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46 祈ることで生きている

 ルロイと共にホールへ返り咲き、互いに辞儀をしてからホールドする。

 ヴォルフ様のセレクトだろう。

 仮面舞踏会という題名なだけあって、ハロウィンが近づく頃、街中で流れたちょっとホラー調のワルツだ。


 ルロイがダンス好きなのは、マイケルのパオで知っている。

 けれどソシアルなダンスまで踊れるとは思っていなかったので驚いた。

 そして全く同じ疑問を、ルロイに返される。


「カールとナディアたちに教わっているのは知ってたけど、ここまで踊れるとは思わなかったよ」


 そうなのです。

『出来て損が無いものは、根性で身に着けるべき』

 たる教訓な勇者一族の皆さまに、この五年間、何事にも手を抜くことなくガッツリ鍛えられておりますよ。

 根性根性ド根性とね。

 そして大公邸の舞踏会では必ず、フレデリックと踊らされている。

 


「そっか、ルロイ面倒がってパーティでないもんね」

「だって、ダンスは踊りたいけど、パートナーが居なかったからさぁ」


 ワルツのステップを踏みながら、ルロイと喋る。

 フレデリックほど難易度の高いワルツを要求されないので、息切れもしないで済むのは有難いなり。


「あー、そうだ、スコア見てくれた?」

「見た見た! あれルロイが書いたの?」

「うん。大公に教わって書いてみた」

「私、サビしか知らないんだけど、思わず歌っちゃたよ」

「あははっ! だからフレデリックも歌ってたんだね。相変らずの変な発音で」


 この世界に、英語や日本語などという言語は存在しない。

 だからどうしても前世の言語のまま歌えば、空耳アワーのノリになる。

 著作権の関係上でも可。ジャ〇ラックさんが怖いのでね。


「そうそう。ノリッノリでヘドバンしながら弾いてるよ。セルゲイ隊長もだけど」

「フッ。大公の遺伝子ってほんとウケルよね」




「俺らが何だって?」


 セルゲイ隊長が私へ向かって辞儀をする。どうやら次の相手らしい。

 私の知り合い中、誰よりも背の高いセルゲイ隊長とは流石にワルツが踊れない。

 どう頑張っても、ホールドが腰になっちゃうのですよ、ムカつくことに。

 だから腕だけを絡ませる、せっせっせーのよいよいよいだ。

 なんだか懐かしいフォークダンスみたいだよ。


「フレデリックと喧嘩したんだって?」


 くっそ憎たらしいニヨニヨ顔で問われ、私の眉がピクピク動く。

 だからちょっと苛立ち紛れに手刀を放つが、難なく躱される。


「ピアノ以外に無頓着すぎるからムカつくって言われた」

「あはははははははっ」

「笑いごとじゃないですよ!」


 フェッテからの蹴りも放つが、とても自然なターンで躱された。

 ちっ。

 最早、優雅な体術に変化している気もするが、気にしたら負けだ。

 ジャッキーもビックリな、カンフーチックにダンスは進む。出でよ酔拳!


「その首筋もフレデリックか?」

「そうですよ、いきなりカプですよ、カプ! 吸血鬼のコスプレだからってそこまで真似しなくてもいいですよね!」

「あははははははははっ!」

「だから笑いごとじゃないんですってば!」




 ここでワルツがプロコフィエフ様のシンデレラへと変わった。

 セルゲイ隊長に、ナディア様仕込みの優雅なお辞儀をして振り返れば、胡乱に片眉を上げたフレデリックが居た。


 互いにムスッとしながらも、当たり前のように手を取り合い、当たり前のように滑り出す。

 慣れって怖いですよね!

 けれど話す内容は、いつもと真逆だ。


「怒ってるんだからね!」

「は? 怒ってるのは俺だよね?」

「あーーー、首が痛い」

「うっ。それはごめん」


 なんだかんだ言っても、フレデリックと踊るのが一番しっくりくる。

 背丈的にはヒールを履いても三十センチもの身長差があるから、十センチ程度にしか変わらないルロイの方が合っているのだろう。

 それでも身長差からくる歩幅のズレは、瞬時にリフトでカバーされるから何も問題がない。

 ダンスが激しさを増すころには、妙な安堵感に包まれてさえいた。


 だから外野の皆様が、扇で顔を隠しながら囁くアレコレに気づかず、純粋に本気のワルツをお披露目するのだった――



「老婆心からか、あの二人が踊るとホッとしてしまうわ」

「いやだわ、わたくしも同じことを思っていたところですわよ」

「ビューロ公爵とブルーム伯爵令嬢が出てきた時には、どうなることかと冷や冷やしてしまいましたわよ」

「教皇聖下がいらしたから、目くらましですわねきっと」


「アンジェちゃんに、上位爵位がないと難しいのかしらね……」

「うまくいってほしいわ」

「あの二人の子は絶世になるわよね」

「当然よ。そうしたら我が子に……」

「狙うはそこですわよね!」



◆◇◆◇◆◇◆




 ヴォルフ様とルロイが、ドラムセットを作り上げた。

 近代的な合奏をする場合、どうしてもこれがないと始まらないらしい。

 そしてフレデリックのピアノ部屋にドラム試作品が運び込まれてきて、ブルーグレーの瞳を輝かせているのは、我が兄でした。


「何これ! 叩いていい? 叩いていい?」


 音符など見たことのないほど音楽に無縁だったエリック兄が、ルロイに教わりながらドラムを叩いている。


 ドラムの半分は運動神経で出来ている。

 ような気がする。解熱剤っぽく。


 いや、リズム感と言うか、運動神経はめちゃくちゃ良いエリック兄だからなのか?

 それはそれは、瞬く間にドラムをマスターしていった。


 その姿が我が兄ながら惚れ惚れするほど格好良く、『お兄ちゃんが超カッコイイ~(ハート)』と、両親への手紙にまで(したた)めた。

 『パパだって超カッコイイし!』と、両親ともに同じ文言で返事が来たことにドン引きしたけれど……


 そんなこんなで本日、ドラムセットの発表会が隊舎の大広間で行われる。

 ヴォルフ様も、カールさんと一緒にやってくるはずだ。


 今回私の出番はなく、初の観客だ。

 前世でもライブなど見に行ったことがないので、ハンズアップで踊るのが楽しみで仕方がない。

 そして初のハンズアップを成功させるため、廊下でも余念なく練習に勤しみますよ。


「ウォ~~~~ヘーフウェイデ~ア、ウォ~オっ!」

「アンジェリク!」

「リ、ビオンプレ…ア?」


 とっても良いところで声を掛けられ、寸詰まる。

 振り返れば、白地に青のラインが入った聖女服を身に纏うソフィアさんが居た。


「ソフィアさ……あ、や、大聖女様!」


 あの仮装パーティ以降、瞬く間に、ソフィアさんの大聖女覚醒話が国中に広がった。

 尊く素晴らしい、大聖女様の誕生だ。

 そんな大聖女様と気軽にお話できたり、一緒に学習したり、訓練したりした私はとても誇らしい。

 そしてソフィアさんは今、騎士団を辞め、大聖女として聖都教会で日夜頑張っている。はず。


 とりあえず、挙げている拳を下ろすタイミングを見失い、ハンズアップしたままジャンプ寄る。

 そんな怪しい動きの人間を守るため、護衛騎士さん方が壁になり、当然ぶつか、らなかった。

 なぜなら、丁度会議室から出てきた団長が、ジャンプする私を横から抱き上げたからだ。


「アンジェリク、また例のアレの練習か?」


 抱き上げた私を見上げながら、団長が問う。

 会議室から団長が出てきたのなら、他にも会議をしていた方々がいらすわけで、それは当たり前のことながら……


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。目を離すと貴女はどうしていつもいつもいつもいつも」


 素晴らしい溜息とプルプル腕を伴った、我が上司の登場である。

 突然現れた面々に驚き反応し、護衛騎士さん達が咄嗟に剣を引き抜く音がする。

 けれどそこは流石に、ソフィアさんが止めました。


「おやめなさい。ここは騎士団棟ですよ」


 確かに大聖女様の言う通りだ。

 ここで争いにでもなれば、彼らの分が悪い。

 いや、分が悪いどころじゃないか?

 だって、会議室から出てくる隊員など、隊長たちくらいなものだ。

 そして出てきた誰もが、護衛騎士さんの剣音に、全く反応することなく雑談を続けている。


 力量を瞬時に判断できる隊長たち全員が、スルーする案件。

 それつまり、相手にすらされてないってことだよ、可哀想だけど。


「おや、大聖女様。何か御用かな?」


 流石の護衛騎士の皆さんも、貴族の柵からは抜け出せないようだ。

 ゆえに団長殿下や上司閣下には、背筋が真っ直ぐになるらしい。

 何も言わずにささと下がり、代わりにずいっとソフィアさんが前に出る。


「はい。本日こちらで、フェリクス様のコンサートがあると伺いましたの」

「コンサート?」

「えぇ、演奏会ですわ」


 団長と上司がアイコンタクトで、何かを確認しあっている。

 そしておずと上司が切り出した。が、速攻即答されましたとさ。


「演奏会というより、討伐宴会の余興なのですが……」

「構いません。わたくしも参加させていただきます!」



「えっ!」

「あっ!」

「おっ?」


 三者三様の声に振り向けば、会議に出ていたのであろう、ルロイとフレデリックにエリック兄が並んでいた。


「フェリクス様!」

「うっ」


 後ずさるルロイとは真逆に、Wリックは何やら騒ぎながら向かってくる。


「はぁぁぁぁ。ねぇ、アンジェっていつも誰かに抱き上げられてない?」

「それは僕のスイートアンジェが、可愛いから仕方がないだろ?」

「でも誰彼に抱き上げられてるそれって、僕のアンジェじゃなくね? みんなのアンジェじゃん」

「あれ、そう言われるとそうだよね? 団長、僕のハニーアンジェを返して?」


 なんだか分からないまま、団長の腕からエリック兄の腕に奪われ移される。

 そしてエリック兄がドヤりながら、フレデリックに問う。


「これならどうだ? 僕のか?」

「それならまだ許す」

「は? なんでお前に許されなきゃならないんだよ」

「あれ、そう言われるとそうだよな? なんだ許すって」

「知らねーよ!」



◆◇◆◇◆◇◆



 ヤバイ。カッコイイ……


 エリック兄のドラムからスタートしたその曲は、前世の私が生まれる前にリリースされたものだ。

 それでも世代を超え、世界を超え、異世界までを魅了する。


 スタンドマイクっぽい何かを振り回しながら、ルロイがシャウトする。

 ルロイはガチだ。

 マイケル様を歌って踊れるのだから、凄いとは思っていたけれど本気で凄い!


 エリック兄はドラムをマスターするどころか、バチをクルクル回したりとパフォーマンスもキレキレだ。

 セルゲイ隊長は、ウワウワウウウオたるコーラスまでをチェロで弾き、バイオリン二人は完全に、エレキギターパートを弓で弾き切っている。

 勿論、ギターソロを、交互にバイオリンでやらかす破天荒っぷりは鳥肌ものだ。

 けれど、誰よりも何よりも激しく興奮しているのは、大公閣下その人でした。


「ウォ~ウォッ!」


 ピアノをキーボード的に弾き熟しながら、コーラスまで担当して歌っている。

 ヴォルフ様がこの調子ですから、この方はのっけからマサイ族の方々も真っ青な全力ジャンプでノリノリです。


「リ~ビオ〇プレ~ア!」


 聖騎士。それは、護衛騎士さんの希望だであり目標だ。

 その伝説とまで言われるお方が、最前列で弾けまくっているわけですから、護衛騎士さんたちまでその目標に近づくためノリノリでジャンプします。

 さらにフェリクス命の大聖女様も、ハンズアップでウワウワです。


「キャーーーーーーーー! フェリクスさまぁ~~~!」


 なんとなく、皆に負けられない。

 そんな気持ちにさせられるが、誰よりも背が低いのでお話にならないこの状況。

 そこでビビッと閃き、最前列で踊るジョージ隊長の肩に、跳び箱っぽく飛び乗った。


「ウォっ、アンジェおまっ!」


 ジョージ隊長の驚きはスルーし、誰よりも背が高くなってご満悦。

 高い垂直飛びを続けているカールさんと、一定のリズムで視線が並ぶ。

 そこでオヤクソクなサムズアップを決めて、更にハイタッチだ。


 そこに触発されたテクラ隊長が、クロード隊長に肩車をされて加わり、これまたハイタッチ。

 と思ったら、ロベルト隊長に肩車された団長が、ぬっと現れ空耳アワーを絶叫した。


「ウォ~オッ! リーーーービオ〇プレーアッ!!」


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