51 愛をとりもどせ!!
見た目がその、えっと、キメてるモヒカンのクジラです。
視点が定まらず、涎を垂らしたモヒカンとも申しますか?
それがオラついて蛇行しながら、群れでこちらにやってきております。
先ほどの衝撃は、このクッソでっかクジラの一頭が、バック宙を決めたことによる衝撃波動だったようですよ。
ヒャッハーな感じで。
私の中のクジラさんは鮫やシャチとは違い、温和で人間に優しいイメージだったのですが、この行き場のない想いを吐き出させてください。
「なんか今、私のクジラ概念が破壊された……」
「奇遇だな、お前もか? 俺もだ。なんだあの髪型……」
「その前にさぁ、クジラに髪型があるって自体おかしいことに気づこうか」
ルロイが私たちの傍らに立ち、冷静なツッコミを入れるから二人で問い返す。
「あ、そうじゃん!」
「じゃ、なんだあれは髭か、髭なのか?」
顎に手をやり、珍しく戸惑う上司が自身の見解を呟く。
「私もあのような形状を初めて目にしますが、藻か何かがくっついたのでしょうか?」
フレデリックをはじめとする団員たちが、荒海と化す水面から続々と船に戻り上がってくる。
誰彼もがおぼれることなく済んだのは、火サスのおかげでした。フフフ。
そんな団員たちとクジラを何度も交互に眺め、相変わらず抱き上げられたままセルゲイ隊長に問う。
「ね、セルゲイ隊長、あれ一頭を普通は何人で倒すの?」
「んー、教本には普通のケートス一頭につき百人って書いてあったなぁ」
「でもあれ普通じゃないよ?」
「うん、ちょっと普通じゃないなぁ。髪型が」
「てか、こっち三十人ちょっとで、あっち十頭はいるよね?」
「まぁ、一頭を三人くらいで頑張るしかないなぁ」
このテキトー無責任男め!
我が上司が常に牙を剥くのが分かったよ。
「そんなの無理に決まってんじゃん!」
「そんなこと言ったって無理でもやらなきゃだろ」
「むぅぅぅ」
「アンジェリク、私が戻るまでセルゲイの指示に従いなさい」
「え? 隊長どこいくの?」
「クロードと指令の確認をしてきます」
私に返答をしている癖に、私を一切視ずセルゲイ隊長を見つめて上司がそう言った。
けれどセルゲイ隊長は、上司を見返すことなく左手に魔力を集め始める。
この二人に余裕がない。
ただそれだけで、思うよりも状況は良くないのだと察した。
私、空気読めるんで。フレデリックとは違うんで。
だけれど何となく、これまでの遠征は、魔獣たちを簡単に掃討できてしまっていたから、今回も何だかんだ楽勝なのではないかと思っていた。
いかんいかん。初心忘るべからずでしたね。
「アンジェリク、全員にシールドを張り直す。行くぞ」
「はい!」
セルゲイ隊長と分担して、全員に新水陸両用シールドに張り替えたものの、それでは到底防御などできない。
なんたってヒャッハーだし。
「おおおお、お任せくださいませ!!」
ちょっと『お』は多めですが、流石は大聖女様。
船全体を包む、強力な結界を一瞬にして張ってくださいました。
セルゲイ隊長は、その結界をベースに更に上からバリアを補強している。
隊長たちは有能な出来る人間的に、テキパキと戦闘態勢を整えている。
大聖女様の護衛騎士さんたちも、協力体制でそれに付随する。
この状況で、何やら手持無沙汰の暇人は、転生ズッコケ三人組だけだったりします。
そして暇人たちは、会議での団長予言の通り、勝手なことを始めます。
「あ、わかった! モヒカンだし、秘孔を突けばいいんじゃん?」
暇すぎて閃きを口にすれば、ルロイがケンシローと化す。
「お前はもう死んでいる……」
ケートスに向けて指差しながら神谷ったアテレコに、大聖女様と交互で断末魔を叫びます。
「あたたたたたーっ!」
「ほ、わちゃーーっ!」
そこで三人顔を見合わせ、サムズアップでオヤクソク、と。
「てか秘孔がどこにあるんだよ、あのデカさのさぁ!」
「そんなんステータスオープン検索すればいいじゃん」
「ググレカスですわぁ!」
「っあ……」
うっかり忘れていたね、君だけに与えられたその素晴らしい機能をさ。
それを上手いことツッコむ大聖女様はかっこいいよね。
「ユーはショックですわね♪」
「ルロイの鼓動早くなるね!」
だから負けじとツッコんだけれど、なぜか私だけ怒られました。
「うるさいよアンジェ、黙って!」
なんで私だけなんだ!
と文句を言いたいところですが、愛を守るために明日を見失られても困る。
だから検索を待つ間、大聖女様とコントで遊ぼうと思います。
観客はいないけれど。
ソフィアの手を取り、ターンを決めてから跪く。
そしてキリリと凛々しく歌いながら、最後に手の甲へ口付けた。
「大聖女様の……微笑み忘れた顔など見たくはない……のでございます。チュ」
「まぁ騎士様! 愛~を~取り戻……してくださいませ!」
大聖女様が、意味もなく回る。そして、腕を最大限に伸ばして舞う。
だから負けじとキビキビキレある動きで、大聖女様の周りを旋回した。
「おまえら、ヅカるのやめろっ」
ルロイが文句を放っておりますが、大聖女様のピルエットが止まりません。
あ、いや、止まりました。流石ルロイ!
「わかった! 秘孔はあのモヒカンの下だ!」
「ほぉ。秘孔を隠すためにあのモヒカンが生えたのだね」
「まぁ! そういういことでしたのね! ゼハっ」
「潮吹く器官あるじゃん? あれ鼻孔なんだって!」
「まぁ! 頭頂部に鼻があるんですの? ゼハっ」
「えぇ……じゃあのモヒカン鼻毛じゃん……」
肩を竦めて言い放てば、気づきたくなかった状態で、三人げんなり沈み込む。
「あれ? ということはさ、あそこに水入れて固めちゃえばいいんじゃね?」
「息ができなくなるってことですわね?」
「あ! じゃあさ、ごにょごにょ……」
円陣を組み、三人で顔を見合わせ、サムズアップでオヤクソク、と。
◆◇◆◇◆◇◆
色々な意味で顔面蒼白なフランツが、セルゲイに声荒く問う。
「セルゲイ? アンジェリクはどこですか?」
「ん? そこにルロイと……あれ?」
「どこにいるのですかッ!!」
緊迫したフランツの叫び声を聞きつけ、フレデリックが鯉口を切りながら真顔で凄む。
「セルゲイ? 事と次第では貴様を斬る……」
「待てフレデリック、どこかにはいる。どこかには。さっきまでここでルロイたちと寸劇を」
両手を上げて後退するセルゲイの首に、瞬時に影から現れたエリックが、背後からダガーを当てがい耳元で囁く。
「僕のハニーアンジェを探しているんだが、この状況からするに、お前が罪人か?」
「いやエリック、これには深い事情があってな? さっきまで確かにここで……」
右斜め明後日な方向を見上げて、どう言い逃れようかと画策するが、その明後日へ向いた目に入ってしまった。
「あ、いたわ、白竜王の上で歌ってるなぁ、大聖女と」
「「「セルゲイ!!!」」」




