった。


「まさか、記憶喪失……」


 よりによって、まさかである。この国の住人と聞いていたので信頼しきっていたが、ラブはまさかの記憶喪失者だったのである。

 話を聞いている限り、牢屋にいて自分に会いに来るまでしかラブの記憶はないことになる。


「犯罪者で、更に記憶喪失って……あんた厄介すぎるわよ」

「は、犯罪者じゃないよ! 女王が無理やり僕を牢に入れたんだ!」


 有栖の言葉に、ラブは憤慨した。可愛い兎顔をくしゃくしゃにして手をぶんぶん振って怒る。

 まったく怖くないが、可愛すぎるので有栖は頭を撫でて宥めた。


「わかったわかった。でも、牢に入れられた原因はわからないんでしょう?」

「うん……あ、でも! 確か、アリスを探しに行くって言ったら女王が怒ったような……怒らなかったような」


 自信なさ気にラブは言う。だが、なんとなく事情は掴めた。

 つまり、女王は代替わりしたくなかったのだろう。不思議の国にアリスが見つかったら女王に即位させる、みたいな法律があるのかはわからないが、似たようなルールはあるのかもしれない。

 だからこそ、ハートの女王はアリスを探そうとしていた白兎を牢に入れた。

 そこまでは有栖にもわかったのだが、結局ラブが七代目アリスを探していた理由まではわからなかった。


 思考に耽っていた有栖は、店内の喧騒によって現実に引き戻された。

 ギャーギャーと騒がしい店内の騒ぎの中心に目を向ける。そこでは、ぬいぐるみの熊が立ち上がってメンチを切っていた。


「おいこら、それは俺のショートケーキの苺だろうが。何パクッといってんだ? ああん?」

「てめーがもたもたしてっからだろ。いらねえのかと思って食っちまったよ」


 大きめのテーブル席に座っていた団体客のうちの二人(と表記するのが正しいのかはわからない)のぬいぐるみが、揉めているようだった。

 声は意外にも野太く、目を瞑れば厳つい男たちが面と向かっている光景が映し出されるほどだ。しかし、話している内容と姿が見合ってないせいでまったく怖くない。

 思考を中断されたこともあってか、有栖はその喧嘩を白い目で見ていた。さっきの二メートルを超す熊のぬいぐるみが止めに来るのを期待していたのだが、彼(彼女?)は店の隅でびくびくと震えていた。見た目の割に怖がりだったようだ。


「俺は好きな物は最後まで取っておく派なんだよォ!! てめぇの腕を引き千切って綿を口から詰めてやろうか!?」

「上等だ! テメエのその最近できたケツの縫い目解いてファックしてやるよ!!」


 ぬいぐるみの熊たちはどこからともなく武器を取り出して喚いた。ファンシーな熊だと思っていたが、持っているのはチェーンソーだ。どうやらファンキーな熊だったらしい。

 喋っている内容や取り出した物が物騒になってきたところで、有栖は立ち上がった。


「こら、みんな怯えているでしょうが! そんな物騒なもん仕舞いなさい!」


 有栖が大声でそう言うと、店内が水を打ったように静かになった。

 店にいたぬいぐるみやその他おもちゃたちの目が全て有栖に向く。放心して有栖を見つめる彼らは本当に心のないおもちゃのようだった。

 ひたすら続く沈黙に耐え切れず、有栖は冷や汗を掻く。


「あれ、何かまずいこと言った?」


 有栖が慌ててそう言うと、ぬいぐるみの熊たちは顔を見合わせて武器を仕舞った。


「いや、嬢ちゃんの言う通りだ。悪かったよ、今度はモンブランを頼むことにする」

「俺も悪かった。今度あの店のプリンを奢らせてくれ」


 彼らはお互いに握手を交わして和解した。指のない綿でできた丸い布を擦り合わせただけだが、あれは握手のつもりなのだろう。

 周りの客や店員もよかったよかったと頷いている。有栖も満足気だ。


 だが、そこで店員や客が有栖を見てヒソヒソ話を始めた。何を話しているのかが気になったが、聞き耳を立てても有栖には聞き取れなかった。

 そこで有栖は気づく。いままでまったく騒がれず、ラブも動じていなかったせいで忘れていた。

 有栖は人間、ここの住人達は程度の差はあれどおもちゃのような外見だ。

 つまり、めっちゃ浮いているのである。


「やばいかも!? ラブ、ここのお勘定任せるわ! 私外で待ってるから!」


 有栖は慌てて外に飛び出して行った。

 ラブはポカーンとしてそれを見送るが、すぐに我に返った。そして店員を呼んでお会計を済ませ、彼も慌てて店を出て行った。


 そして有栖たちがいなくなった店内で、客や店員の声が大きくなる。


「さっきの、びっくりしたな」

「ああ、驚いた。アリス様かと思った」


 俺も俺もと、店内で声が上がる。

 有栖たちはずっとあの席に座っていたのに、なぜ気がつかなかったのだろうかと客たちは布でできた首を捻った。







 会計を済ませて店から出てきたラブは、有栖の有様に驚いた。


「ごちになりました」

「アリス……その恰好は?」


 アリスは制服を頭の天辺まで被り、まるで全身タイツを被った時のように顔だけを出していた。制服の丈は当然足りず、おへそが見えているが色気はない。

 そんな奇想天外な恰好をしている有栖は人間というだけで浮いていたのに、更に存在が浮いていた。


「こうすればここの住人らしくなるでしょ?」

「……ならないよ。きっと新種の魔物だと思われて討伐されるよ」


 ラブはやや後ずさりながらそう言った。有栖のずれた感性がラブには理解できなかったようだ。それに、自分たちがそんな気味の悪い生物だと思われているのも心外である。


 有栖は服を元通りにすると、何かを決心したのか手を打ち鳴らした。


「よし、女王の城に行くわよ!」

「え、どうして!?」


 有栖の突然の決心にラブは動揺する。もしや、七代目アリスになってくれるのではという甘い考えも沸いた。


「アリスになるつもりがないって直接言いに行くのよ。そうすればあんたも女王に捕まったりしないでしょ?」

「アリス……」


 店内で聞いた話から推察するに、有栖が女王になる気さえなければハートの女王もラブを閉じ込めたりはしないはずだ。

 もしこのまま何も弁解せずに有栖が帰れば、ラブはまた牢屋に戻されてしまうかもしれない。

 ここでちゃんとハートの女王と話しておけば、ラブは捕らわれずに済むはずだ。

 そんな有栖の気持ちが伝わったのか、ラブも笑みを浮かべた。


「僕のために……アリス、ありがとう」

「いいのいいの。この国を案内してくれたお礼よ。それにほら、友達だしね」


 ニッと有栖は笑う。そして、ラブもニッコリと笑った。


 その時である。

 有栖たちの前に一台の馬車が止まった。そして馬車から、鎧をまとった騎士(中身はさておき)が降りてくる。

 騎士は有栖たちに丁寧な礼をすると、くぐもった声を出した。


「ハートの女王がお呼びです。こちらへ」


 礼を欠かさず、丁寧に馬車へ案内する騎士。

 都合が良かった。あっちから迎えに来るなんて良い度胸をしてる。負けず嫌いな有栖は不敵な笑みを浮かべて不安気なラブの手を取った。


「ふん、これで城まで行く手間が省けたってもんよ」

「で、でも、アリス、危険かもしれないよ?」


 馬車に乗り込み踏ん反り返る有栖に対して、ラブは不安そうに言った。

 有栖はラブのシルクハットを奪い、その隠れていた頭頂部を撫でる。


「なーに言ってんのよ。これから城に乗り込もうとしてたんだから、迎えに来てくれるなら好都合じゃないの。ほら、事情を説明したら帰るだけだから、心配しない!」


 有栖がシルクハットを乱暴に戻すと、ラブはむくれた。だが、彼の不安は多少晴れたようだった。

 そして、不意に馬車の扉が開かれる。


「お待たせしました。こちらです」

「え、もう着いたの!? 早!」


 馬車に乗って、扉が閉まってから一分も経っていない。有栖は疑わしい眼差しを騎士へと向けたが、騎士は何も言わなかった。

 しかし、外に出てみると一目瞭然である。見るからに『城』といった風体の建物が有栖の眼前に建っていたのだ。


「こちらです」


 安全とする有栖を尻目に、騎士は先を行く。正直馬車の原理を説明してもらいたかったが、有栖とラブは慌ててついて行った。


 大きな城門をくぐり、長い廊下を渡り、キラキラとした階段を上った先にまた大きな扉があった。

 騎士は扉の前で立ち止まり、手を差し出す。


「こちらが女王様のいる謁見場です」

「ほえー、意外と近場ね」


 もっと上がったり下ったり魔法を使ったりするのかと思っていたが、女王のいる場所は城を入ってすぐだった。

 扉が開かれると、これまた大きい部屋の全貌が現れる。無駄に明るいシャンデリアに、良質そうな生地で作られたカーペット。有栖は思わず靴が脱ぎたくなってしまった。


「女王様、お連れしました」


 有栖は女王の姿を見た。

 概ね想像通り、太ったおばさんという風体である。豪華そうなティアラと格式ばった服が嘆いている気がする。

 女王は高級そうな扇を取り出して扇ぎ始めた。やはり予想通り、上から目線な女王である。


「お前がアリス候補か」

「っ……」


 品定めするように観察されて頭に血が昇ったが、有栖はぐっとこらえた。

 まず何より、女王になる意思がないことを伝えなければならない。


「はい、そうらしいです。ですが、私は七代目アリスになるつもりは一切ありません。ですので、女王になるつもりもありません」

「ほう」


 有栖は正直に、女王の目を見て答えた。

 女王は有栖をジッと見つめていたが、やがて扇をぴしゃりと閉じた。


「なぜそのようなことを言う?」

「……私には、帰る場所や家族もあります。ですから、七代目アリスになるつもりはありません」


 有栖の頭に浮かぶのは、父や母、兄、親友たちの姿だ。女王の地位にその日常を手放すほどの魅力はなかった。

 有栖の進言を聞いて、女王はおかしそうに笑う。何がおかしかったのかわからなかった有栖は、少し赤面しながら声を上げた。


「な、何がおかしいのですか!?」

「いやいや、歴代のアリスたちと似たようなことを言うと思ってな」


 歴代のアリス。七代目アリスということは、自分以外にもアリスは六人いたと思っていたが、予想は当たっていた。そして、その彼女たちが有栖と同じことをハートの女王に言っていたとは、驚きである。


「お前はきっと、アリスになるだろう」

「っ……ならないって言ってんでしょうが!」


 確信にも似た声音で女王がそう言うと、有栖は声を荒げた。家族や友人と離れ離れになる未来を嫌でも想像させられて、少し嫌な気分になったのだ。

 女王は有栖の言葉に耳を貸さず、近くにいた近衛兵に声をかける。


「やれ、殺せ」

「なっ――」


 有栖はその言葉を聞いて身を竦ませた。いままで見てきた不思議の国の住人達とは違い、相手は武装した騎士で人型だ。その正体が何にせよ、あの鋭い槍ならば子供でも有栖を傷つけることができるだろう。

 争いごとに慣れていない有栖は、槍の切っ先を見て体を硬直させてしまった。


「い、いやっ!」


 声は出るが、体は動かない。騎士が槍を構えて突進してきても、有栖は動けなかった。

 槍がぶつかる直前、有栖は横から衝撃を感じた。恐怖で目を瞑っていた有栖は碌に受け身も取れず、柔らかいカーペットに転がる。


「な、なに? え……ラブ! あんた……」


 有栖を突き飛ばしたのはラブだった。

 ラブは有栖に向かっていた槍に彼女の身代わりとして貫かれていた。ぬいぐるみだから血は出ていないが、大丈夫なはずがない。

 ラブは貫かれた状態のまま有栖に向かってわざと笑って見せた。


「はは、ほら、アリスは女の子だからさ。傷ができちゃ困るだろ?」


 そんな軽口を叩きながら、ラブはずれたシルクハットを直した。しかし、声は掠れている。


「そんな……私のために……」

「いいんだよ。女の子を傷物にするなんて見てられないし。それにほら、友達だしね」


 ラブがそう言うと、有栖の体が光輝いた。

 有栖が困惑して自分の体を眺めていると、ハートの女王が驚きの声を上げる。


「なっ、転移術!? くっ、逃がすな!」

「無駄だよ。もう転移は始まっている。アリス、僕が君と会った時に魔法陣を描いただろう? それで帰れるから、陣に触れて帰えるんだ」


 ハートの女王の言葉で集まってきた兵たちが次々に槍を向けるが、有栖の体には通らない。槍はスッと有栖の体を通り過ぎてしまうのだ。


「いやよ! ラブはどうなるの!? このまま帰るなんて――」

「アリス。僕は短い間だったけど、楽しかったよ。僕と友達になってくれて、ありがとう」


 ラブがそう言うと、有栖の視界が反転した。

 光に包まれる視界に耐え切れず、有栖が目を瞑る。そして目を開くと、ラブを追いかけて辿り着いた場所にいた。


 有栖は呆然とその場に座り込み、思い切り泣いた。声を上げて泣いた。鼻水も出た。

 自分の浅はかさに怒りが湧いた。自分の代わりに犠牲になったラブを想うと悲しくなった。

 歪んだ視界で地面を見ると、ラブが描いた魔法陣が目に入った。


「ラブの魔法陣……」


 有栖は涙を流しながら魔法陣を見つめる。触れることはしない。このまま帰る気になんてとてもなれなかった。

 悲しいし悔しいが、どうしていいかわからない。十四年生きた伏木野 有栖にとって初の挫折だったかもしれない。


「どうしたらいいの? 誰か、助けて……お兄ちゃん……」


 有栖は一人助けを呼ぶが、知り合いのいない異国では誰も助けてくれない。頭ではわかっていても助けを懇願することを止められなかった。

 そんな絶望の最中、有栖は肩を叩かれた。


「こんな道のど真ん中で泣きおって、邪魔だのう。娘、ちょっとこっちへ来い」


 有栖は涙を拭う間もなく、小さな手に引っ張られて強制的に立ち上がった。そのままの勢いで歩かされる。

 有栖は見えづらい視界の中で自分の手を引く者を見た。彼女は宙に浮いた状態で有栖を引っ張っていた。彼女が宙に浮いていたのは、その背中から羽が生えているからだろうか。

 思考の混濁した有栖はなすがまま、羽の生えた少女の案内で見知らぬ家屋へと連れてこられた。


 有栖は無理やり小さい椅子に座らされた。羽の生えた少女はその対面に座る。


「さて、お前さんがなぜあんな場所で泣いていたのか聞かせてもらおうか。お前さん、名前は?」

「……伏木野……伏木野 有栖」


 ようやく涙が収まった有栖は赤い目で自分の名を告げた。それは少女に辛うじて聞き取れるくらいの声で、有栖らしくない細々とした自己紹介だった。


「ほう、アリスか。私は妖精のティナという者だ。ここで薬屋を営んでいる」


 有栖の対面に座る少女――妖精のティナは朗らかな笑顔を浮かべてそう言った。

 ティナの自己紹介をどうでもいいとでも言うように、有栖は顔を背けた。いまはラブのことで手いっぱいなのだ。


「お前さんが泣いていた理由を教えてくれないか?」


 ティナは再びそう尋ねた。

 有栖は見も知らぬ相手に事情を説明するなんて御免だったが、なぜかティナになら打ち明けてもいいような気がした。そうさせるだけの魅力がティナにはあったのかもしれない。


「私は――」


 有栖はティナに打ち明けた。彼女はこの悩みを誰かに打ち解けたかったのだろうか。有栖は自分でも驚くほどスラスラとここまでに至った経緯をティナに話していた。


 ティナは有栖の話を聞くと顎に手を当てて考え込んだ。そして結論が出たのか、彼女は姿勢を正す。


「ふむ、話はわかった」

「私は、どうしたらいいと思う?」


 ティナの言葉に有栖は食いつく。自分でもどうしていいかわからないのだ。困難を難なく解決してきた彼女にとって、いまのようなどうしようもない事態は初めてだ。自分の力が通用しない状況など、いままでになかったのである。

 どうしようもない不安を抱える有栖を前にして、ティナはあっさりと言いのけた。


「知らん」

「……え?」


 ティナはぼんやりとした表情で『知らない』と言った。まあ確かに、その通りだろうとは思う。ティナは部外者だし、何より相手は自国の女王だ。そんなのが相手ではどうしようもない。

 だけど有栖は、この妖精が何か力を貸してくれるのではないかと期待していた。そして、期待していた分だけ落ち込んだ。

 目に見えて消沈する有栖を見て、ティナは苦笑した。


「お前さんがどうするかというより、お前さんはどうしたいかの方が大事なんじゃないか?」

「私が、どうしたいか?」


 ティナの落ち着きのある喋り方は有栖の心も落ち着かせてくれる。見た目に反して、ティナはずっと大人に見えた。

 答えの見つからない有栖に物を教えてくれる教師のようだった。


「そうだ。私が仮にどうすればいいか教えても、お前さんは納得するのか? お前さんが納得する答えが知りたいのなら、お前さん自身に聞くしかない」

「私自身に……」


 目から鱗が落ちた気分だった。ティナの言葉は有栖の心にスッと入った。有栖がいま一番言って欲しいことをティナは言ってくれた。

 不思議と有栖の心に活力が戻った。現状は何も変わってないというのに、なぜかやる気が出てきたのである。


「そう、だね。そう、私がどうしたいかを決めればいいんだ」

「そうそう、無理に悩む必要なんてない。お前さんの思ったままにやればいい」


――喧嘩でどうようもなくなったら、高笑いしてやるんだ。そうすりゃ気分も良くなるし、相手も怖気づく。


 有栖は不意にまた、兄の言葉を思い出していた。いまがその“どうしようもない”時じゃないのか? そう思うと有栖の口元は弧を描いていた。


「アッハッハッハ、ウワッハッハッハ、イーヒッヒッヒ、ウヒャッ……ゴホッ、ゴホ!」

「ど、どうしたんだ? お前さん、頭がおかしくなってしまったのか?」


 急変した有栖の様子にティナは慌てる。急に笑い出したかと思えば咳き込み始めた。

 なんだなんだと慌てるティナがおかしくって、有栖の笑いは咳き込みながらも続いた。


 そうして一頻り笑った後、有栖は元通りの勝気な自分を取り戻していた。


「さあ、元気は出たわ。ラブを取り戻す策を考えようじゃないの」

「いきなり生意気になったのう……もうちょっとしおらしくしていれば可愛げがあるのに」


 心なしか目つきも鋭くなった有栖を見てティナは辟易とする。泣いていた有栖を連れ帰った時から面倒くさいことになるなあとは思っていたが、元気を出した有栖はもっと面倒くさそうだったのだ。


「さ、早く良い案を出しなさい!」

「自分で考えるんじゃなかったのかえ?」


 恥も外聞もなく自分に丸投げする有栖を見てティナは侮蔑半分、称賛半分を込めて視線を送る。有栖はその視線を受けても動じず、それどころか胸を張った。


「ふふん、最後に決めるのが私ならいいの。ティナが良い案を出してくれて、それに私が納得できれば問題ないわ!」

「な、なんと他人任せな……まあいい、実を言うと三つほど案はある」


 呆れるティナは指を三つ突き出してそう言った。有栖は満足気に頷く。


「言ってみなさい」


 どこまでも高慢な女である。ティナは怒る気力も失せて従順に話し始めた。


「まずはお前さんが七代目アリスを継承する案だのう。これなら魔力を受け取ってすぐに魔法も使えるだろうし、ハートの女王とも戦えるだろうて」


 有栖は黙って聞く。その方法を取れば元の世界に帰れないが、案の一つとしては彼女自身も視野に入れていた。


「もう一つは、お前さん自身の力。異世界から来た人間は必ずスキルと呼ばれる能力を授かる。それはお前さんも例外ではない」

「私にもスキルがあるってことね。それを知る方法は?」


 年の割に理解力のある有栖にティナは感心した。そう、スキルがあってもそれが何なのかわからずに過ごす異世界人は多いのだ。

 そして偶然にも、ティナはスキルを調べる術を持っていた。


「この巻物に手をかざしてくれるかの」


 ティナは机の上に無造作に置かれた巻物のうちの一つを取って広げた。そこに書いてある文字は有栖には理解できなかったが、なんとなく凄そうな雰囲気であることは伝わった。


「はい……ん?」


 巻物が光を放つ。光が収まると同時にティナは巻物を自分の方に向け、そこに書かれた文字を読み上げた。


「古代語で書かれているから何とも言えんが……お前さんのスキルは『効力無し』といったところだの!」

「え、それってどういうこと?」


 いきなり『効力無し』と言われてもわけがわからない。有栖はキョトンとして首を傾げた。

 ティナは笑みを引き攣らせて冷や汗を掻くと、そっと巻物を閉じた。


「さて、最後の案だがの――」

「ちょっと、私のスキルを説明しなさいよ!」


 スキルの件を完全になかったことにしようとするティナに有栖は詰め寄った。ティナの微妙な反応から少しは察しているが、ちゃんと言葉にして欲しかった。


「まあ、なんだかのう……外れってヤツだの!」


 明るく言うティナが何だか憎たらしくって、有栖は彼女の柔らかそうな頬っぺたに手をかけた。


「な、何をする! 離せ!」


 やっぱり頬っぺたは柔らかかった。どうしようもないやつ当たりだが、こうでもしないと収まらなかった。

 ティナの柔らかい頬っぺたを十分に堪能した後、有栖は自分の席に戻った。ティナは少し赤くなった頬を撫でながら恨めしそうに有栖を睨む。

 睨んだままティナは話を続けた。


「最後の案は……お前さんがこのまま元の世界へ帰ること、だのう」

「それはッ――」

「もちろん、納得はいかない案であろう? だけどお前さんはその選択肢も考えないといかん」


 思わず席を立った有栖を宥めながらティナは言った。ティナはこの場にいない一人の想いを汲んでそんなことを言ったのだ。


「お前さんが助けようとしてる白兎がその身を挺してお前さんを庇ったこと、忘れてはいけないよ」

「それはわかってるけど――」

「お前さんがまた危険な城に戻ってくることなんて、その白兎は望んじゃいないのだぞ?」


 そう、ラブは“帰れ”と言った。彼の犠牲を考えるなら、もう一度有栖が城に戻るのは良くない。そこで捕まって殺されてしまえば、彼の犠牲は犬死となってしまう。

 そうなると、取れる策は一つしかない。


「なら……七代目アリスに」

「友人や家族を捨ててまでなれるかの?」

「っ……」


 ティナの言葉に有栖は押し黙る。

 有栖の脳裏には友人や家族の顔が消えては浮かんで行った。彼らと会えなくなるなんて、有栖には耐えられなかった。

 しかし、同時にラブの顔も浮かぶ。彼を見捨てることもまた、有栖には到底できなかった。


「どうする……どうしたい?」


 ティナの目の前だというのに、独り言が漏れるほど思考に熱中する。ティナの激励のおかげで立ち直った有栖は自分の賢い頭をフル回転させていた。

 様々な案が浮かんでは消え、出されては削除される。理に適ってないからだ。


――悩むより行動! 無言実行!


 ふと、兄のアホらしい笑顔が過った。兄はお世辞にも頭が良いとは言えず、無茶で無鉄砲なことをするおかげで命を失う危険な失敗も犯している。それでもいままで生きていられたのは、道理を蹴っ飛ばして無理を通すその底知れない力であった。

 一方の有栖はというと、勝気で大胆な性格ではあるものの、無茶はしない。少し危険に突っ込みながらも、決して深みには嵌らなかった。


「つまらない奴だなあ、私って」


 有栖の口元からヘラヘラとした笑みが零れる。もはや吹っ切れた。迷うことはないのだ。

 またも狂ったように笑い出すんじゃないかと身構えるティナに向かって有栖は指をビシッと突きつけた。


「質問があるわ。まず、七代目アリスになったら確実にラブを取り戻せるか」

「あ、ああ、問題なかろう。それだけ初代から受け継がれる力は絶大だからの。ハートの女王なんか問題にならん」


 この国に住んでいるからかティナはアリスにも詳しいらしく、スラスラと説明していく。


「女王の城でアリスを受け継ぐ覚悟を見せればすぐにでも継承されようて。そういう魔術があの城にはかけてある」


 なるほど、と有栖は頷く。まず一つ目の問題はクリアーした。話を聞く限りでは楽勝といった感じだろう。

 だが、まだ問題がある。次の質問が有栖の想像通りだったなら、また別の案を考えなくてはならない。


「二つ、七代目アリスになった場合自分の世界に帰れない理由。それを教えて頂戴」

「それはお前さん、世界と世界を繋ぐなんて大それたことできんわ。いまのお前さんは半分元の世界、半分こっちの世界の住人として存在している。だから、まだ引き返せるのだぞ?」


 またも有栖は頷く。


「つまり、七代目アリスになれば元の世界に戻れないっていうのは私が完全にこっちの住人になっちゃうからってことね?」

「うむ、理解が早くて助かる」


 ティナは有栖に感心して頷いた。

 有栖は少しだけ希望が見えてきた気がした。徐々に視界が晴れていくような、そんな錯覚を受ける。


「三つ目、ラブが私の世界に来れた理由を教えて。世界と世界を繋ぐこと自体ができないなら、なぜラブは私の世界に来れたの?」

「……あれは特別での。アリスに適した人間を探す時のみ、あの白兎は世界を渡り適合者を連れて来ることができる」


 ティナは一度言い淀んでから小さな声で話した。まるで聞かれたくないことを聞かれてしまったかのような表情だ。

 有栖はそんなティナの様子には一切着目せず、いま仕入れた情報を必死に頭の中で整理していた。


「じゃあ、ラブは例外ってことね。じゃあこれが最後の質問。世界と世界を繋ぐことが不可能だって証明はあるのかしら?」


 不敵に――有栖は意地悪く笑った。小悪魔のような笑みである。

 ティナはその質問の意図がわからず一瞬キョトンとするが、理解してからやや顔を赤らめて席を立った。この賢い少女が考えるにしてはあまりにも愚かなことだった。


「いない、できないの証明は不可能だ……だが、それはいる、できるが証明されたことにはならない!!」


 憤慨してティナは声を張り上げる。この目の前の少女の馬鹿な考えが透けて見え、それがあまりにも浅ましかったので憤慨しているのだ。

 まさかここまで怒るとは思っていなかったので、有栖は少しだけ呆然としてしまった。だが、それはティナが短い間で有栖に何らかの親しみを覚えてくれたことの証明に繋がる。


「私は七代目アリスとなって、ラブを助けて……その後世界と世界を繋ぐ方法を模索するわ。きっとできるわよ。だって、アリスって凄いんでしょう?」

「っ……」


 クスクスと笑う有栖にまたもティナは声を張り上げそうになるが、堪えてから息を吐いて席に座った。

 きっとこの小娘に何を言っても無駄だろうとティナは考えていた。猪突猛進、一度信じた道は突っ走りそうな気がするのだ。


 有栖はプランが決まったことで席から立ち上がった。ここを出て行く気だ。

 ティナもそれがわかっているのか、今更引き留める気にはならない。

 有栖はドアノブに手をかけてから一度止まり、振り返らずに礼を言った。


「ありがとう。ティナのおかげで前に進める。ティナのおかげで、せっかくできた友達を失わずに済むよ」

「……ふん、礼には及ばん。女王になったら死ぬほどキャンディーを奢ってくれ」


 礼には及ばないと言いながらもそんなことを言ってのけるティナの厚かましさに有栖は笑みをこぼす。

 そして、ドアノブを捻り外に出る。ドアが閉まる刹那、有栖が何かを言った。


「あんたはこの国でできた二人目の友達だよ、ティナ」


 パタン、と扉は閉まった。

 ティナはしばらく扉を見続けていたが、やがて懐から煙管を取り出して吹かし始めた。

 煙が宙を舞い、模様を描く。


「……今回の主は厄介だのう……なあ、ハートの女王にクラブの魔術師よ」


 一人でおかしそうに笑い、宙にできた煙の文様に手を触れる。


「どれ、手伝ってやろうかの」


 煙でできた陣は光を放つ。部屋を光で満たした後、煙は完全に霧散した。そして、ティナの姿も見えなくなった。








 ティナの家を飛び出した有栖は、猛ダッシュしながら見知らぬぬいぐるみの胸倉を掴んでいた。


「くそう、何が悲しくてぬいぐるみ相手にカツアゲせにゃならんのだ!」

「な、なあ姉ちゃん、俺なんか悪いことしたか? なんでこんなことになってんだ?」


 話は数十分前に遡る。

 ティナの家を出た有栖は女王の城に向かおうとした途中で気づいた。


(あれ、私ってば女王の城までの道のり知らん)


 善は急げと言うのに、気づけば目的地の場所を知らないときた。これには流石の有栖も顔を赤らめて慌ててティナの家に引き返したのだ。

 あんなこと言って出て行った手前とてつもなく恥ずかしかった有栖だが、不幸中の幸いか恥はかかなかった。ティナが家にいなかったのだ。

 ほんの一、二分の出来事だったのにティナの家はもぬけの殻だった。これには有栖も首を捻り、仕方ないから大声でティナの名前を叫びながら彼女を探した。

 だが、見つからなかった。居ても立ってもいられない有栖は手近にいた熊のぬいぐるみを鷲掴みにし、女王の城への道のりを聞きだすことにしたのだ。

 そして先ほどの会話に戻る。


「な、なあ姉ちゃん――」

「熊吉、女王の城までの道を教えなさい!」


 思考に耽っていた有栖は熊のぬいぐるみに勝手に命名し、道を乱暴に聞き出した。足を持ってぶらんぶらんと宙吊りにすること命名熊吉くんは慌てて声を上げた。


「わ、わかった! 教えるから、揺らすのは止めてくれ!」

「最短ルートでよろしくね」


 有栖は熊を揺らすのを止めて胸に抱えると熊吉の案内で走り出した。やはり地元民ということもあり、指示は的確だ。

 もし間違った道を教えようものならバラバラに引き裂いてやると脅しをかけつつ、有栖はひたすらに走った。ローファーが擦れて痛みを覚えるが、そんなこと気にしない。

 いまは焦る気持ちのまま、ハートの女王の城へと急ぐ。


「見えた! ありがと、熊吉! 女王になったらお礼するから!」

「俺、熊吉じゃないんだけどなあ……ん? 女王!?」


 有栖は熊吉の頭をガシガシと撫でてからそっと地面に置くと頭を下げた。

 熊吉は撫でられた頭を押さえて有栖を見送るが、最後に放った言葉の意味を図りかねて首を捻った。


 有栖は城に突入する。幸い、城の前に兵士はいなかった。

 無駄に大きい扉を強引にこじ開け、廊下を渡って階段を二段飛ばしで駆けあがる。

 そして、遂に女王の間に飛び込んだ。


「ハートの女王! ラブを返してもらうわよ!!」

「おお、やはり来たか。探す手間が省けた」


 ハートの女王は笑みを浮かべて有栖を受け入れる。

 ハートの女王の下で平伏していたラブは驚愕してもがいた。彼を縛る縄が彼の体を傷つけるが、そんなことはいまどうでもよかった。


「アリス! なんで来たんだ!?」

「そりゃあもちろん、ラブを助けるためってね!」


 ラブは頭が痛くなった。城の兵はほとんどがこの広間に集められていて、有栖一人でどうにかなるとは思えなかったのだ。


「面白いことを言うな、小娘。この兵を見ても白兎を助けられるとでも?」

「ええ、助けられるわ。だって私は――」


 ハートの女王が有栖を蔑むが、彼女は意に介さない。先ほど殺しそこなった時とは打って変わって人が変わったような振る舞いをする有栖を見て女王は眉を顰める。

 大きく息を吸ってニヤリと笑った有栖を見て、女王は気づいた。


「まさかっ!? 兵たちよ急げ! 奴を殺せ!!」

「七代目アリスになるんだから!!」


 有栖が大声でそう言った瞬間、彼女の体は光に包まれた。これがアリス継承の儀式なのかと有栖は感心して自分の体を眺めた。

 ちなみに、ハートの女王が差し向けた兵は依然として有栖目掛けて槍を構えている。


「ちょっと、まだ終わらないの!? 魔術ってのはどーやって使うのよ!」

「まだ間に合う! 急げ! すぐに抹殺するのだ!」


 有栖と女王が声を張り上げる。兵士たちの槍がこちらへ迫れど、有栖の中で何かが変わったような気はしない。

 この光がアリスの力を継承してくれるのはまだ少し時間がかかるような、そんな気がした。


(マズイ、このままだと死――)


 兵たちの構える槍の切っ先が有栖から三メートル圏内に入った時、有栖を包む光とは別の光が瞬いた。光は兵たちを弾き飛ばし、有栖を守った。


「な、何なの!? 私の魔法!?」

「――何を都合の良い勘違いをしとるんだかの」


 後ろから聞き覚えのある声がして有栖は振り向いた。

 そこには、いつの間にかいなくなっていたティナがいた。


「て、ティナ!」

「ほーれ、こうなるんじゃないかとひやひやしとったわい。城の中で七代目アリスを継承するんだから、誰もいないところでやればよかったのにのう」


 呆れたように溜息を吐くティナを見て、有栖はアッと声を上げる。

 ティナの言う通りである。有栖は城のトイレなりなんなりに隠れてこっそり七代目アリスを継承してからハートの女王に会いに来ればよかったのだ。

 それに気づいたが、有栖は自分の失態を隠すために顔を赤くして抗議した。


「だって時間かかるなんて知らなかったし! 先に教えといてよ! ティナの馬鹿!」

「なっ……馬鹿はお前だろうに! このあんぽんたん!」


 子供のような貶し合いを始める二人を見て、いままで有栖をハラハラと見守っていたラブは安堵の溜息を吐いた。正直、有栖が兵たちに槍を向けられた時はラブの小さい心臓あるのかはわからないがが止まるかと思ったほどだ。


 ハートの女王は二人の掛け合いを見てもニコリともせず、ただただ腹立たしげに唇を噛みしめた。


「くっ……ダイヤめ、邪魔をしおって」

「ん? おう、ハートの女王ではないか。久しぶりであるな」


 ティナはハートの女王の恨みのこもった視線は軽く流し、にこやかにそう言った。気安さが滲み出たティナの態度が引っかかったが、このまま話を引き延ばして七代目アリスを継承で切れば有栖としても本望である。

 有栖は『がんばれ』とティナに視線を送るが無視された。


 倒れていたハートの女王の兵たちは既に起き上がり、再び槍を構えている。女王の指示があればすぐにでもティナと有栖に襲い掛かるだろう。


「……やれ、兵たちよ。そこの妖精もろとも殺せ!!」

「まったく、物騒だのう」


 ハートの女王の声に反応して動き出した兵たちを見て、ティナはやれやれと首を振った。

 そして懐から煙管と取り出して悠長に煙を吸い始める。それを見た有栖はいろんな意味でギョッとして声を上げた。


「ちょ、あんた何やってんのよ!」


 未成年の喫煙がどうのと講釈を垂れながら喚き散らす有栖を無視して、ティナは吸った煙を大きく吐き出した。


「行け、『気まぐれな煙』よ」


 吐き出された煙は見上げるほどの巨人になり、兵たちにその大きな拳をお見舞いする。

 呆気に取られて有栖はティナに説明を求めた。何も言わずとも、有栖の真ん丸に開かれた目が語っている。あれは何だと。


「あれは私の魔術で、『気まぐれな煙』と言う。しばらくは兵士の相手をしてくれるはず……なんだがの」


 兵を蹴散らしていた煙を見て、ハートの女王が額に青筋を浮かべる。そして、広間に響き渡るほど大きな声を上げた。


「兵よ、戻れ!!」


 倒れていた兵たちはすぐさま女王の下へと駆けつける。煙は深追いせず、ティナと有栖から離れないようにふわふわとその場に留まった。

 ハートの女王はレイピアのような細剣を取り出すと、有栖たちに突きつけた。


「命令『あの少女を抹殺せよ』」


 ハートの女王がそう言うと、兵たちは槍を抱えて有栖たちに向かって走り出した。さっきと何が変わったのか有栖にはわからないが、隣のティナが冷や汗を浮かべていることから良くない事態なんだろう。


「アリス、お前さんはその扉から逃げろ! ここは私が食い止める!!」

「え、でも――」


 ティナの張り詰めた声を聞いて有栖は体を震わせた。


「早く!」

「わ、わかった」


 余裕のないティナの声を聞いて、すぐに有栖は行動に移した。

 だが、扉に手をかけて異常に気づく。


「あ、あれ、開かない……ティナ、扉が開かない!」

「っ……レモネードめ、魔術で扉を封印したか!」


 慌てふためくティナを見てハートの女王は愉快そうに笑みを浮かべた。

 兵たちは煙の巨人と戦いつつ、有栖に狙いを定めている。そして、後方にいた騎士が槍を持った手を引いた。投槍の構えに見える。

 そしてそのまま槍を投げた。有栖目掛けて。


「クソ、投擲までしてくるかッ……有栖、私の後ろからでるんじゃないぞ!」

「う、うん、わかった」


 ティナは飛んでくる槍を煙管でいなしながら、左手に魔力を込めていく。それが溜まると同時にハートの女王へと放出した。

 ハートの女王は飛んでくる魔力を細剣で切り裂くが、眼下の光景を見て舌打ちした。

 女王がティナから攻撃された時に動きの鈍くなった兵が数名煙の巨人に吹き飛ばされたのだ。


「もしかしてアイツ……」

「ほう、気づくか? やはり賢いなお前さんは」


 有栖はハートの女王の様子から、彼女の兵隊たちの弱点に気づいた。いま何もできることはないと思っていた有栖だが、やれることに気づいたのだ。


「やいやい、ハートの女王!」

「……なんだ」


 元気よく有栖が女王に声をかける。ハートの女王は意外にも律儀に返答した。


「私が女王になるのをこんな必死に阻止するなんて、そんなに女王の座が惜しいのか?」

「……そうだ」


 有栖の質問に歯切れ悪く女王が答える。有栖はその表情と声音からそれが嘘だと察する。完全に勘で証拠も何もないのだが、なぜか女王の言葉が嘘だと思った。


「いや、違うね。あんたは何か別の理由があって私を殺そうとしてる。それを教えなさい!」

「嫌だ。断る」


 女王は有栖の命令をきっぱりと切り捨てた。だが、これでいよいよ女王の言葉が嘘だったことが証明された。それに何より、有栖の言葉に女王は動揺しているようだ。兵たちの動きが鈍い。


「本当に私を殺したいと思ってる?」

「っ……黙れ!」


 有栖がそう問いかけると女王は激昂した。それを見て有栖の中で何かが変わる。

 女王は倒すべき者だと、そう思っていた。だけど違う。


(女王を救ってあげなきゃ)


 不思議と、有栖はそんなことを考えていた。


「どうしてアリスを継承されるのが嫌なのさ。女王が代替わりすると、あんたが死んじゃったりするの?」

「……うるさい!」


 聞く耳は持たない。しかし、いまの有栖はなぜか冴えていた。女王の心が読めるような、そんな気さえした。

 きっと代替わりしても女王は死なないのだろう。そんな根拠のない推測を有栖は立てる。


「ほらほら、教えてよー。女王は死なないのに、何をそんなに“怖がっている”の?」

「なっ……」


 見透かされた。有栖の透き通るような黒い瞳が女王と交差した時、女王は彼女の中に“アリス”を見た。すぐにその幻想を払うため、首を振る。

 女王の心が極端にぶれたため、兵たちの動きが著しく悪くなる。既にティナは手を止め、兵の相手を巨人に任せているようだった。


「やっぱり怖いんだ。アリスが怖いの?」


 女王は有栖の声に耳を貸さないよう、目を奪われないように視界を閉じた。兵を動かす能力にだけ集中する。

 しかし、それがいけなかった。足蹴にしていたラブがこれ幸いと逃げ出したのだ。


「なに!? と、止まれ!」


 女王は声を上げるが、ラブが止まるはずがない。兵たちは小さな足をひょこひょこと動かして有栖に駆け寄るラブに目もくれなかった。


「アリス! いま行くよ!」


 ラブが笑顔を有栖に向けて歩みを進めた。しかし、そこまでだった。


「……命令『その白兎を消せ』」


 女王の言葉で煙の巨人の相手をしていた兵たちが、ゆっくりと動きを止めて槍をラブに向ける。


「なっ……いかん、『気まぐれな煙』よ! 急げ!」

「ラブ! 逃げて!」


 煙の巨人がラブを守ろうと手を伸ばすが――兵の手から既に槍は放たれていた。


「ラブ? ラブ!!」


 ラブの兎の体には大きすぎる槍が何本か通り過ぎ、彼の体をボロボロにした。ラブのいた場所はもう槍と彼の体の破片が散らばっているだけで、物が動く気配すらしなかった。

 そんな光景を見て有栖は、顔を覆って泣き崩れた。


「ラブ……そんな……」

「アリス! 心を強く持て! こんなことであいつは死なん!」


 ティナが有栖に呼びかけるが、泣き崩れた彼女は耳を貸さなかった。

 ハートの女王はそれを見てようやく安堵の溜息を吐いた。そして、覚悟を決める。


「認識が甘かったようだ。全力で叩き潰す。兵よ、止まれ」


 ハートの女王がそう言うと兵たちはその場に崩れ落ちた。糸が切れたマリオネットのようにピクリともしない。

 そして、ティナは最大級の警鐘を鳴らした。ハートの女王の能力を良く知る彼女は、兵の状態を見て女王が本気だと悟ったのだ。


「自己命令『アリスを殺せ』」


 ハートの女王は自分にレイピアを突き立てた。すると、いままで玉座の上から高みの見物をしていた彼女が玉座を降りた。

 ゆっくりとした足取りには余裕を感じる。煙の巨人が女王を止めようと動く。巨大な手が彼女を掴むその瞬間である。


「――邪魔だ」


 女王はいつの間にか自分の体から引き抜いたレイピアで煙の巨人を霧散させていた。

 ティナは引き攣った表情でそれを見て、急いで魔力をかき集める。


「自分から手を下す気になったってことか?」

「そういうことだ。正直、死にたい気分だがな」


 苦々しい表情で女王は有栖を見つめる。それを見る限り、有栖を殺すのは本意ではないように思えた。


「偽物とはいえ――アリス様に手をかけるのは血涙が出るほど苦しい」

「なら、止めてしまえばいい。殺す必要なんかない」


 ティナが魔力の塊を放ちながらそう言うが、女王は首を横に振った。そしてティナを睨み付け声を上げた。


「貴様も知っているだろう!? アリス様の魔力が代を追うごとに失われていることを!」

「当然知っている。だからと言って、殺したって何にもならないであろう? 私らは言われた通り、アリス様が戻ってくるまで待っていればいい」


 ティナの言葉を女王は涙を浮かべて否定した。


「違う! きっとアリス様は戻ってこられない。このまま魔力が尽きれば、アリス様――初代アリス様は消滅してしまう!」

「だからって、ここにいるアリスを殺していい理由にはならん。お前は極端すぎる」


 ティナは背中から生える二枚の羽を四枚増やして魔力を高める。女王はそれを見て涙目のまま嘲笑った。


「ふっ、四枚羽か。そんなもので私を止められるわけがない」

「時間稼ぎで十分。アリス様の眷属として力を使い果たせれば本望だからのう」


 ティナの攻撃は苛烈さを増した。それでも女王の歩みは止まらない。徐々にだがティナを押している。


「さあ、死ね」


 ティナに向かって、レイピアを突き立てる。ティナはここまでかと、目を瞑って天に祈った。有栖の無事を、天にいるであろう初代アリスに祈った。


「……?」


 剣に刺し貫かれる衝撃は来なかった。ティナがゆっくりと目を上げると、細剣を握っている手があることに気づいた。

 そして驚きのままティナは振り返る。


「――アリス!?」

「お待たせ。事情は把握したよ。あんたたちの会話はぼんやりと聞いてたし、継承したおかげか理解もできる」


 レイピアを握っていたのは有栖だった。有栖はさっきまでの泣き崩れた表情とは違い、余裕のある笑みを見せた。

 黒髪だった有栖は綺麗な金髪になり、目の色も黒から青へと変化している。それは継承が成功したことを表している。

 ハートの女王は驚きのあまり声も出ない。そして、掴まれているレイピアを少しも動かせなかった。


「ティナ四枚羽は危険だから仕舞っときなさい。私はこの捻くれた女王を反省させるから」

「アリス……お前さん、どこまで知ってる?」


 ティナが羽を仕舞いながら呆然として尋ねた。尋ねられた有栖はニッコリと笑って白い歯を見せた。


「まあ、私に任せときなさいよ」


 ティナには有栖の背中が頼もしく見えた。さっきまでの力のない少女ではない。彼女の自身に見合うだけの力を持ったのだ。


「な、何を……認めん、認めんぞ!!」


 ハートの女王は激昂すると、レイピアを手放した。有栖がアリスになったなど、彼女には認められるはずもなかった。

 自分の慕う人物に瓜二つな少女を粉々にすべく、両手に莫大な魔力が集う。


「消えろ!」


 少年漫画顔負けの光線が両手から放たれ、有栖に肉薄する。有栖は迫りくる光線に動じず、緩慢な動きで手を払った。


「危ないなあ」


 光線に触れると同時に女王の魔力は霧散する。女王は有栖の圧倒的な力に呆然としている。ティナも同様に唖然として有栖を見ている。


「な、なぜだ! 歴代のアリスたちはこんな……先代のアリスなんて、ほとんど魔力を持ってなかったのに!」

「まあ、そこを説明すると長い話になるから置いといて……まずはラブを治そーっと」


 有栖の体から溢れ出る魔力は軽々と女王を凌駕している。それどころか、有栖の魔力は底が知れなかった。

 有栖はラブの残骸に指先を向ける。指先から光が放たれ、光はラブが槍に刺し貫かれた場所まで行くと一度瞬いて消えた。

 光が収まると、元の人形だったラブが座り込んでいた。


「おーい、ラブ、生きてるかーい?」

「え……そこにいるのはアリス? 僕が連れて来たアリス?」


 有栖がラブに声をかけると、彼は状況が理解できないまま目を白黒させた。

 有栖はラブの問いにニッと笑うと、堂々と胸を張った。


「そう、七代目アリス――伏木野 有栖様よ!」

「うわあ、アリスはほんとにアリスになっちゃったんだ!」


 金色に変わった髪と青い瞳、それにあり得ないほどの魔力を見てラブは納得する。しかし、ラブはすぐに顔を暗くする。


「でも、アリスはよかったの? 元の世界に帰れないんだよ?」

「よかないわよ。でもね、友達見捨てて逃げ出すほど根性腐ってないっての」


 有栖は腕を組んで顔を背ける。ラブはそんな有栖らしい素振りに笑顔になるとともに安心した。やっぱり彼女は七代目になっても、有栖のままなのである。

 一見ハッピーエンドのようだが、一人納得のいってない人物がいる。


「……私は、認めない」


 ハートの女王その人である。赤いカーペットに座り込んでいた彼女はゆらゆらと立ち上がり、近くにあった兵士の槍を手に取った。

 有栖に向かって槍を構え、女王は突進する。有栖はそれをただボーっと見ていた。


「……なぜ、避けない?」

「こうでもしないとあんたは聞く耳持たないでしょ。ほらこの槍突き刺さってるように見えるけど、私の魔法で止められているだけだから」


 女王の突き出した槍は有栖の腹を貫通していた。傷跡からは血も出ず、有栖は元気なままである。女王は槍から手を外そうとしたが、なぜか手は縫い付けられたかのように動かなかった。


「貴様の話など、聞く気はない」

「あー、そういうこと言っちゃうんだ。でもちゃんと聞きなさい。女王命令です」


 命令という言葉に反応してハートの女王が押し黙る。有栖は静かになった女王に満足して話を続けた。


「初代アリスからの伝言よ。『まだ会えない。でも、きっと会いに行くから待ってて』だってさ」

「……そんなもの、信じられるか!」


 有栖の言葉を聞いて更に女王は激昂する。女王には有栖が初代の言葉を騙る偽物にしか見えなかった。

 女王は槍から手を放そうと躍起になるが、どんなに力を込めても魔力を込めても放れない。


「まあ、信じられないよねえ。初代のアリスにもそう言ったんだけど、あの子はしっかり話せば聞いてくれるって聞かないんだよ。話を聞かないのはお前の方だろって言ってやったけどね!」

「……クソッ、信じない! 私は信じないぞ!」


 有栖が話すアリスの話にはどうも信憑性がある。まるでさっきの数分でアリスと対話してきたかのような振る舞いだ。

 頭を振り乱して否定する女王を見て有栖は視線を落とす。彼女は槍に手をかけて力を込める。すると槍はいとも簡単に砕けた。

 槍から解放された有栖はゆっくりと女王に近づく。女王はじりじりと近づいてくる有栖から逃げるように後ずさった。


「……信じられない。貴様はアリス様なんかじゃない」

「あんたはちょっと真面目すぎたんだよ。アリスの帰りを律儀に待ちすぎておかしくなっちゃったんだ。それに、継承の度にアリスの魔力が減っていると勘違いした」


 女王は玉座まで後ずさったが、もう後ろには壁しかなかった。有栖も玉座へと登る。


「継承の度に魔力が減っていたのは初代アリスが還るために魔力を使っていたからなんだ。私の代になって魔力の返還は必要なくなった。だからアリスの魔力はなくならないんだよ。もう、心配しなくていいんだよ」


 有栖は女王の体を抱きしめた。逃げたいのに、なぜだか女王はその抱擁から逃げられなかった。


「お疲れ、ハートの女王レモネード」

「……アリス、様?」


 一瞬だが、女王は有栖の姿が初代アリスと重なって見えた。

 だが、それも一瞬のこと。気づけば有栖は女王の頭に手を置き、丸めた拳をぐりぐりと擦り付けた。


「い、痛い!」

「こいつ、いろいろと面倒くさいことして~。この、この」

「や、止めろ、放せ!」


 結構な力で女王の額を締め付け、不思議の国に来てからあった恨み言を有栖は連ねていく。中には女王がまったく関係してない事柄も含まれていて、完全にやつ当たりだった。傍から見ていたラブとティナは少しだけ女王レモネードに同情した。

 有栖がパッと手を放すと、女王のずんぐりむっくりな体はドンドンと玉座から転がった。さっきまで虐められていた頭を押さえながら、女王は涙目で有栖を睨んだ。


「その目は私を認めたってことかな?」

「……ふん、完全に継承してしまったならもうどうしようもない。手の甲にある印を見ろ」


 有栖が女王の言う通りに手の甲を見ると、星形のマークが刻まれていた。


「それがアリスを継承した印だ。認めざるを得ん」

「女王はツンデレだねえ。まあ、あんたがいろいろ悩んでたってことはわかったから私も許してやるよ」


 女王は応えない。有栖を殺そうとし、ラブを引き裂いた罪の意識はある。初代アリスのためだったとしても、他者からそれがどう見えるかは女王もわかっているつもりだ。

 故に“許す”と言われた女王は戸惑い、少し心が揺らいだ。だが、まだ完全には割り切れなかった。

 有栖はそんな女王の様子を見て苦笑いを浮かべた。


「女王。ラブには謝っときなよ? これから長い付き合いになるんだから」

「ふん……気が向いたらな」


 女王は有栖の言葉に、確かに応じた。渋々、辛うじて聞こえる程度の小さい声だったが。いまはそれで満足しておこうと有栖は思う。


「え、長い付き合いってどういうこと?」

「なんだラブ。あんたまだ記憶が飛んだままなの?」


 有栖は玉座に腰かけると、呆れたように笑った。かわいそうなことに、女王とティナもラブに呆れた視線を送っている。

 そんな目を向けられる理由が見当たらず、ラブは困惑して冷や汗を掻いた。蘇って早々そんな態度を取られると心臓に悪い。


「ま、いまから思い出させてあげるよ」

「それは一体どういう……」


 ラブの言葉に応えず、有栖は体中から魔力を捻り出した。

 有栖から放たれる魔力は初代に劣らないほどで、城から飛び出して不思議の国の上空に辿り着くと一斉に弾けた。

 有栖の魔力はキラキラと輝きながら不思議の国中に降り注ぐ。


「さあ、我が眷属たち! この伏木野 有栖が七代目アリスを継承したぞ!」


 玉座から放たれた有栖の声は、不思議の国中に響き渡った。一瞬だけ国中が静寂に包まれる。

 そして、静寂から一転して爆発的な歓声が巻き起こった。


「……まさか、継承して早々に眷属に力を与えるとはな」

「初代様に会ったというのは、あながちウソではないかもしれないのう。なあ、レモネードや?」


 驚きのままに呟いた女王の言葉に反応したのはティナだ。女王はふんと鼻を鳴らすだけで応えなかったが、それでもその反応を引き出せただけティナは満足だった。

 いま国中では国民が有栖から力を与えられていることだろう。耳を澄ませば大きな花火の音も聞こえてくる。有栖の魔力で打ち上げている花火だ。

 まったく、伏木野 有栖はとんでもない人物である。これだけの才覚を見せられれば、初代の生まれ変わりと虚勢を張っても信じたかもしれなかった。如何せん、初代とは性格が違いすぎるが。


「さて、次は初代の作った四大眷属を呼び出すとしますかね」


 有栖はニヤニヤとしながらティナ、女王、そしてラブを見る。

 ラブはさっぱり状況を理解していないが、ティナと女王は底意地の悪い奴だと顔をしかめた。


「まずはハートの女王、レモネード!」


 女王が名を呼ばれると彼女の体が輝きだした。肥え太った体は痩せ、肌にも艶ができる。そしてなぜか服まで変形していく。

 この変化には流石の有栖も予想していなかったらしく、目を丸くして食い入るように見つめていた。

 そして光が収まるとそこには先ほどとは別人のようなハートの女王の姿があった。


「……この姿になるのも久しぶりだな」


 女王は手を開いては閉じ、首をくるくると動かして体の感覚を掴むとそう言った。あまりの変わり様に有栖とラブは目玉が飛び出るほどに女王を凝視していた。

 八百屋のおばちゃんといった風体が急に美人秘書のような外見になってしまったのだから無理もない。

 そして有栖はどこかガッカリしような口調で呟くのだった。


「……全然ハートの女王っぽくない」

「なっ……」


 有栖の身勝手な物言いにショックを受ける女王。確かに変化する前の方がハートの女王らしさがあった。

 女王はあまりにもショックだったのか、その場にしゃがみ込んで蹲った。ティナが近寄って手を伸ばすが、その手はすぐに払われた。


「まあなんだの、どんまい?」

「うるさい、放っておいてくれ。あの小娘、初代様と同じことを言いおった……」


 シクシクと泣く女王の反応を見てティナは肩を竦めた。こうなったのは有栖の原因なのだが、彼女も女王を見てやれやれと首を振っている。

 そして、有栖はティナに顔を向けた。


「次はダイヤの妖精、ティナ!」

「あいよ」


 呼ばれて気のない返事をするティナの体もまた、光り輝いた。女王の変化を目の当たりにした分、ラブは期待たっぷりにそれを眺めていた。

 そして光が収まる。光から現れたティナは先ほどと何の変哲もない姿で立ち尽くしていた。


「知ってはいたけど、つまらないね」

「っ! よく見ろ! 羽が増えとるだろうが!!」


 ティナは羽を指差して喚く。二枚だった羽が六枚になっているが、それがどうしたと言うのだろうか。ラブはそんな心境で悲しそうにティナの姿を見ていた。


「こ、こら、そこ、落ち込むんじゃない! 私まで悲しくなるであろうが……」


 ティナもやがて、女王の隣に座り込んでシクシクと泣きだした。四大眷属の中で自分だけが地味だと嘆いているようだ。

 そんなティナは放っておいて、有栖は次の眷属を呼び出すために魔力を集中させた。


「次はスペードの騎士……あれ、反応がない」

「……あやつは気まぐれだからのう。すぐには来ないかもしれん」


 涙目でそう言ったティナの言葉に納得して有栖は頷いた。そしていよいよ、大本命である。


「さて、最後に。クラブの魔術師……ラブ!」

「……え、ええ!?」


 驚きのあまり飛び跳ねたラブは体が光り輝いたことで更に驚き、空中で飛び上がる。地面に着地するころにはラブの視界は一変していた。


「これは……そう、だ。僕は、クラブの魔術師。アリス様の継承者を探す役目」


 高くなった視界で有栖の顔を見ると、彼女はまた呆れたように笑っていた。ラブの頭はかかっていたもやが取れたようにスッキリしていた。

 そう、ラブは本来はアリスの四大眷属と呼ばれる強力な魔術師だったのである。


 有栖は玉座から飛び降りてラブの目の前に着地した。記憶を取り戻したラブはすっかり身長も伸び、いまではシルクハットの似合う紳士然とした白兎になっている。


「あらら、可愛かったラブはもう帰ってこないのかあ」

「えー……せっかく記憶が戻ったんだから喜んでよ」


 残念そうな有栖を見てラブは溜息を吐いた。ラブは恰好は紳士に、顔はキリッとした兎顔だ。もう昔の可愛さは残っていなかったが、仕草や表情は以前のラブその物だった。

 四大眷属の召喚も終え、有栖はゆっくりと息を吐く。


「はあ、やることはやったわ。後はそうね、世界を繋ぐ方法を模索しながら……この世界を征服でもしてみますかね」

「世界を繋ぐ!? 世界征服!? ちょっとアリス、何考えてるの!?」


 ラブが驚きを身振り手振りで表す。対して、有栖は至って真剣だ。自分の力なら元の世界に帰ることも、いまいる世界を征服することも夢じゃないと考えていた。

 有栖は玉座から立ち上がり、魔法でマントを作り出した。自分なりに不思議の国の王らしい恰好をしているつもりなのだろう。


「いまの私なら何でもできるわ……だって私は七代目アリスなんだからね!」


 有栖は絶大な魔力を迸らせながら高笑いを浮かべた。

 それを見て、彼女の下に着く四大眷属たちは揃ってため息を吐いた。


 こうして伏木野 有栖は異世界『ユグドラシルのお膝元』で不思議の国の王となった。彼女は元の世界に帰るのだろうか。それともこの世界を征服し、永住するのだろうか。

 有栖がどんな道を選ぶのかは、気まぐれで自意識過剰な彼女の気分次第である。


 めでたしめでたし?

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