表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くーろん  作者: 虹ぱぱ
一章:旅立ち
8/14

7話:狸と小夜

深夜────


「小夜ちゃん。いいかげん機嫌なおしなヨ。」

縁側に腰掛けていまだに納得いってない雰囲気を出してる小夜ちゃんに酒盃を差し出しながら声をかけた。


「・・・・」

小夜ちゃんは酒盃を持って一気に傾けた。相変わらずいい飲みっぷりだ。飛虎ともそうゆう所も合っていた。


「まあ可愛い息子と離れるのが寂しいのはわかるヨ」


空になった酒盃をドンっと床に置きながら小夜ちゃんが言う。


「分かってない!お前は分かってない!あの子は私の全てだぞ!!」


空の酒盃に再び酒を注ぎつつ思う。理由は分かる。どんな理由であれ飛虎は僕らと道を違えた。勝手に僕らをあの狐から逃がして死んだ。

あの時の絶望は僕も少なからず味わった。小夜ちゃんの心は折れそうだった。それを支えたのは間違いなくロンの存在だ。


「そんな言い方はウーロウが可哀想ヨ。」

「ぐ・・・・・」

彼女も理解はしている。ただ感情が追いつかない。

だから分かるとも分からないとも答えずそんな事を言った。彼女を慕い、弟子でどこまでもめげない阿呆で変態だが憎めないウーロウが彼女も可愛くない訳がない。

それに口には出さないが・・・・分かるとも。ロンは我が友の息子で僕の弟子で、、、僕の息子だ。


「それでもロンは行かなきゃいけない。前の報告の裏をとってみたヨ。・・・やっぱり狐が動き出そうとしているヨ」

ずっとあの九尾の化獣(ばけもの)は静かに眠りについていた。12年。それが飛虎が命を賭して稼ぎ出した時間だ。流石に九尾も僕らの今いる所をすぐに見つけ出すことは出来ないだろう。海をまたいでいるのだ。まだ時間はあるが。


「あっちの国で情報を集めてもらったヨ。九尾本体はまだ眠ったまま。けど九尾の残ってた5本の尾が消えたらしいヨ」

あの狐は九尾から三本落として六尾になった。そこからあの凶悪で強大な天災からもう一本、飛虎が落としたヨうだ。眠りについているときの尾の数は五本まで落ちていた。


「多分僕らを探すのに使っているヨ。海をまたいでだから多少時間はあるかもしれない。でも見つかった時に一番危険なのはロンだからね。あの醜悪な思考をする狐にとって最高の餌で僕らにとっては最高の弱点だヨ」


「だがあの子はまだ12歳だぞ!心配になるに決まっている!」

「んー。でも簡単に命を落とさない程度には鍛えたヨ?」

「それでもだ!この国で私達は一度あの老人(パオ)に負けたのだぞ!」

「気持ちはわかるけどね。でもあの老人(パオ)は事故みたいなもんヨ?あんなのゴロゴロいないヨ。」

「魔術は何が起きるか分からない!そんなものの傍にロンが行くなんて、、、」


心配しすぎヨ。親馬鹿にも程がある。ロンがこの国の大人にもそうそう負けることはないだろう。

ロンは仙術を使える才もあった。仙人になるには骨格等の生まれ持った素質が必要になる。ゆえに飛虎も小夜ちゃんもウーロウも気功は使えても仙術を使うことが出来ない。それに彼は強さに対して真摯で実直だった。ウーロウのおかげだろう。ロンにとって彼は共に競うには丁度いい才能の持ち主で良い好敵手だ。


「何が起きるか分からないから学ばせるんだヨ。それに彼が僕らを超える可能性は魔術しかない」


その可能性を最大限に引き出せるようにロンには気功や武術、仙術の基本の部分しか教えなかった。染まり過ぎないように。

僕の仙術を視て、盗んで、試行錯誤はしていたみたいだけど。その試行錯誤する才が彼にはある。学び、触れるべきなのだ。魔術に。僕のように仙人に成りきってしまう前に。仙人とは仙人という人とは最早違う生き物なのだ。人間辞めちゃった人間なのだ。だからこの国の精霊を扱う魔術は僕には扱えないのだ。精霊が僕を認識できないのだ。


「僕らを倒し得る可能性をあの老人は見せてくれた。あれも間違いなく化物だったヨね。

 ・・・・けどあの狐はもっと、、、、もっと化獣だからね・・・・」


色々な思惑と希望がある。

確かにこのままロンとウーロウが僕らの下で修行を続ければ大きな戦力になるだろう。

けど倒せない。あの狐は倒すことが出来ない。それぽっちの戦力では倒せる策が思いつかない。僕と小夜ちゃんが10人いヨうが倒せはしない。あの狐は狡猾で策を弄するが甘い。強者である事の奢りがある。だから打撃を与える事も出来たし逃げる事も出来た。

力という水を入れるには器がいる。その器も注がれる水も無尽蔵なまでに強大で強力なのだ。多少の力では飲み込まれるか、波紋を作る程度にしかならない。そういうふうに持って生まれてきたのがあの九尾の狐なのだ。


ロンはまだ器にもなっていない。器にならないように育てた。あの子は樹になるように育てた。簡単に折れてしまわないようにしっかりと根をはれるように土台を鍛えた。これからどのような樹になるのかわからないが水を飲み、陽を浴びて大きく育てるようにと。器に入った水程度飲み干せるようにと。彼には必要なのだ。魔術が。これから育っていくために新しい可能性を知って広げる必要があるのだ。


「彼があれだけ言ってもそれでも宝具をとって僕の跡を辿りたいって言うなら本気で仙人にしても良かったかもしれないけどね。」


僕にも欲はある。弟子が僕の積み重ねてきた全てを継いでくれるならこれ程、嬉しいことはない。

まあ女学生と女教師に負けたけど。時に彼は非常に非情に哀しい気持ちにさせてくれる。

うん。明日からの修行は厳しくしよう。


「ただ僕の技を継いでも狐からは逃げるしか手が打てない。半端に狐に挑むような事態になったら死にかねないヨ」


「・・・・そんな事は・・・・分かっているんだ・・・。ただずっと連絡も取れない、、。私たちが狐を相手に下手をすれば今生の別れになるかもしれない、、、。・・・心配に決まっているじゃないか・・・・」


「・・・・・・・」

しまった。だからか。そこまで重く考えてたのか。これを言うのは覚悟がいるヨ、、、。小夜ちゃん短気だからねー・・・。

僕はひどいやつだけどそこまで薄情ではない。彼には色んな経験を積んだ上で教えることがまだある。確かにそれまでに狐に負けっちゃったら終わりだけれど。


ロンと連絡をとる手段はある。その方法は明日からロンに伝授していくつもりだったから失念していた。彼の扱う『以心伝心』は(つたな)い。あの仙術には色々な使い道がある。そこを教えるつもりだった。それを使えば近況を知るくらいは容易なのだ。


さてどう言ったものか・・・。


「わかったヨ。小夜ちゃん。そんなに心配なら・・・ちょっと、難しいかもしれないけど新しい仙術を明日からロンに教えて連絡をとれるようにしてみるヨ」


「!!」


言い方も方便なのだ。脳筋なんぞ所詮ちょろイン(ちょろいヒロイン)だ。


「彼は血反吐を吐く思いで明日から学院に向かう冬明け頃まで修行することになるけど。だけど他ならなぬ小夜ちゃんの為だ。そこまで心労を抱えているなら僕が必ずなんとかしてみせるヨ!!」


恩をビシビシ売っておく。ついでに師を哀しい気持ちにさせたロンを虐める、、、、厳しく修行する口実も伝えておく。

失敗を好機に変える。これぞ華麗なる戦術だ。完璧だ。


「・・・狸・・・・お前最初から連絡とれる手段を用意してたんじゃ・・・・」


穴があったとすれば僕の日頃の行いか。っち。感のいい雌め。長い付き合いの中でいままで散々騙されてきた不信感と野生の感で図星をついてきた。だが、表情には出さない。こっちの化かし合いは年季が違う。


「そんなわけないヨ。それに、、、やっぱり僕もロンと別れるのは寂しいヨ。」

寂しげな顔をしながらこっそり仙術を使う。ロンが生まれてからずっと一緒にいた。少し寂しいのは本当。ちょっぴりは。その気持ちを『強化』して大気にのせてうっすら『以心伝心』。場の空気がしんみりする。


小夜ちゃんと僕の酒盃に酒を注ぐ。月を見ながら二人で煽る。さっきの不信感も酒で流せば綺麗に忘れる。所詮、脳筋でちょろインだ。


そんなちょっぴり外道な事を考えながら酒を煽っていく。


ゆっくり夜が更けお互い眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ