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27 くまんばちの飛行

Rimsky-Korsakov 作

「何アレ……」

「ですから、あれが蝦蟇ですよ?」

「え? 蝦蟇? 大蝦蟇じゃなくて?」


 私の記憶が正しければ、蝦蟇は蛙の大きさだったので、大蝦蟇が鶏くらいの大きさ予想でした。

 けれど、あちらに蠢いているのは、大型犬ほどの単なる蝦蟇だそうです。


 多分身長も体重も、私より確実に大きいと予想されます。

 そんなデカカエルたちが、沼の中で満員電車並みにギューギューしておりますが、なんだアレ。


「隊長、アレは沼から出られないの?」

「そういう訳ではありませんよ。こちらから攻撃をすれば一斉に出てくるでしょうね」

「うひぃ、きもっ!」


 その光景を妄想して身震いした。

 そこで脳内に流れ始める、くまんばちの飛行。

 リムスキー=コルサコフ様作。

 くまんばちの羽音を模した、スリル感のある曲調だ。

 技巧練習曲として、速さに挑戦し続けた思い出の曲でもある。なつい。



「やっぱりアレは舌が毒とか?」

「いいえ、アレが厄介なのは一体化して大蝦蟇になることです。あの規模の蝦蟇に合体されると、ちょっと面倒ですね」

「が、合体するの?! アレが? あの量が?!」

「そうです。だから下手に刺激できず、我らに駆除以来がきたのです。けれど、その間にも個体が増えてしまったのでしょう」


 その光景を妄想して、もよおした。

 そこで脳内で延々リピートする、くまんばちの飛行。

 リムスキー=コルサコフ様作。

 最早蝦蟇がジャンプして、合体する時の曲にしか聴こえない。白目。



「アレが一体化し大蝦蟇になると、口から人間の目にも見える『気』を吐き出します。その気に触れたものは全て吸い込まれるのです」

「ひぃぃぃぃ、エクトプラズム吐き出すって、何のホラー!?」

「エクト、なんですか?」


 説明が面倒なので、歌って誤魔化す。


「タンタンタラ〜タンタッタンタッタ」

「アンジェ、それはエクソシスト」


 ルロイが現れツッコミを入れてくれたので、互いに見合い、頷きながらサムズアップをする。

 胡乱に我らを見下ろす我が上司が、我に返って嫌味を吐く前に、話の展開に勤しんだ。



「で、隊長ならどう駆除しますか?」

「何やらとても既視感を覚える会話なのですが、アンジェリク、貴女また勝手に突っ走るような真似をしないと誓ってくださいね」


 瞬きを一切しない威嚇ガン見にて、我が上司が物申す。

 なのでビシっと片手のひらを前に突き出し、堂々と返答する。


「大丈夫です。流石にあの夥しい蝦蟇の群れに、飛び込むなんて無理です」

「なら良いですが。で、作戦でしたね。丁度水に浸かってくれていますから、雷を浴びせさせたいですね」


 そこでふと疑問に思い、問い返す。


「え? ゴムに雷って効果あるの?」

「ゴム?」


「いや、カエルの皮って絶縁体じゃないのかなと」

「絶縁体?」


「えっと、電気を通さない物質っていうか」

「電気?」


 そこからか!

 めんどくさ!

 何かを床に投げつけたくなる衝動に駆られたものの、投げつける物がなかったためエアで終わる。


 でもとりあえず、何の意味もなくルロイを見合い、何の意味もない頷きサムズアップを決めた。

 ルロイ、ノリ良いよね。


 そんな私達をまたまた訝しげに見下ろしながら、上司が話をまとめ上げる。


「まぁ、他の魔獣よりも雷に対しての耐性がありますね。けれど雷の威力の方が上なので問題ありませんよ」


 分かるようでわからないというか、確証のない曖昧な説明に何度も瞬きをする。

 そこで察しの良いルロイが、とても簡単に説明してくれた。


「ゴムなんて、雷みたいな高電圧を叩き込んだら、絶縁破壊されちゃうから余裕で通電するんだよ」

「そうなの?!」

「アンジェ…ピアノばっかやってて勉強できないタイプだね」

「ぐぐぬ」


 気を取り直し、上司へさらに問う。


「い、雷だと属性は光ですかね?」

「光は勿論ですが、地と水を極めた方でも打ち出すことは可能ですよ。貴女一体座学の何を学んだのでし」


 上司のセリフが途切れましたが、私がまた突っ走ったなどという理由ではありませんよ?

 いや、ちょっとは雷系を使えるモロ様のところに走ろうとしましたけれど。

 でも、一歩踏み出そうとしたところで、どこのどなたかが、炎の攻撃をガマ大軍にしかけてしまったのです。


「うわぁ、騎士団にもバカっているんだね」


 ルロイがそう言うのは無理もなく、水辺に炎は闘争を煽っただけと申しますか、進化を促しただけと申しますか、うっわ、うわ、本当に合体が始まったじゃん!




 土台のガマに他ガマが飲み込まれ、其れが吸収されて膨らんでいく。

 まだ半数にも満たない序の口の合体数なのだが、元のガマが大きかったため、既にモロ様サイズを超えている。


「見守っていても仕方ありませんから、とりあえず分散させましょう」

「す、すまん、俺のせいでこんなことに」


 炎を放ったのが五番隊員(の契約魔)だったために、ジョージ隊長が頭を下げる。

 依然として喧嘩中なのだろう。

 モロ様が機能していないので、契約魔たちが反抗的なようだ。

 だからまだ太い絆で結ばれていない新人契約魔が、制御できずに暴走してしまったらしい。


「この僕が謝ってあげたのに、何この体たらく」


 ルロイの言葉に、ジョージ隊長の背筋が伸びる。


「聞こえてんでしょ? モロ様もさぁ!」


 嫌味ったらしい様呼びに、モロ様の耳が後ろ側に倒れ、尻尾がお腹側に巻き込まれた。

 さらに追い討ちをかけるようなセリフを尊大に放ちながら、ルロイは契約魔の群れに近づいていく。


「で、お前らは何をしてくれたわけ?」


 優に五十体以上はいる契約魔たちが、道を開け、ウエーブのように次々と伏せていく。

 なんかこれ、見たことある。あ、わかった、モーゼの海割り土下座バージョンだ。

 ルロイ、新人なのにこの威圧って、やっぱりスカウトされるだけあって凄いな……

 そして最後に沼へと振り返り、動きを止めて微動だにしない蝦蟇へと命令した。


「どーせ僕の言葉も理解できない雑魚ちゃんたち、もう面倒だからサッサと一体化して? そしたら駆除は一匹で済むと思うことにするよ」


 そんなルロイの思考に共感し、腰に手を当てふんぞり返って同調発言を叫んだ。


「そうじゃん! 沢山より一匹が正義じゃん!」

「何ですかその言い草は。貴女の正義の定義は大幅に間違っていますよ」


 上司がお怒り気味に私へ説教を始めたのだが、そこで割り込むルロイの声。



「アンジェ、実は僕…変身できるんだ!」


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