55 Romeo and Juliet No13
騎士たちの踊り
Sergei Prokofiev 作
なんだかんだのかくかくしかじかで、大聖女ソフィアが退団して半年。
その穴埋めとして、繰り上げ入団をされた女子がおりまして。
その名もカレンさん。えぇ、ソフィアがヒロインと呼ぶ方でございます。
同じ九番隊にお兄様もいらっしゃるそうで、兄妹入隊仲間でもあるし、親交を深めようとしたのですが……
なにやら目の敵にされているわけですよ、え、マジなんで?
「なんでいつもいつもここに居るわけ? 邪魔なんだっつうの」
キュルキュルとした可愛らしい笑顔で私へと駆け寄ってきてくださるのですが、耳元で囁かれる台詞は凄味があって怖いです。
というよりも、騎士団員なので訓練場にいつもいつも居ちゃうんです。
なので是非我が上司に、アンジェリクさんは訓練所に来させるな。と、言っていただけないでしょうか?
「え? じゃあ、もう帰ってピアノ弾いてて良いですか?」
「はぁ?」
「や、ここ訓練場なんで、来たくないのに来なきゃならなくてですね? 寒いし」
「バカじゃないの? あたしはおまえに目立つなって言ってんの。わかる?」
もう皆様ご存じかと思うのですが、ここで登場するのは……
何故か私の邪な感情を、機敏に察知することの出来る特異体質なお方です。
「アンジェリク? まさかとは思いますが、貴女今、寒いから帰りたいなどと言いませんでしたか?」
更にそこへ登場するのは、野次馬根性最上級のズッコケ転生組ですね。
というか退団した割に、頻繁に訓練所を訪れる大聖女様ってどうなの? 暇か!
「えーアンジェ、なんかまた面白いことやってる?」
「いいえ、単にアンジェリクがフランツ様を怒らせただけですわね」
そうすると、まぁ大概、このヴィジュアル担当とその家臣が加わってくるのがデフォルトと申しますか?
「ハハっ! 寒いなら素振りしようよアンジェ! 温かくなるよ!」
「えー、ガチで嫌」
「ちょ、アンジェ、我が隊長に失礼が過ぎるでしょう?」
ジョウは今世紀最大のオカン候補だと思うのですが、あ、皆さまもそう思います?
ですよね~。
けれどそこで、鳴りを潜めていたカレンさんが、突然主張をされ始めました。
左手を頬に宛がい、とてもお辛そうに言葉を発せられます。
「アンジェリクさんが、あたしを邪魔といつもいつも……」
文法が微妙に間違っていらっしゃると思うんですよ。
いつもいつもここにいるのは、私だったはずじゃ。
けれどカレンさんの悲愴感に、心当たりがありました。
しかもあの仕草ですから、間違いない!
「カレンさん大丈夫?! 歯が痛くなっちゃったの? わかるよ、わかる。歯痛は我慢できないよね!」
「ッなっに言ってんだ、おま」
「アンジェおま、ほんと色々ブレないねぇ……」
カレンさんが眉間に皺を寄せて何かを言いかけましたが、何だろう?
それに被せてルロイが、ドン引き加減で何やら呟くけれど、何故だろう?
けれどそんなルロイを押し退け、ソフィアが結構大きめの声で解説をし始めた。
否、かなり大きな声かも。
「いやですわアンジェリク、アレはあざとガールご用達の仕草ですわよ!」
「あざとガール?」
「えぇ、あざとい女のことですわ! あのように頬に手を当て、コテリと首を傾げておねだりをするのですのよ!」
「お、おお!」
素晴らしいことを聞いた。
おねだりにはあざとガール。チョコ食べたいな。
「因みに、あざとボーイの王道はこうですの!」
そう言うが早いか片手を首の後ろ側に当て、斜に構えてこちらを見た。
「えっと、それは首のコリをほぐしているのではなく?」
「違いますわよアンジェリク、いい加減になさってくださいましね! 眼精疲労でも肩こりでもありませんわよ!」
最近、ソフィアの当たりがキツイです。
というか、もう呼び捨てでよくね? と思ったので、断りもなく呼び捨てにしています。
けれど初めて呼び捨てにしたとき、何故かソフィアが赤面していたのですが、え、なんで?
まぁ、そんな余談は置いといて、話の流れ的にルロイへ無茶ぶりを決めようと思います。
「えー。ねねルロイ、あれ、ちょっとやってみて」
「えぇ? あぁ……こう?」
左手を首にあて、ノリノリのルロイが上目遣いでこちらを見た。
途端に零れる素の言葉。
「うっわ、あざと!」
「なんてこと、なんてこと、オーマイガッオーマイガッ!!」
十字を切ってから指を組み、天高く祈るソフィアはスルーしよう。
大聖女様だけに、祈りの姿勢が綺麗ですけれど。
というか、こっちの宗教も十字を切るんだね。知らなったよ。
こうして、カレンさんそっちのけで話は展開され続けたため、ヒロイン不在の物語は続くよどこまでも。
「なんなのよっ!」
と、捨て台詞を放ちながら、カレンさんは走り去って行きましたとさ。
けれど、私のモヤモヤはモンモンと広がるばかりだ。
だってさぁ、カレンさんさぁ、訓練バックレても良いのでしょうか?
私だって、帰ってピアノ弾きたいのですが!
だからこのモヤモヤを解消するべく、その後の食堂で覚えたてを披露した。
「アンジェ、チョコが食べたいの♡」
「クハッ!!」
「ブハッ!!」
効果の有無は解りませんが、エリック兄とフレデリックが何やら色々なものを噴き出しました。
けれど我が上司には、完全に無効なようです。
というより、全く持って逆効果でした……
「なにが『アンジェチョコが食べたいの♡』ですか!」
犬の威嚇レベルに鼻に皺を寄せた上司から、両頬を適度な感じで引っ張られ、大袈裟に文句を叫ぶ。
「いしゃいいしゃい!」
「大事なことは常に適当な癖に、そういうあざといことをどこで覚えてくるのですかっ!」
上司が腰に手を当てながら文句を言い始める。
最早疑いようのない長丁場の説教ポーズを取られたため、ちょっと反抗期な私は、唇を尖らせて言い返す。
「えー、だってぇ、ソフィアがぁ、女子ならみんなやってるって言ってたしぃ」
「他所は他所、ウチはウチですよ!」
……。
なんだそのオカン発言。
あ、オカンだったわ。失念しておりました。
「なんだ騒々しいな。ま~た何をやらかしたんだ、アンジェリクは」
欠伸傍らお気楽加減で登場するセルゲイ隊長が、登場シーンの決まり文句を放っている。
だがしかし、私が何かを常にやらかしているようで腹立たしい。またとはなんだ、またとは!
けれどそこへルロイが、何やら語り掛けてくる。
「アンジェアンジェ、人差し指を立てて!」
「ん? こう?」
「そそ、んでその指先を顎に付けて、同じセリフをセルゲイに言って」
なるほど! あざとガールのおねだり上級編ですね!
良いですとも! やってやろうじゃないですか!
「アンジェ、チョコが食べたいの♡」
「……。なんでだよ、さっきお前はイチゴケーキを食べてただろ?」
「うっわ、セルゲイ耐えたわ。ちっ。ママは無理でもパパはいけると思ったのに」
何に耐えたのか、ルロイの話は全く分かりませんが、明らかに耐えられなかった本物が無茶を叫びながら登場です。
「樽だ、樽でチョコを持ってこい……」
最近、ソレが、ストーカーに思えているのですがどうでしょう。
今も私の影から魔法陣なく現れましたけれども。
何やら私の一語一句、一挙手一投足が筒抜けの予感しか致しません。
まぁ、エリック兄もできる芸当なので、ソレが出来て当然なのでしょうけれど。
や、待って? ならば私もできちゃうのでは?
あ、いやいや、それよりも止めなくては!
「パパン、そんなにはいらない。鼻血がでちゃう」
「そうか。だがしかし、鼻血を出す私のアンジェリクも可愛いが過ぎて見」
「見せたくないからね?」
「そうか……」
打ちひしがれる傾国のイケオジって、需要があるんですね。
食堂のあちらこちらで、また皆さまが倒れておりますよ。
斯く言う私も、父親の辛そうな顔を見るのは心が痛い。
だから喜ばせようと、あざとガールフルスロットルで頑張ったというのに、オカンはママンよりオカンでした。
「でも、バケツくらいなら食べられるよ♡」
「そうか! ならば、バケツでチョコを持っ」
「冗談じゃありませんよっ! 先程から親子して何言っているのですかっ!」




