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5 剣の舞

Aram.I.Khachaturian 作


★クロード&ジョージ&フランツ登場

 満十歳を迎え、義務である入団試験を受けるため、やってきました王都にね。

 最年少合格者が十二歳だというのに、剣技や魔術に長けてもいない私が合格するわけがない。

 でも受かるまで毎年受け続けるのが義務だからね、仕方がない。


 掲示板を見上げ、入試の段取りを頭に入れる。

 屈強そうな大柄の入団希望者が群がっているため、(ちょっとだけ)小さな私では掲示板が見えるか心配だったが、心配ご無用。全く問題なく最前列に誘導された。


 レディファーストを守る、騎士道精神の表れだろう。

 私を見て何故か皆驚いた顔をするけれど、すぐさまニコニコと優しい笑みを浮かべ、皆が手のひらを上に向けた仕草で私に場所を譲ってくれた。


 と、信じて疑わなかったので、都合の悪い戯言は聞こえません。



「幻覚か? ヨチヨチと可愛らしい幼子がいるように見えるんだが……」

「お前もか? 騎士には程遠い華奢な女児が俺にも見える……」

「だけどよ、あれ、誰かに似てねーか?」


 先に寄り集まって四方山話に勤しむ者たちの間へ音もなく割って入り、相手をひれ伏させる覇気を纏って笑顔で威嚇する男が一人。


「マイスイートアンジェは唯一無二であって、誰にも似てないからね? 誰にもだ!」




「「「ひっ」」」






「マイハニーアンジェ、今日の曲は何にするの?」


 隊服に片マントの準正装な兄が、どこぞのランウェイ歩きで両手を広げながらやってきた。

 だから心置きなくバフっと抱きつき、兄の薫りを直に吸い込みながら返答する。


「んー。やっぱりハチャトゥリアン様にする」

「あぁ、あの、チャチャチャチャチャチャチャ?」

「そそ! 剣の舞だし、剣の試験だし」


 イケメン兄の、騎士制服姿は萌えである。

 前世も今世もピアノピアノで世間には疎いけれど、それでも知ってますよコスプレとか乙女ゲームとかってのをね。

 キュンキュンするんでしょ?

 上半身のどこかが。正確な場所は知らんけど。



「ならずっと、試験が終わるまでそれを口ずさんでるんだよ」

「はい! なんか燃えてきた。修造っぽく」

「シューゾー? ま、うん。その調子。ずっと側にいるからね」


 当たり前のように、前髪を掻き揚げられ、額の生え際に激励のキスを施される。

 辺りのざわめきが都度大きくなった気がするけれど、どうだザマーミロ、羨ましいか? 羨ましいだろ、これが我がイケメン兄だ~!で流そうと思います。



 入団試験はとてもシンプルで、審査試験官たちの前で、団員と剣の腕を競い合う。

 ま、要は実地試験だね。

 当然使うのは木刀ね。


 制限時間は五分で、その間に一本を取られたら時間を待たずに終了。

 もちろん、団員から一本を取っても終了だ。


 私と対戦する団員は、チラチラとエリック兄を見ているから、大いなる忖度を期待しよう。

 いざ! 兄に言われた通り、ハチャトゥリアン様を脳内リピートして頑張るぞ!


 と、思ったのですがぁ。


 ……? この試験官さん、動きが遅くない?

 や、流石にそこまで忖度してくださらなくても大丈夫ですよ?


「一本っ! 勝者アンジェリク!」


 あ、あ、あ、あれ?

 勝っちゃった?

 ものの数十秒で、喉を木刀の先で小突けてしまったのですが……

 ヤバい。ちょこまか動いて時間稼ぎをしようと思ったのに、これじゃエリック兄忖度の不正行為がバレてしまう。


 当然辺りもザワつき始め、堪らず審査官から待ったがかかる。

「すまないが、今度はこいつと手合わせをしてみてもらえるか?」

「は、はい!」


 ほぉら言ったこっちゃない!

 もっと上手に忖度してくれないから、再試験になっちゃったじゃん!


 と、思ったのですがぁ。


 ……? そのクマのような体格は見掛け倒しなの?

 や、その力を込めている感じの顔演技は素晴らしいけど、実際は全く力入れてないよね?


「一本っ! 勝者アンジェリク!」


 あ、あ、あ、あれ?

 また勝っちゃった?

 今度は一分くらいかかったけど、足に一本決まっちゃったんですが……

 ヤバい。ほんとに勘弁してよ。今度こそエリック兄忖度の不正行為がバレてしまう。




「おいおいおいおいマジか」

「流石というか何というか、ローレン家の遺伝子は恐るべしだねぇ」

「だなぁ。どぉれ、俺が相手になってみるか」



 何やら物騒な会話を広げるこのお二人は、周囲のザワつきや見た目年齢加減からも、隊長格なんだと思う。

 だからハッキリ言おう。


 違うんです。この方々は兄に忖度して手加減をしてくれたんです。

 入団試験に隊長が出てくるなんて、ズルくないですか!

 そこまでして勝ちたいですかっ!


 そんな私の心の声が届いたのか、若く細身な男性が突然現れ、二人に声をかけた。


「失礼。ここは私に彼女の相手をさせていただけませんか?」

「お? フランツが出てくるってことは、こりゃこの女児は稀者か」

「まぁ、それだけじゃなさそうだけど、今回はフランツに譲ろうか」

「ありがとうございます。クロード、ジョージ」


 同格で会話を繰り広げているところからして、若いけどヤバイのが出てきたのだと悟る。

 その漆黒の髪とアメジスト色の瞳は、闇の魔力を孕んだ悪魔っぽい感じで恐ろしいし。


「初めましてアンジェリク、私は第四騎士隊のフランツと申します。ですがご心配なく、私はゲオルク隊長にもエリックにも忖度はいたしませんので」




 フランツだとぅ?

 ちょっと巻き舌気味にその名を心で呟いた。


 前世でそれはそれは苦しめられた二大トップの名前であり、その名を聞くだけで指が震えるほど、それはもうトラウマな名だ。

 因みにもう一方は、セルゲイさんと仰りますけどね。


 が! 笑みを浮かべているのに、エリック兄と同じく一切の隙がないのですが。

 この十年、エリック兄から一本も取れた試しがないので、全く勝てる気がしませんよ。

 更にフランツさんは、私に面を打ち込み続けながら、一人心地にぶつくさ唱え始める。


「なるほど。完全防壁ですか…ではこれはどうでしょう?」


 ところがその一手で、フランツさんの動きが止まる。


「アンジェリク…貴女は一体……」


 だなどと、訳知りに呟かれても、私には何のことか分からないのでキョドるしか有りません。


 WHAT?!


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