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30 楽しき農夫

Robert.A.Schumann 作


★ロベルト登場

 ルロイが第五騎士隊員になりました。

 同じ隊じゃなくて淋しいと言おうとしたところで我が上司に手で口を塞がれ、その後すぐセルゲイ隊長からキャラメルを突っ込まれました。


 フレデリックも、私と同じ文句を誰に止められることなく言い放ちましたが、こちらはルロイ本人から拒絶の意を唱えられておりました。


「はぁ? なんで剣の使えない僕が剣王だらけの一番隊に入らなきゃならないの? あのさぁ、練習したところで誰彼もがフレデリックになれるわけじゃないんだよ? 大体フレデリックはさぁ……」


 ルロイは、我が上司とそっくりだと思わずにはいられません。

 ちょっと口が悪い感じの。


 ジョージ隊長が

「ゾフ、これは引退勧告か? 隊長職を退けってことなのか?」

 と、厩舎でモロ様に愚痴りながら膝を抱えているらしいですが、うちの上司はウッキウキです。


「アレに比べたらアンジェリクなんて、可愛い銀髪の……ちょ、アンジェリク貴女、なぜそんなに髪がボサボサのままなんですか!」

「え? 寝起きだから?」


 みるみるうちに青筋オカンと化した上司に連行され、なんだかんだとお世話を焼かれておりますよ。

 自分でやらずに済むのであれば、くどくどしいクドクドも耐えられるってもんですよ。


「今日はこのように纏めてみました」


 慣れた手つきで鼻歌交じりに私の髪を結い上げ、手鏡を私に渡す。

 サテンのリボンをも一緒に編込んだ、ガーリーな仕上がりの自分に慄いた。

 いや、中の人はどうであれ実年齢は少女なので、ガーリーなのは良いのですが、ただでさえ幼く見られがちな外見にガーリーさをプラスしてしまうと、こう……


「隊長、これ何歳に見えますかね?」


 そこで背後からひょいと出でて私の顔を覗き込み、そして押し黙る。


「……。今日は魔術鍛錬だけですから、髪をおろしましょう」


 だ、だよね。七五三でやった髪型っぽい気がしたもん。




 今日はクロード隊長とセルゲイ隊長に、遠征中出来たシャボン玉魔法を見てもらうことになっている。

 隊舎から騎士団棟へ向かう途中、ふと窓外の訓練場に目をやると、新人なのに椅子に腰かけ足を組み、メガホン片手に物を言うルロイと、軍隊の如く一糸乱れぬ契約魔さん方の行進が見えた。


「ぜんたーーい、止まれっ! 右向け右っ!」


 その隣では五番隊の皆さんが、ジョージ隊長指揮の元、膝を抱えて項垂れている。

 けれどそれに反して、待ち合わせ場所で既に待機しているセルゲイ隊長はウッキウキです。


「ようアンジェ、出来たぞアレ」


 アレとは先日大公邸で作ったアイスクリームのことで、これをベースにフレーバーを増やして欲しいとお願いしていた。

 今の季節的にイチゴは収穫できないが、苺ジャムでならイケル。

 セルゲイ隊長の氷魔法なら余裕で何種類もイケル。


「やった! 何味何味? ストロベリー?」


 蝉の如く、大木セルゲイ隊長に飛びつこうとしましたが、寸でで後ろから上司に抱き上げられました。

 でっかいぬいぐるみ状態で私のお腹を後ろから抱き上げたまま、セルゲイ隊長への小言もきっちりです。


「よくもまぁのうのうと息ができますね? 貴方、全てを誰彼に押し付けて自分だけは菓子作りですか」

「お、俺は長期調査に出ることが多いから仕方ないし、あいつが自分で全てを決めたし、だから悪いと思ってジョージにアイスをだな?」


 あいつと言うのは、多分ルロイのことだろう。

 団はジョージ隊長の五番隊だし、隊舎は狭いから嫌だと言って大公邸から通うことになった。

 それらは全てルロイ本人の希望なのだが、連れてきたはずのセルゲイ隊長が全く何も面倒を見ていないこの状況に、不満を持つ者もいると聞く。

 特にうちの上司とか。上司とか。まぁ、上司とか?


 でも私は知っている。

 セルゲイ隊長が、怪しい術を唱えていたことを。

 そして今日は、妙な透明シールドを全身に纏っている。バリアっぽく。


「セルゲイ隊長、このシールドってなあに?」


 ラップのようにセルゲイ隊長に纏わりつくそれを、指でつまんでパチンと弾いた。


「ばっ! やめっ! いや待て。おま、それ見え…るの?」


 そこで、未だ私をバッグハグでブランブラン抱きかかえながら、わなわなと震え始めた上司が発狂した。


「セルゲイ…まさか貴方、自分にだけ厄除けの結界を張っていたのですかーーーーっ!」




◆◇◆◇◆◇◆




「アンジェリク、私が放った音を泡にすることは可能かな?」

 クロード隊長がそう言ってカリンバの一音だけ弾く。


「無理です。クロード隊長のは曲じゃないから音が捕まえられないのかな?」

「ふむふむ。じゃ、曲なら捕まえられる?」

 そういうと、今度は流行りの曲をゆっくりと奏でた。


「あれ? なんでだ? 無理だ。曲なのに音が見えない」

 我ながら変なことを言っていると思う。音は見えない。当たり前だ。


 そこでセルゲイ隊長が、その場にあったチェロを調整しだし、整ったところで『愛の挨拶』を弾きだした。

「あ、これならできる!」

 チェロから弾け出てくる音符を幻想網で捕まえ、それをシャボン玉へと変換させる。


「この曲は、アンジェリクとフレデリックがよくアンサンブルしている曲ですね?」

「あぁ、大公邸の厨房もこれをハミングするやつが多いから覚えたよ」

「だとすると、チキューの曲が鍵なのかもなぁ」


 三隊長がごちゃごちゃ何かを言っている。

 で、私はいつまで音を泡にしたら良いのでしょう。

 やめちゃおっかなぁ。

 

「一つの泡でローポーション同等の濃度だねぇ。一曲分の泡になると広範囲をカバーできるハイポーションだよ」

「これを液体に変えて詰めればポーションだな」

「おかしなことに、アンジェリクは治癒魔法を唱えることができず、一旦音にしたそれを手繰り寄せてから放つのです」

「だとすると、この泡を詰め込める魔道具があればよくないか?」

「んー。ロベルトを呼ぼうか」


 どうやら話がまとまったらしく、ロベルト隊長がテレポートでやってきた。

 ロベルト隊長は、魔道具開発とそれらを使用した戦闘が主な第八騎士隊の隊長さんである。

 ということは、この泡を開発の材料にするってことでオッケーですか?


「アンジェリク、その泡をできるだけ回収したいので、ゆっくりとした曲を弾いてもらえますか?」


 ロベルト隊長からそのような指示をされたため、はたと考える。

 易しい曲でないと魔術と摺り合わせが出来ないので、簡単なやつ簡単な簡単で……と、ロベルト隊長をガン見しながら考えた結果、これになった。

 バイエルと並行して与えられた課題曲だったから、多分幼稚園時代に弾いていたと思う。

 

 ということで、ブラインドタッチで楽しき農夫をゆっくり弾き、ひょいひょいと音を捕まえ泡にする。

 慣れてくれば意外にも簡単な作業で、ちょっと楽しくなってきた。

 のだが……

 私とは裏腹に、ロベルト隊長が頭を抱えて発狂した。



「液体にするの難しいーーー!」


 

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