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26 剣士の入場

J.Fucik 作


 本日、いよいよお泊まり遠征決行だ。

 蝦蟇自体は余り強い魔獣ではなく、村人たちだけでも駆除ができるらしい。

 けれど大量発生しているため、流石に殲滅が難しいとのことで騎士団に要請があった。


 依って部隊は、フレデリックとジョージ隊長率いる一番隊と五番隊に、我が四番隊の二班だ。

 と思ったら、ルロイも見学の為に加わるらしい。


「セルゲイ、貴方も当然来ますよね。私はアンジェリクだけで手いっぱいですからね!」


 そう我が上司にしつこいほど追いかけ回されたため、セルゲイ隊長もルロイの保護者同伴となった。

 そう、なったはずなのだが……


「逃げましたね! 厄介掛ける厄介の二乗厄介を、私に押し付けましたね!」


 そのように憤る我が上司を尻目に、ナリタさんへ跨り、参道に集まった人々の声援に笑顔で手を振り出立。

 気分はユリウス様の剣士の入場だ。ツッタカター!


 そして王都を超えた辺りで、キタさんに騎乗するフレデリックが私に並ぶ。


「アンジェ、あれ、何個持って来た?」


 キラキラ金眼を大きく見開き、後ろの上司に聞こえないよう小声で話しかけてきた。

 アレとは昨日、大公邸で作ったキャラメルのことであり、切れ端を味見させたフレデリックがまた高速足踏みをしたのは言うまでもない。



「フッ。全部」

「マジか! 一個分けてよ」

「フフフ。お主も好きよのぉ。どれ、あ~んしてみそ」


 ゴソゴソとポケットから取り出したそれの、包みのセロファンを剥がして、フレデリックの口の中へ放り込む。


「あ~ん…うまっ!!」


 このような私たちの怪しげな動言を、目敏いオカン(上司)が見逃すはずもなく……

 ギャロップで近づいてきた上司が、胡乱な片眉上げで私たちを問い詰める。


「また良からぬ事を企てている気配がヒシヒシとするのですが」

「な、なんでもないですよ、嫌だなぁ、人聞きの悪いモゴ」

「そ、そうですよモゴ。というか、ジョージ隊長はどうしたんですモゴ?」


 そこで全員が、何やら項垂れながら前方で『馬』に乗る、ジョージ隊長を見た。


「何やらあの契約魔フェンリルが、今回の遠征にとても非協力的なんだそうですよ」

「え? モロ様、具合悪いの?」


 私は心の底からモロ様を心配しているというのに、その言葉で何かを理解したらしいフレデリックは、訳知り顔で呟く。


「あー、まぁ、そうなるよなぁ」

「何がそうなるの?」



 珍しく口煩い上司まで言葉に詰まり、黙秘を貫く。

 だから気になった私は、直接本人に聞くことにした。


「ジョージ隊長、モロ様の具合が悪いって本当?」


 ジョージ隊長の馬と並走しながら本人へ問えば、大きなため息を吐き出し、ボソボソと愚痴りだす。


「いや、飯は食ってるから具合は悪くないと思う。ただ、滅茶苦茶怒ってるというか、目も合わせてくれないし、尻尾で殴るし、鼻に皺寄せて牙見せるし、厩舎からテコでも動かない状態だったんだ」

「な、そ、一体、何やらかしちゃったの……」

「それなぁ、ま、原因は解ってるんだが、俺じゃどうにもできないのよ、はぁぁぁぁぁ」



『冗談じゃないわよ! なんでアレと一緒に遠征しなきゃならないのよ! なんで断れないのよ! 然も何なの馬車移動って!』


 ヒステリックにオネェ言葉を発するモロ様に美輪さんが降臨した。アテレコっぽく。

 あー、何となくモロ様の不機嫌な理由が解った。

 ルロイが原因だ。だって馬車に乗ってるのはルロイだけだし。

 というかルロイは異例の待遇だよね。




◆◇◆◇◆◇◆




 日が暮れ始めた頃、ようやく目的地周辺の休憩地に到着した。

 すぐ様に火が起こされ、松明と焚き火、そして魔道具で作られたランタンも灯火される。

 団員たちがテント係、料理係、調達係と手分けをしながら素早く行動に移していく中、「アンジェには危険!」と、同僚たちに追い出されてしまいましたよ。

 なので手持ち無沙汰の私は、閃いた事柄を上司に告げた。


「フランツ隊長、ちょっとモロ様の仲裁に行ってきても良いですか?」


 そこでいつになく考え込んでから、小刻みに頷きながらオカンが言いましたとさ。


「無駄だとは思いますが、ジョージ隊長があの調子ですと士気が下がりますからね。やれることはやってみても良いかも知れませんね」

「はい!」


 こうして正式に任を受け、未だ馬車にいるルロイに向かって走り出す。


「アンジェリク? なぜ貴女は逆方向へ向かっているんですか!」

 と、後ろで喚く上司の言葉は右から左~。




「ルロイ、ちょっと一緒に、モロ様の誤解を解きに行こう?」

「モロ様?」

「うん。ジョージ隊長の契約魔」

「あー、あのフェンリルかぁ。ぷっ。確かにあれはモロだな」

「でしょう~! あ、で、多分、多分だよ? 新人のルロイが馬車で移動していることに怒っているんだと思うの」


 許可なく扉を開け、許可なく上がり込んでルロイの手を握る。

 アンジェ先輩が付き添うから大丈夫。ドーンとまかせておくんなまし~。


「は? なんでこの僕がフェンリルに怒られなきゃいけないの? 大体、なんでフェンリル如きを様付けして僕が呼び捨てなんだよ」

「え? だって前世も今世もルロイは私の後輩じゃん」


 一瞬固まったルロイは、その後なぜか大きなため息を吐きながら、態度とは裏腹な言葉を投げて寄こす。

 だから真剣に返答したのに、速攻で早口なツッコミを吐き捨てられました。解せぬ。


「はぁぁ。ほんとアンジェって面白いよね」

「え? 私別に芸人さんを目指してないよ?」

「いや、目指されても困るけど」



 

 なんだかんだと恥ずかしがるルロイと手をつなぎ、モロ様の休憩所までやってきた。


「モロ様〜、後輩のルロイとご挨拶に伺いました〜!」


 とても驚かせてしまったのだろう。

 子音すら発せず母音だけで驚きを表現されました。


『イッ!』


 さらに私よりも小さいルロイを見下ろしながら、ブルブルと震えている。


『こ、ここ、小娘、貴様何ゆえにそのような! わかっておるのかぇ?』


 何が? と問おうとしたけれど、ルロイが先に尋ねてきたので、話題はそちらに動く。


「へぇ知らなかった。アンジェはフェンリルと話せるんだね!」

「そうなの。モロ様の魔力は素晴らしいから、私に話しかけてくださってね?」

「いいなぁアンジェ。僕もフェンリルと喋ってみたい〜!」


 何となく棒読み感は否めないものの、おねだりする後輩は可愛らしい。

 なのに相当ご立腹なのであろう。モロ様の念話は大否定だ。

 


『じょ、冗談はよすんだぇ!』

「あ?」

『いっ』


 威嚇的な返答をしたのはルロイですが、私はこれらに便乗し『うっ』と続けたほうが良いですか?

 いや、あれ? なんだか空気がやばい。

 いかんいかん。先輩としてしっかりしなければ!


「そうだ! モロ様にお裾分けしようと持ってきました!」


 そう言って懐から巾着袋を取り出した。

 けれどモロ様よりも先に、袋の中身を見たルロイが騒ぎ出す。


「うわ、アンジェこれキャラメル?! なつい! 欲しい!」

「もちろんルロイにもあげますよ。でも、モロ様に謝罪とご挨拶を済ませてからです」


 ちょっと先輩らしい口調で、後輩を窘めてみました。

 甘やかすばかりではなく、矢張りここは、きっちりと筋を通さねばなりませんからね。


『なっ よ、よせ! 小娘何てことを言うんだぇ!』


 慎み深いモロ様が謙虚な発言をしているけれど、それを手で制し、ルロイを促した。


「ささ、ルロイ、頑張れ!」



 そこで顎を斜めにシャクレ上げ、鋭い眼光のままモロ様を見ながらルロイが言った。それは尊大に。


「はじめましてルロイですぅ、ご・め・ん・ね! さ、アンジェ用事は終えた。キャラメル!」

「な、なんかちょっと違う気がするんだけど、モロ様申し訳ありません」

『勘弁して』

「で、ですよね…あ、キャ、キャラメルどうぞ!」


 何かちょっと変だ?

 否! 気のせいに決まってる!

 どうよ、フェンリル様と後輩を仲裁しちゃったアンジェ先輩カッコイー!

 これで上司にも、素晴らしい報告ができるはず!


 大量のキャラメルをモロ様に献上し、満面の笑みを浮かべて振り返れば、そこに胃を押さえて蹲るジョージ隊長が居た。


「あれ? ジョージ隊長、そんなところで何をしてるんですか? あ、キャラメル食べます?」


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