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20 アイ・ガット・リズム

G.Gershwin 作

SIDE ジョージ



 俺はジョージ・ヘルドルフ。

 同期のゲオルクと共に、二人だけの庶民隊長だ。


 あ、最近はゲオルクの息子であるエリックもまた隊長に成ったから、三人か?

 まぁ、そんな境遇でもあるからゲオルクとは特に仲が良く、苦楽を共にした戦友であり親友ってやつだと思っている。


 エリックといえば、初めてあいつを見た時、こりゃまたゲオルクと真逆なやばいガキだと思った。

 一見すると、全く害のなさそうな、朗らかで爽やかな言動を振りまくが、実際は綿密緻密で腹黒い。


 ゲオルクも母親であるアヴァも、直球しか投げられない不器用なタイプだから、なぜこうも真逆に育ったのかと不思議に思ったのを記憶している。


 その腹黒エリックが、両親の目を掻い潜り、守り隠し通したのがご存知アンジェリクだ。

 先の隊長会議で、気づきませんでしたなどとシレッと嘯いていたが、ありゃ間違いなく知って居ただろう。

 自身の庇護下。つまり騎士団に入団できるその日まで隠し、時期を見てわざと白日にさらした。

 ヨハン団長もその件に一枚噛んではいるだろうけれど、あいつがわざと噛ませた。が、正解なのではないかと思っている。


 そんなアンジェリクだが、それはそれは天真爛漫で、我が道を行く破天荒っぷりだ。

 入団試験の審査官を務めたのだが、そこからしてオカシイ。


 何がオカシイかって?

 猛者相手の実技試験中、ずーーーーっと鼻歌を歌っていたからだ。


 全く聞いたことのない曲で、チャチャチャチャ喧しいのだが、その連続したチャチャの後に、鼻の下を伸ばした変顔でパオパオと繰り返しながら相手を煽る。


 稀なる美少女の稀なる変顔は圧巻だ。

 フランツとの対戦はもう、毒気を抜かれたフランツが戦いを放棄し、隣のクロードはプルプル震えながら下を向いていた。




 入団後は破茶滅茶で、公爵兼任という立場的な問題から皆と距離を取り、孤高の公爵と名高いフランツが甲斐甲斐しくお世話をするママンツに早変わり。


 家柄、容姿、素行と三拍子揃いすぎてモテすぎ、女性不信なフレデリックが、明らかにアンジェリクへ恋をし。

 そのフレデリック繋がりで大公閣下、現公爵夫妻、そして侯爵夫妻…そんな歴代の逸材や偉人と呼ばれる面々たちが、悉くアレの信者になっている。


 けれどそれは、大聖女並みの力があるからとか、ゲオルクそっくりな美形だから云々ではなく、天性の人誑し気質があるのだと思う。


 と、思ってはいたが、確信に変わってしまった――






 多分、いや、きっと、我が契約魔のフェンリル『ゾフ』とアンジェリクは、会話をしている。

 勝手にモロ様と呼び始めているのが気に入らないが。


 そもそも契約魔なわけで、俺が契約し、名を授けたんだが、そんなことが許されるものなのか?

 でもゾフが全く嫌がっているそぶりがないので、ミドルネームがモロだったのかな、だったらいいな、だったんじゃないかな。


 アンジェリクは耳がかなり良いのではないか。

 そしてゾフが捉えた異変を、波長が同調してしまったのだろうと推測する。


 だからフランツでさえ感じ取れていない異変をアンジェリクが拾ってしまったのではないかと。

 あの時、ゾフが背中に乗れと指示した気がするんだよなぁ。

 そしてそれを了承したアンジェリクが肯いたんだとも。


 遥か彼方で、俺より緻密な連携プレーでウッドワームと一戦を交える姿が目に入ったが、こちら側にも複数体の其れが現れたからそれどころじゃなくなったのだが。


 ただ、自身に風の身体強化魔法を掛けたフランツが、四番隊の班員に指示を飛ばした後、ゾフの速度並みに後を追ったから問題はないだろうと考えた。



 が、だ。その後すぐのワイバーン戦だよ、問題は。

 突然ゾフに駆け寄りながら、手を貸してくれと頼み、その後は独り言で返事をしていた。


 そう、返事をしていたんだ。


 さらに普通では考えつかない方法で、群れを指揮するワイバーンの背に飛び乗った。

 しかも、変な歌を大声でうたいながら……


 何なんだあの跳躍は。

 一昔前の騎士団研修で、絶壁を登るという過酷な項目があったのだが、まるでアレだ。

 隣のワイバーンに飛び移って行くという無謀な方法だった。


 隣と言っても、優に十メートルはあるし、それに加えて高低差もある。

 それをホイホイと変な歌を大声でうたいながら伝い渡りをしていく姿に、団員どころかワイバーンまでが時を止めて見つめていた。


 俺は初めて、ワイバーンが唖然とする表情を知った。

 やっぱりあいつらも、半口を開けるんだな。


 もうそこからは混沌だった。

 カオス。一度は使ってみたい言葉ナンバーワンだったが、本当に使える日がくるとは……


 急上昇にひねりを加えた急降下と暴れまくるボスワイバーンに、慌てふためく他のワイバーンたち。

 さらには、仲間に体当たりをし始めたため、戦局が乱れに乱れる。


 すると、一体また一体と、体当たりされたワイバーンがバランスを崩して落下しはじめた。

 体当たりの衝撃でそうなっているのかと思ったが、落下し討伐したワイバーンの片翼は切り裂かれた跡がある。

 まさかあの状態で、翼を切り込んでいるのか?


「おいおい、アレはどんだけ規格外なんだ! つうかおまっ、これお前の作戦なのか?」


 アンジェリクを心配し青ざめながらも、次々落下し続けるワイバーンを一撃淘汰するフランツに、想いの丈を吐いた。

 けれど帰ってきた叫びは、予想に反して悲痛なものだった。


「いつもいつも斜め上の方向に飛んでいってしまうんですよ! 分かりますか私の心労が!!」

「や、あ、うん…わかる、なんかごめんな?」



 粗方のワイバーンを倒し終わった時、さてどうしたものかと隊長格がフランツの元に集い始めた。

 目で動きを追うのがやっとなほど余りにも激しく暴れすぎて、アンジェリクを傷つけずに攻撃することが躊躇われたからだ。


 だがもう小一時間はあの状態で、アンジェリクの魔力もそろそろ枯渇する頃合いだろう。

 フランツもそれが分かっているからこそ、レイピアを抜刀したままタイミングを図っている。

 そんな時、妖馬(キタさん)で駆けつけたフレデリックが、先団の状況を説明しはじめた。


「遅れてすまない。戦局はウッドワーム五体とパイアの群れで、こちらと同じ程度に…ってアンジェ?!」





 西のこちらはワイバーン。先団の東はパイアの群れが出たか。

 パイアとはゾフと変わらぬ大きさのイノシシのような魔獣だ。


 どうやらAやらBやらと上位にランク付けされる魔獣たちが、一斉に大移動を興す事態があったと見るべきだ。

 それは即ち、そのレベルの魔獣たちが逃げるほどの何か。

 つまりSランク以上の何かが、ここを……


 考えたくはないが、群れのワイバーンが逃げる事態だ。

 原因はドラゴンが有力だろう。


 そんなことを脳裏で整理していた僅か数十秒中に、一際デカイワイバーンの首が、騒音と砂煙を伴い落ちてきた。

 見上げれば、アンジェリクを抱き包み終えたフレデリックがいる。



「相変わらず躊躇ねぇなぁ……」



 当たり前だが、最強剣士でなければ、騎士団最強である一番隊の隊長になど成れやしない。

 その隊長の座を歴代最年少で獲得したこの男に、迷いという言葉はどこにもない。

 こいつにかかったら、あの動きもゆっくりにみえるのだろうか……


「ジョージ、考えちゃダメ。規格外の感性を、私ら凡人がいくら考えても無駄よ無駄」

 テクラが自慢の髪を振り乱しながら物言うが、俺が返答した途端、鬼と化す。


「そうは言ってもよお、規格外だらけじゃねーか? もしよ? あいつらの子どもと」

「おやめ! ゲオルク隊長とアヴァちゃんの子は、どんな子になるかしらぁ? だなんて無責任なこと考えてたじゃない、あなたも私も。それがエリックとアレよ? アレとソレの子なんて考えただけでも無理っ!」


想像して、言葉に詰まった。


「んぐっ、フランツの胃に蜂の巣クラスの穴が開くな……」


ドンマイ。フランツ!

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