桜色の告白
「大好きでした」
今までの人生で、初めての恋。それと告白。
風が強く吹いて、私たちの上から桜の花びらがいくつも舞った。
視界がピンク色でまばらになる。
その先では少し困ったような顔をした彼。
ああ。駄目なんだろうな。
ふと、わかりたくなんか無いのに、わかってしまった。
彼はどう言ったらいいのか困ったようで、口を少し開きながらも声は発せられなかった。
だから代わりに、微笑みながら言う。
「なんてね、うそだよ」
はっと開かれた彼の眼。少し開いていた口を、きゅっと結ぶ。
そんな反応だけで、彼が何を言いたいのかはっきりわかってしまう。
わかりやすすぎるよ。
誰より優しい彼はきっと言えないのだろう。
そんなんだから私みたいなのが恋しちゃうんだ。
もっと、はっきり断ることを覚えなよ。
なんて思った。
「ひきとめちゃって、ごめんね」
ぺこりと頭を下げる。
ひらりと頭の上に乗る軽さ。
これが彼の手で、撫でてくれたらなぁなんて妄想。
叶わないんだろうけど、さ。
そう思ったら、なんだか視界がぼやけてきてしまった。
最低。こんなの、泣き落としみたいだ。
絶対に、涙を見せないと誓っていた私は、頭を上げようとはしなかった。
「おれは……橘の事を、友達としか見た事が無い。 だから、その」
「うん、大丈夫。 わかってた」
声が少し震えてしまう。あわてて、何でもない風に、
「というか、うそだって言った、じゃん」
なんて明るく言った。
その時だった。
「おーい! はやくしろよー!」
彼の友達の呼ぶ声が聞こえた。
「あー、今いく」
友達に返事をした彼が、私の方を見たのがわかった。
口を開くことも。
声を発そうとするのも、わかった。
「ごめん、それじゃあ行くよ」
彼の高くも低くもない、ちょうどいい声。
それが私の頭に一言掛けると、呼ばれた方へ向かったのがわかった。
なにもかもわかっていたのにね。
馬鹿な私の馬鹿みたいな片思いの初恋いは、最初からわかりきっていたように、終わりを迎えた。
頭を上げれば彼はいない。
私と、一本の桜の木だけ。
涙が、こぼれる。
桜色に染まった告白が、花びらと散った。