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半面は二度白くなる

作者: 銀狼

某チャットで立ち上がったシェアワールド企画の作品です。企画サイトに世界観や概要などが記載されていますので、まずはそちらに目を通していただければ内容がより理解できるかと思います。


企画のサイト

http://chaberinovel.web.fc2.com/


チャット

http://group.chaberi.com/group/775/


またこの作品は企画仲間が書いた作品から派生させたものです。その作品の紹介もさせて頂きます。こちらにも目を通していただければより理解が深まるかと思います。


流されがちなフォーシーム  著者:折角全 氏

http://ncode.syosetu.com/n9288bl/



 雲が少ない青空の下、遊星学園のグラウンドには体操服を着た生徒が次々と集まってきていた。気温がかなり低いため、ほとんどの者がジャージ姿である。それでも寒いと腕を(こす)ったり背中を丸めたり、身を寄せ合って固まったりしている者が多い。

 その中で一人、異質な雰囲気を(かも)し出している生徒がいた。誰と馴れ合うわけでもなく、独りで淡々と準備運動をやっている男子生徒。ジャージはズボンだけ、上半身は半袖である。逆の服装は何人も見ることが出来るが、そのような格好をしているのは彼一人だけだった。

 体操服の左肩には、学園の校章と共に彼の名前が刺繍されている。そこに書いてある名前は『海堂雅人』。生徒集団の一つ『シリウス』に所属する、高等部三年の生徒の名前である。

「そんじゃあ異能実技の授業を始める。全員整列しろ!!」

 チャイムが鳴り響いた後、教科担当の教師がメガホンを持って生徒に宣言した。その指示に従い、数十人もの生徒が学年別、クラス別、男女別、身長順で列を作っていく。

 異能を持つ生徒が集められた遊星学園ならではの授業、異能実技。各人が持つ異能についての理解を深め、またその異能を制御する術を実戦形式で学ぼうというものである。各自の習熟度、力量に応じた相手を選ぶ必要があるため、生徒は互いの合意をもって組手の相手を決定することになっていた。能力と言っても人によって、視力の強化から熱の操作、感情の誘発等と非常に幅が広い。故にこの授業は、学年を(また)いで行われることがしばしばである。

 しかし生徒の中には、この授業の特性を逆手に取る者もいる。それは現在対立している生徒集団、保守派シリウス及び革新派アンタレスのどちらかに所属する生徒達である。対立する者同士が相手になり、組手で勝敗をつけるというのは当たり前のように行われているのだ。敵対する者同士が力で決着をつけることが出来る機会とあって、授業をよくサボるアンタレス勢もこの授業への参加率は高い。

 この日雅人の相手を名乗り出た相手も、アンタレスのメンバーだった。

「この前はウチの先輩が世話になったそうで。俺が礼するよう言われたんすよね。つーわけでまぁ、一つよろっす」

 一人の男子生徒が雅人の前に現れた。足首を回し、茶色交じりの長髪をいじりつつ雅人を見据えている。雅人は組んでいた腕を解き、片足を引いて臨戦態勢に入った。

「アンタレスの篠原佐久間か。受けて立とう」

「ようし全員相手を見つけたな? そんじゃあ始め!!」

 教師が組手の始まりを告げた。




「先手必勝!!」

 開始の合図とほぼ同時に、佐久間が動いた。数歩で勢いをつけ、雅人の眼前で強く踏み込む。跳び上がって足を振り上げつつ、佐久間は体を縦に回転させた。いわゆるサマーソルトキックである。

 雅人はバックステップで回避し、一つ息をついて構えを直した。一回転して着地した佐久間を、鋭い眼光で(にら)みつける。

「いーよっと!!」

 勢いよく振りかぶり、佐久間が右ストレートを放つ。身振りから容易に予想がついた雅人は、これに掌底を合わせて軽くいなす。

 がしかし、この攻撃はフェイクだった。佐久間は崩れた勢いを利用し、左足での回し蹴りを繰り出した。目を見張った雅人だったが、掌底を出した後の左腕を右手で支え、肘を突き出すことで何とかこれに合わせる。

「まぁ、こっちが本命なんすよねー」

「そのようだな。危ないところだった」

 双方共に後退した。仕切り直すと、佐久間はまた距離を縮めた。先程よりも手前で強く踏み込み、雅人に膝蹴りを仕掛けていく。両手でこれを弾き、裏拳を仕掛ける雅人。佐久間は弾かれた勢いに任せ、崩れるように身を倒すことでこれを避ける。膝を出した足が地に着くと同時に、反対の足で雅人の足を狙う。だが。

「……あれ」

「地盤固めは基本だ」

 足払いを狙った佐久間の足は、払うどころか雅人の左足にせき止められていた。動きが止まっているところへ、ここぞとばかりに雅人が右の正拳突きを出す。地に着いた足に力を込め、佐久間はその場を飛び退いた。姿勢を整え、雅人の方へ向き直る。

「ハハ、まぁご自慢の強化なすった攻撃も、当たらなきゃ意味無いっすねぇ。俺には見えてますから、それ」

 そう言って目の横を指で叩く佐久間。彼の能力は『視力強化』。最大で二キロメートル先までの遠視、生物以外の物を透過して視ることも可能という能力である。今はその能力によって、動体視力を強化していた。それによって雅人の動きを先読みし、攻撃を避けていたのである。

 その戦い方、さらに自身の能力のこともあって雅人の能力を『身体強化』と考えている佐久間に、雅人は何を言うことなく構えを取って対峙する。

 佐久間が足技を仕掛け雅人が防ぐ。雅人の反撃を見切り佐久間が避ける。その応酬は何度も続いた。その中で佐久間は、強敵相手に善戦していると気を大きくしていき、反対に雅人は何を変えることなく淡々と応じていく。

 パンチを牽制(けんせい)に、佐久間は右足での蹴りを繰り返す。雅人は対応しやすいように、正面を左側にずらしていった。それが佐久間の狙いだった。

 雅人の構えがやや斜めを向いたのを好機と捉え、佐久間は大振りの左フックを繰り出した。上体を反らして避けた雅人は、反撃の為に身を乗り出す。

 その頭上から、佐久間の右足が振り下ろされた。左フックの勢いを利用して体を回転させ、雅人の注意が外れた右上から(かかと)落としを繰り出したのだ。

「よっしゃ!!」

 その一撃が入ったと確信し、佐久間は声を上げる。しかし雅人は倒れなかった。首元で踵落としを受け止めたまま、佐久間を見据えている。

 そしてここで、雅人が仕掛けた。佐久間の左足を払い重心を崩すと、片腕で佐久間の肩を押さえ地面に倒す。馬乗りになると、その顔面に拳を突き付けた。

「いってぇな……て」

 佐久間は驚愕した。一瞬のうちに押さえ込まれたこともそうだが、一番の原因は雅人の容貌にあった。彼自身が踵落としを仕掛けた雅人の首元。顔の右半分から肩にかけて、白い鎧のようなものに(おお)われている。

「俺の異能を『身体強化』か何かと勘違いしているようだが。俺の異能は『鎧殻形成』だ」

「……ハァ、そんなこと聞いてねぇよ……つか、能力無しであの強さ……」

 佐久間が呟いた後、教師が授業の終わりを告げた。今回は雅人に軍配が上がった。




 シャワーと着替えを済ませた雅人は、足早に学生食堂へと向かった。今は昼休み、当然ながらこの時間帯その場所は人が殺到し、席の確保が出来なくなる。それを防ぐために急ぎ足で向かったのだが、雅人が辿り着いた時には既に、人で(あふ)れかえっていた。

(やはり遅かったか。とはいえ一席くらいは無いものか)

 辺りを見回しながら歩いていく雅人。どのテーブルを見ても何らかのグループと見える集団で固まって、食事をしながら談笑している。こういう場合、他のグループとの接触を嫌って一席だけ空いているということがよくあるのだが、残念ながら今回はそれも期待出来そうにない。

(参ったな、席が無いとなったらどうするか……)

 そう考えながら歩いているところに、誰かが声をかけてきた。

「あれ、海堂先輩じゃないですか。何してるんです?」

 その声に気付き、雅人は自分の周囲を見渡す。黒い丸刈り頭の生徒がこちらに目を向けている。その顔を見て、雅人は納得したように話しかけた。

「ああ、大狗か。昼飯を食おうと思って来たんだが、どうも席が無さそうで」

「だったらここ空いてますんで、どうぞ」

 そう言うと丸刈りの生徒、大狗焔は隣の席に置いていた荷物を下ろし雅人に勧める。

「そりゃ有難いが、俺がいても大丈夫か?」

「ええもちろん、何の問題もありませんよ」

「そうか、悪いな。では遠慮なく」

 体操服を入れたビニール製の巾着袋を椅子の上に残し、雅人は昼食の注文に向かった。




「――てる人って嫌いなんだよね。女の子にはとーっても優しい私だけど、太ってるのはダメ。なんか豚っぽく見えて」

「はぁ。豚は美味しいですよね」

 席に着いて定食を食べていると、そんな会話が雅人の耳に入ってきた。彼の後ろにいる女子生徒が、誰かの体型をネタに話をしているようである。そのような話に興味の無い雅人は、内容が分かったところで傍受を止めた。

 食事を続けながら、雅人はふと焔のグループ構成を見て呟いた。

「しかしこれは、どういう集まりだ?」

 隣にいる大狗焔は高等部二年、彼の向かいにいる須和博紀も同じく二年である。だが須和の隣にいるのは、高等部一年の美吉芹那。三人ともシリウス所属という意味では共通しているのだが、それぞれの性格を考えるとそこまで仲が良いという印象は無い。

 そう考えていると、呟きを聞きつけた焔が小声で説明を始めた。

「実はですね、この前このメンバーである作戦を実行したんですよ。今日はその事で少し話があったので、この二人に集まってもらったんです」

「作戦?」

「ええ。作戦名は『虎の子(タイガー・チャイルド)』、アンタレスメンバーの秘密を探ろうというものです」

 目を輝かせながら、焔が(ささや)くように言う。雅人はそれを聞いて難色を示した。

「それは確か、前の会議でボツにされたんじゃなかったか?」

「それはそうですけどね、仲間の恥ずかしいところを(さら)されるというのは、集団の結束に崩すのに良い手ですよ。その有用性を証明すべく、本作戦を遂行したものであります閣下殿」

 小さく敬礼しながら笑みを浮かべる焔。雅人は斜め前の博紀に目を向けた。

「よくこいつに協力出来たな」

「まあその、何だかんだで押し切られまして」

 食後のデザートを食べていた博紀は、そう言って雅人に苦笑を返した。特に気になることも無く、雅人はさらに芹那へと視線を移す。

「お前は……いや、なんとなく推定できるが」

「面白そうだなぁと思ったからッス」

「……だよな」

 予想通りの返答をする芹那に、雅人は溜息交じりの言葉を返した。数秒の間瞑目(めいもく)し、気持ちを切り替えて焔に向き直る。

「で、結果は?」

「はっ、実行日の授業を一つ犠牲にしただけの成果はあったものと自負しております。二年の三笠天城、奴の密会現場を押さえました。ポラロイドでしっかり撮ってますよ。今日の放課後にでも会長達の誰かに渡そうかと思ってます。僕、須和君、美吉さんでそれぞれ一枚ずつ部屋に保管してますから、何かあってもどれか一つは渡せるでしょう」

「……そうか」

 耳打ちされた情報に、雅人は他に何も言えなかった。また溜息をつくような素振りを見せた雅人だったが、何かに思い当たり動きを止めた。数秒の後、雅人は三人に尋ねた。

「次の授業までの時間は?」

「えっと、後二十分といったところでしょうか」

 左手首のGショックを見ながら答える焔。それを聞いた雅人は苦々しい表情を浮かべた。

「しまったな、ここからだと時間はギリギリか……? 悪い、忘れ物を思い出したんでこれで失礼する」

「あ、お疲れ様です」

 焔の挨拶を聞き流しつつ、雅人は席を立った。トレイを返却口に返すと、足早に食堂を離れていった。




 雅人が向かったのは学生寮にある彼の部屋。学生食堂や次の授業がある教室からは大分離れているため、自然急ぎ足で歩を進めていた。

 ようやく部屋に辿り着くと、雅人は机に目を向けた。その中央辺りに置かれていた辞書を手に取り、安堵の溜息をついた。

(予習で使ったのを忘れてたな。さて、教室に向かうか)

 体操服入りの袋を置いて部屋を出ようとした瞬間、何かを叩き割る激しい音が部屋中に響いた。反射的に音が聞こえてきた方を見ると、窓ガラスが破れている。

 ガラスの破片に注意しながら、窓辺に寄っていく。見える景色はいつもと変わらないが、今起こっていることは非常である。警戒を強めつつ、周囲をよく見ようと窓から顔を出す。突如その視界の下端から、高速の白い物体が飛んできた。

 その物体に気付いた雅人は、間一髪のところで鎧殻を形成し、辛うじて弾き返すことに成功する。その衝撃に眉を(ひそ)めつつ、何かが飛んできた方に目を向けた。

 一人の女子生徒と目が合った。彼女は何かを拾って投げ、隣の部屋の窓ガラスを割って去っていった。室内の床に目をやると、土のついた石が転がっている。

(あれは確か、アンタレスの静谷彩……成程、報復か)

 先ほど聞いた焔達の話を踏まえ、雅人はそう判断した。シリウスと違い、アンタレスのメンバーに校則などは関係無い。こういった手段に出ることも容易に想像出来る。

(ま、今回のは一部の独断専行だ。チームというよりは三笠個人の差し金かもしれんがそれは置いといて……あの三人はサボり、静谷は器物損壊。経緯も踏まえて後で会長に伝えておくか。罰則はあいつらの判断次第だが、あったとしても自業自得だな)

 報告内容を考えながら、雅人は教室への道を急いだ。

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