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56 星のどうぶつたち はくちょう

Karen.T 作


SIDE カレン


 なんなの? もう、なんなのよ!

 あたしは特別なの。あたしが笑えば誰もが虜になるの。

 あたしは女神の生まれ変わりって言われ続けてきたの。

 そう、この世界はあたしのものなのに!


 騎士団に入隊してからおかしなことだらけ。

 もっと崇められるべきだし、ちやほやされて当たり前なのに。

 なんでみんな、あたしを見ても平然としているの?



◆◇◆◇◆◇◆



 あたしの母親は、由緒正しい男爵家令嬢で、その美貌と天真爛漫な性格から男性を魅了したと聞いたわ。

 でもあたしは、母親に会ったことがない。

 あたしが産まれたのは修道院で、母親は産み落としたあたしを見て、発狂して死んだらしい。


「よりによって、なんであいつの子どもなのよ!」


 母親の最後の言葉がこれって、笑えるよね。

 でも、なんでそんな言う必要のない嫌な話を、あたしは周りから告げられたのか?

 それは母親が、修道院のみんなから嫌われていたから。

 母親のあだ名は数多いけど、売女、淫婦、阿婆擦れ……どれもそっち系だった。


 我が母親ながら、バカな女よね。

 遺品だと渡された日記にも、セシルとアヴァって人への怨念めいた愚痴と、色んな男との溜息が出る描写ばっかり。

 せっかくのお貴族様だったのに、家からも勘当されて修道院におくられちゃったわけだし。

 だからあたしは、こんな女にならないと決めた。

 にこにこ笑っていれば、みんな優しくしてくれるもの! 


 けれど、なぜ母親があたしを見て、狂って死んだのか。

 その答えはすぐやってきたの。


「カレン? グノー男爵様が、あなたに会いたいそうですよ」


 シスターに呼ばれ踏み入れた応接室で、優雅に寛ぐ男。

 この辺りでは珍しい、ピンクブロンドに煌めくアースアイ。

 あたしと瓜二つな色を持つこの男が、間違いなく父親なのだと分かったわ。

 そしてあたしを修道院(ココ)から連れ出し、引き取ることも。


「ワカコの子だね? 私はヨーゼフ・グノー。君の父親だ」




 予想通りの展開で、あたしの生活は激変したわ。

 引き取られた先の男爵家には兄が居て、あたしの五歳上だと言う。

 奥さんは流行り病で亡くなったそうで、そこで漸くあたしを引き取ることができたのだとも聞いた。


 ここでの暮らしは快適だった。

 騎士を目指す兄は騎士道精神で、突然できた妹のあたしにも優しかった。

 さらに父親はあたしを良い家へ嫁がせようと、様々な習い事をさせてくれたわ。

 勉強やマナーの躾は嫌だったけど、ピアノやダンスはまぁまぁ好き。

 でも修道院同様、メイドとかにはあまり好かれていないけど、どうせ僻みだし無視してるの。


 あたしは庭師や料理人とかの使用人さんたちにも愛想よくしたし、お手伝いだってしたわ。

 領地の人たちだって、視察に行けば、あたしのことを妖精だ女神だって言ってちやほやしてくれた。

 そしてあたし、光魔法の属性持ちだったの。

 それは希少な属性だとかで、大貴族の方に数人いるだけらしくて!

 だからもう、男爵家に引き取られてすぐに、あたしは特別だって分かってた。

 この世の全ては、あたしを中心に動くってことを!


 こうして成人するころには、このあたしが男爵家令嬢なんかじゃおかしいって思い始めたわ。

 だって何もかもが想像通りになって、願いが叶うんだもの。

 だから母親があたしを見て、発狂した理由が分かったわ。

 母親の日記に登場していた男たちを全員調べたら、父親以外は全員隣国の高位貴族だったんだもの!

 


 社交界にデビューしたときも、垣根ができちゃうくらいダンスに誘われたわ。

 でもその場に来る男って、子爵以下の下級貴族なの。

 男爵令嬢では、上位貴族の夜会に行けないっておかしくない?

 あたしはこんなところで終わるはずがないの。もっと高貴で素敵な……王子様でも良いのでは?


 だから騎士団を受験したの。

 高位の子息が沢山いるって、父親が言っていたから。

 けれど、合格確実と言われた騎士団に入れなかったの。補欠って言うらしい。

 魔術師として入隊するには、知識知能が足りないと。

 確かに勉強は好きじゃないし、身についてなかったけど……

 でも、光属性なのよ? それだけで入れるはずじゃなかったの?


 そんな時、父親が言ったの。兄の忘れ物を届けに寮へ赴けと。

 そして沢山瞬きするんだよって。私が目をパチパチするのがとても可愛いからって。

 だから守衛さんの前で、瞬きを沢山しながら兄の忘れ物を届けに来たと伝えたら、寮の中まで案内してくれたわ。

 

 そこであたしは、運命の人に出会ってしまったの。

 

 フレデリック……


 出会った瞬間、この人だってビビッときたの。

 しかも侯爵子息で勇者の孫よ? あたしにピッタリ!


 それは彼も同じたったみたいで、すぐにあたしへ『様呼び』をやめてほしいと言ってきたわ。

 恥ずかしがって、あたしと目を合わそうともしないウブな人なの。

 さらにいつでも部屋へ入れる解除魔法も、教えてくれた。

 実際教えてくれたのは兄だけど、フレデリックからあたしへ伝えてほしいと頼まれたのだそう!


 だからその解除魔法で、毎日毎日彼の部屋で彼の帰りを待ったわ。

 ピアノに置かれていた楽譜も、愛の喜びだなんて題名で。

 バイオリンパートも書かれていたから、あたしとアンサンブルをしたいのだとも直ぐわかった。

 しかも、勇者ヴォルフガングのサイン入りの楽譜よ。

 大公閣下までが、あたしたちを祝福し、応援してくれているなんて!


 父親にそれを話したら、勇者ヴォルフガング大公閣下が主催する舞踏会で、婚約発表をするに違いないって言うの。

 どうしよう。頑張って練習しなきゃ!

 

 母親は、ピアノが得意だったと父親が言っていたわ。

 隣国大聖女であるセシルとか言う人と競うくらい、素晴らしかったのだと。

 だからあたしだって、練習すれば母親くらいになれるはず。


 我が家にピアノはないから、フレデリックの部屋で練習をすることにしたの。

 それなのに、フレデリックの部屋へ入れなくなっちゃって……

 困っていたら、鍵という金属でできた道具を、あたしに渡してくれる団員がいたの。

 きっとフレデリックが、あたしに渡すよう頼んでいたのね!


 けれど、その発表会は実現することなく、阻止されてしまった。

 先ほどまで騎士団寮へ居たのに、気づいたら自室に佇んでいたの。


 母親の日記に最多登場する、ゲオルクと言う男。

 日記を読む限り、明らかに母親の片思いな気がするけれど、その男の息子であるエリックに出会ってからの記憶がない。

 それは父親も兄も同じで、数か月分の記憶がすっぽり抜けてしまっていたわ。

 でもあたしの心は常にフレデリックと一緒。決して負けない!


 

 こうして、フレデリックとも会えないまま、ピアノも弾けないまま時は過ぎ……

 聖都教会でオルガンを弾いていたあたしに、甲高い声が聞こえてきた。


「嘘でございましょう? まさかフランチェスカ・フープ?!」


 ぐるんぐるんな菫色の髪を大袈裟なほど揺らしながら、教会服を着た女が言葉に詰まっている。

 この女は突然出てきて、一体何の話をしているの?

 

「はぁ? 誰の何の話をしてるわけ?」


 だから光魔法に乗せて、いつもメイドたちに言うように、威圧的に言葉を放った。

 それなのに、そんな光魔法など全く効果がないとばかりに、逆に威圧をかけて返答された。


「あら、ごめんなさい。昔の知り合いに、一瞬似ていらっしゃると思ったものですから。空似でしたけれど」

「はぁ? バカじゃない? あたしが誰かに似てるわけないでしょう? あたしは可憐なカレンなの!」


 負けられない。ただカンがそう囁くから、威圧に威圧を返して言う。

 けれどそこで、このあたしがびっくりするほどのドス黒いオーラを纏った、紫髪の呟きが聞こえた。



「はぁぁぁぁぁぁ? そうか、お前が……」



 我が家にある小説で、メイドたちに人気の物語があった。

 どの物語にも、登場人物に、最大の悪役が居た。

 そんな人物が実体化したと思えるほどの、悪役っぷりにギョっとしたけれど、目の錯覚かと思うほど、瞬きとともにそれらは消え去っていた。

 

「なるほど。すべて繋がりましたわ。わたくしは認めませんけれど……」


 穏やかに微笑む紫髪の言うセリフは、全く理解できないけれど。

 けれどその意味は、後日すぐわかった。

 あたしのカンが囁く。この女だけは死ぬほど嫌いって。


 アンジェリク……

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