12 ダンシングクイーン
マンマミーヤ!
SIDE アヴァ
なぜうちの娘は、あの、あのだよ? あの、数々の偉業と功績を成し遂げられた勇者ヴォルフガング大公閣下を、名呼びどころか愛称呼びなどしているのだろう……
さらに、あの、あの、騎士の憧れ中の憧れ、聖騎士サー・カールに抱っこされてるし……
否、確かにうちの娘は可愛い。
目にジャブジャブ入れても痛くない。
だって傾国の魔王と呼ばれるゲオルクに激似だし。
でもそれは親の欲目であって、「私、前世は異世界人でピアニストだったのー!」などといった妄想をいつまでも繰り広げるちょっと可笑しな子扱いが普通というか……
大体、五歳時検診でアンジェに魔力がないのは確認済みだし、剣技もエリックには遠く及ばないし、体格だって普通より小さくて華奢だし?
筋肉なんて全くなくて、モチモチぷにゃ。だよ?
なぜこの子が史上最年少を更新して、入団できたのか全くわからない。
わからない。わからないけれどゲオルクが、
「仕方あるまい、アンジェは可愛いが過ぎる!」って断言するから「ソレだ!」と納得しちゃっていた。
「おめでとうアンジェ!」
艶やかな白金色の髪が風に靡いてサラサラ。
お伽話の王子様のような笑顔がキラキラ。
品良い滑舌のテノールボイスでペラペラ。
そんな三拍子揃った青年がアンジェに駆け寄り、楽しげに話している。
ゲオルクやアンジェという身内を見慣れ過ぎて、傾国だとか絶世だなどと言う形容が麻痺しているのは否めないが、この彼もまたそっちに分類される人だと思う。
そんな見目の二人が並ぶと、飛んで歌って回り出したくなるのはどうしてだ。
美しさの圧が凄すぎて、中てられた誰かが倒れちゃうんじゃないかと思うほどに。あ、倒れた。
というか、あの色の隊服形と片マントは隊長服であり、それをゲオルクばりにさらっと着こなしているが、息子のエリックと同じ年頃ではないだろうか。
と、そこまで考えて気がついた。
エリックと同学年同期に、シュリフェ侯爵のご子息が入団していたはず。
確か大公閣下とシュリフェ侯爵家は系譜が繋がっていたはずで……
「じゃ、俺も終わり次第いくね」
あのはにかむ仕草と優しい瞳の理由を、私は知っている。実体験で。
だってゲオルクに向けて、私も放っていたもん。
あんな感じだったはず。ムンムンと。
そしてアンジェのあの瞳の色も知っている。こちらも実体験で。
だってゲオルクが、私に向けて放っていたもん。
全く興味がない感じで。おざなりに。
はぁ、思い出したら悲しくなってきた。
否、そんな私たち夫婦の過去話じゃなくて、この二人の話であって……
家格が違いすぎだよ、とてもじゃないけどこの恋は応援できない。
騎士爵は騎士爵同士で結婚するのが一番!
だからモテモテだったゲオルクが、私なんかと結婚してくれたんだし。
幸い当のアンジェはまだ幼く、何一つ気づいていないことが救いだと思う。
さてさて、角が立たないように、どうやって距離を置かせようかな……
無理だった。
私は今、窮地に立たされている。
左隣には氷の公爵夫人ナディア様が。
右隣には炎の侯爵夫人リリ様が。
どちらも勇者ヴォルフガング大公閣下のご息女であり、私には雲の上の方々だ。
そんな社交界の二大トップに挟まれ、粗相をしたらどうしようと生きた心地がしない。
「アヴァさんとお呼びしてもよろしいかしら。わたくしのことはナディアと呼んでくださいませね」
「はっ! ナディア様! ありがたき幸せ!」
「そんなに緊張なさらないで? わたくしのこともリリとお呼びくださいね」
「はっ! リリ様! ご機嫌麗しゅう!」
駄目だ。アンジェごめん。
ママは立派に戦った――はず。




