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52 カルミナ・ブラーナ

おお、運命の女神よ

Carl Orff 作


★ゲオルク登場

「ア、ホ~ニュ~ワ~~~」

「ねぇ、気持ちよさげに歌ってるけど、僕は絨毯じゃないからね? ドラゴンね? ドラゴン。わかってる?」


 白竜に変身したルロイの背で、大聖女様とデュエットしながらモヒカンクジラを目指す。

 勿論私が男役であり、大聖女様はお姫様役だ。


 竜の飛行は、それはそれはアンビリーバボサイツ!

 だから思わず歌ってしまったのですが、それは大聖女様も同じで…は、なさそうですか?


「アン…ジェリ……歌っ…意識が……」

「は? 何いきなり。今までノリノリだったじゃん!」


 と、言ったのはルロイであり、それは大聖女様の顔面を物理的にも見られないからであり……


「やば! 大聖女様、シールド掛けてない!」

「えぇ? それ死亡フラグ~! アンジェダッシュ!」


 竜の時速は、駿馬や妖馬(グラニ)などの比ではない。

 虫どころか風自体が凶器となり、気流の乱れで息もできなくなる。

 まぁ、飛行機に何の装備もなく乗っているようなものだよね。

 けれどソフィアさんは大聖女様だけに、ご自身で結界を掛けていた。

 なので完全に油断をしておりましたが、結界とシールドは全くの別物のようです。


「ユーはショックっ!!!」


 とりあえず全力クリスタルなキングを叫び、大聖女様にシールドを張った。

 やっと真面に呼吸ができた大聖女様は、涙を浮かべて呟く。


「無残に飛び散るかと思いましたわ……」

「かっ! 絶対心配しないからね、もう!」


 心配したのか、したんだな。

 なんだかんだ、フェリクス様ルートは順調にラブラブのようだ。

 だから冷やかし加減の、いやらしい笑みを浮かべて、何度も頷きながら大聖女様の肩をポンポン叩く。

 頬を染めて恥じらう姿が、お可愛らしい。




「よし、行くよ! 準備はいい?」

「オッケー!」

「オッケーですわ!」


 上司秘伝のかまいたちを起こし、モヒカンを掻き分け斬る。

 そして表れた穴にナミナミと水を注ぎ入れれば、ルロイが苛烈な冷気を放ち瞬間冷凍だ。

 最後の仕上げは大聖女様が凍った秘孔に結界を張る。要は蓋だね、蓋。


「今、鼻孔を塞いだ。お前はもう死んでいる……」


 水面に浮上しているクジラの穴は全頭塞いだ。

 けれど、三秒どころか三十秒経っても、あべしもひでぶも起こらない。



「「「あれ?」」」



 私たちだけでなく、当のクジラたちまでもが首を傾げて戸惑っていると、エアーパッドを空中操作しているらしいルロイが言い出した。


「あーしまった! 酸欠になるの二時間くらいかかるじゃんこいつら!」

「えぇぇぇ?」


 でも考えてみればそうだ。普通のクジラでも、平気で一時間は水中に潜っていられるはず。

 ケートスならば、その倍はいけそうだ。

 普通に凍らせたくらいなら、水中に潜られてしまえば解凍されてしまうけれど、大聖女様が蓋をしてくださっているので、その点は大丈夫だ。

 けれど酸欠になるまでの時間を、どのように過ごしたら良いのでしょう。

 あれ? もしかしてこれ詰んだ?




『チュドン!』





 ところがそこで、突然モヒカンクジラのお腹に穴が開く。

 それはもうボッカリとドデカイ大穴が……


「うぉぉぉぉーーーーーっ! 魔力に波動を乗せて捩じ切った!」


 ルロイはスポーツ解説者ばりに驚愕絶叫しているのですが、意味不明です。

 けれど穴の向こうから見える姿に、戦慄した。


「ぐっ…もしかしてアレ、パパン?」

「えぇ? お父様でいらっしゃいますの?」




◆◇◆◇◆◇◆




 O Fortuna~~~~~!

 velut luna~~~~~!

 statu variabilis~~~~~!



 大地なき大海で、足場は船の上しかない。

 そのような状況でのコレは、祈りに似たカンタータが脳内合唱される。

 なぜなら、傾国の魔王が青い炎という名のオーラを纏い、近づいてくるからだ。


 私は知っている。

 アレはヤバイ。語彙力だなどと言っている場合ではない。

 ヤバイ。兎に角ヤバイのだ。

 

 まるでエスカレータのように、足を動かすことなく空中歩行で我が船へ降り立ったソレは、その光景に唖然とする全ての物体を無視して語り出す。


「私のアンジェリク。否、訂正しよう。私だけのアンジェリク。無事か、怪我はないか、何故白竜などの背に乗っていたのだ。可愛いが過ぎて攫われたのか? だとしたら今すぐアレを始末しよう」


 矢次に自己完結を繰り返すソレは、挨拶もそこそこ物騒なことを言い出した。

 既に何か良からぬものを発動するべくな動作で、片手のひらだけをルロイに向けている。

 私も色々と聞きたいことがあるはずなのに、訂正に追われてそれどころではない。


「や、攫われてないから! ルロイを始末しないで」


 ルロイに向いたソレの手を叩き落とし、その勢いのまま抱き着いた。


「そうか。どれ愛しい顔をパパに良く見せておくれ♡」


 頤を持ち上げられ、強制的に視線が重なる。

 途端に甘く甘い絶世傾国な微笑みが、私だけに降り注ぐ。

 この段階で、精鋭と呼ばれ選抜されたはずの隊員たちが、バタバタと倒れる音が鳴る。

 最早女性陣は全てノックダウンかと。


「私とアンジェリク以外、この世から消えてなくなってしまえばよいものを」


 虫も殺せないような柔和な微笑みを湛え、甘く囁く言葉が狂おしく物騒だ。


 


 団長を初めとするその場の全員が、一人一人とさざ波の如くソレへ跪く。

 忠誠を誓う何かの儀式のように、胸に手を当て、頭を垂れるその仕草に唖然とする。

 なんだこれ……

 

 輝きを失ったような瞳で、ルロイやソフィア、そして聖騎士隊の方々までも屈するように俯き跪く。

 膝を床についていないのは、ソレの後方に待機するエリック兄と、抱き上げられたままの私。

 つまりローレン家のみだった。


 船上を、ソレに抱きかかえられながら歩み進む。

 微妙な辺境訛りなのか、威嚇煽りなのか、どちらもなのか、巻き舌加減でソレは言う。


「フラぁンツ。貴様がどうしてもと乞うから私のアンジェリクを任せたというのに、視ろこれを……アンジェリクの大事な指がささくれているのだが?」

「も、申し訳ございません……」


「セルぅゲイ。お前は私に何と誓った? 私のアンジェリクを? 白竜を?」

「も、申し訳ありません……」


「ヨハぁン。私はクラーケンの討伐と聞き及んでいたのだが、理性を失ったケートスの群れに……私のアンジェリクが?」

「予期せぬ事とはゆえ、大変申し訳なく……」


「はっ。ケートスすら一人で倒せぬ最弱フレデリぃック……貴様には何も語る資格はない」

「くっ……」



 兎に角、色々聞きたいことが矢継ぎ早に増えていくのだが、どこから聞けば良いのか分からない。

 なので、とりあえずの否定を先にする。


「えっと、ねぇパパン? 私のささくれとか、どーでも良くない?」


 さすれば大袈裟な程身体を震わせ、驚愕の表情を浮かべたソレは言う。


「な、な、何を言うのだ、この世にこれ以上大事なことなどなかろう?」

「いやぁ、威圧で跪かせてまで、お説教すること?」


 ちょっぴり頬を膨らませ怒り気味にソレへ文句を吐き出すが、温良で美しい微笑みを携えながら真逆の言葉をソレは吐く。


「当たり前だ。このささくれすら護れない者になど、私の愛しいアンジェリクを預けるとなどできぬであろう? 勿論仕置きが必要だ」


 そう言って私の手を取り、ささくれに口づける。

 途端にささくれは消え、剣だこすら無い艶やかな手に回復した。


 やばい。考えても無駄だから感じるんだ。いや、考えるべきなのか?

 でないと、このまま辺境の邸宅に監禁されそうだ。いや、される。確実に。

 やばいやばいやばいやばい。

 そんな『やばい』に支配された私の口から漏れ出てしまったのが……

 

「パパンって、ちっさ!」

「くはっ!!!」


 大打撃を受けたが如く、ヨロヨロと胸を押さえながらソレは演技する。

 けれどそこで、兄エリックがソレに跪いて要件のみを述べる。


「閣下、南方三七に」

「チッ」


 南方三七が、何かわからん。

 更に、父親を閣下と呼ぶエリック兄がわからん。

 なんやねん、この意味不明の集合体。


 けれどソレから見えぬよう、エリック兄が私へウインクした。

 そこで兄の意図に気づいて、安堵の笑みを浮かべた。

 

「アンジェリク……パパはどうやらもう行かねばならないようだ……」

「あ、そうなの? てか、何しにきたの? 通りかかったの?」

「アンジェリクがパパを呼ぶ声が聞こえてしまったのだよ、パパ助けてと……」

「え、言ってないけども……」


 そんな会話を交わしながらも、ソレを全力で抱きしめた。

 途端に、優しく暖かい魔力が私を包む。

 だから私も、今持てる最大の魔力で、ソレに護符を張った。


「フッ。愛しているよ、アンジェリク……」


 その言葉を最後にソレは目の前から消え、遠く離れた自身の船へ飛んでいた(テレポート)

 ボールを頭上に投げるかのように、ふわっと優雅にパパンが魔力を放つ。

 そして私へ投げキッスをすると同時に、辺境隊のガリレオ船が一瞬にして消えた――



 途端に威圧から解放された面々が、床へ転がる音が響き渡る。

 私には解らない恐怖を味わったようで、言葉を発する者はいない。

 が、イツメンはイツメンでした。


「やべぇ! ねぇ僕竜王ね? それを威圧するって何あれ化け物?!」

「あああああれが、け、け、傾国の魔王ゲオルク様……」

「おいアンジェリク、ゲオルク隊長がお前に施した魔術を解読させろ」

「ア、アンジェリク貴女、枯渇するほどの魔力を全力で放ちましたね!」


 相変わらずで何よりです。

 というか、ケートスも討伐できましたし、万々歳ですね! さて、ピアノでも弾きま……


「ねぇアンジェ。ケートスを一撃で倒せないと思ってた自分が情けないよ。でもわかった。波動に魔術を乗せればいいんだね」

「はい?」

「次は負けないよ。誰にも……」


 いやいや、百人で一頭倒せれば素晴らしいのではなかったでしょうか。

 確かにパパンはフレデリックに嫌味を放ちましたが、そのような闘志を私に告げられても困ります。

 なので満面の笑みを浮かべ、返答しようと思います。


「やればできるっ!」

「うん!」


 さて、ピアノ弾こうっと。

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