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花子の冒険  作者: 山梨 雪香
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8. ウェントスソリ

まったく、マイヅルに到着したら真っ先に向かうはずがとんだ道草を食われた。


アデルは人垣から器用に抜け出すと一つ隣の通りに出て、ウェントスのソリ乗り場に向かった。ウェントスは魔法生物で人に懐きやすく温厚で大きな鳥だ。ウェントスが引くのは専用の魔道具のソリで、空を飛ぶ。そのため、馬よりも速く、揺れが少ないため乗り心地もいいが、とても高価だ。しかし、アデルは迷わずウェントスソリを利用することを決めた。

抱き上げた時に気づいたが、花子は慣れない人混みに多くの注目を浴び、緊張状態が続いたせいか微熱が出ている。恐らく、本人も無自覚だろう。宿に着けば資金の補充もできるし、ここは歩くよりウェントスを使った方が花子の体への負担も少ないはずだ。


「ア、デル。怒ってる......?」


今まで黙って抱えられていた花子が不意に声を掛けてきた。


「何故だ?」


確かに、つまらないいざこざに巻き込まれて少々、いや、かなり腹が立ってはいたが、自分はそれほどに感情を出してしまっていただろうか?もし、自分の感情も抑えられず、花子を怖がらせていたのであれば、自身のあまりの未熟さに羞恥で今すぐ頭を抱えたくなった。


「ちょっと、苦しい。」


花子がそういったことで自分が花子を抱きしめている腕に思いのほか力を入れ過ぎていたことに気づき、慌てて力を緩めた。本当に、保護者失格だ。もうすでに先ほどいた場所からは大分距離ができていたので、花子をコートの影から出し抱えなおした。それにしても、出会った頃よりは血色も良く、多少肉が付いてきたとはいえ、花子は9歳とは思えないほどに小さく細い。もっと食べさせなければ。


「すまなかった。」


花子は首を横に振った。以前、注意をしてから口で返事ができるようになってきたが時々こうして、幼さの残る仕草を見せる。普段はきちんとできているので、こういう時は見逃すことにしているが、やはりきちんと注意するほうが花子の為だろうか......?

そんなことを考えているうちにウェントスのソリ乗り場に着いた。

乗合ならばそのまま公共交通ウェントスの停留所へ向かえばいいが、行き先が行き先の為、窓口で個人用の一般常用旅客用のウェントスを手配した方がいいだろう。


「ウェントスを1台。」


「どちらまで行かれますか?」


「鶴の館まで。」


「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


ウェントスを自分で手配するのは初めてだが、名前まで聞かれるものだろうか?


「何故名乗る必要がある?」


「詳しくはご本人様であることを確認してからでないと申し上げられないのですが、本日、鶴の館に向かう者に対して館の主からウェントスソリ協会に依頼が来ております。その為、お名前を確認させていただいているのです。」


どうやら、伯爵が手を回してくれているようだ。

アデルは少し声を潜めながら名乗った。


「かしこまりました。何か、ご本人様であることの確認ができる物はお持ちですか?」


身分の確認ができる物などこの指輪しかないだろう。


「これだ。」


「ありがとうございます。確認に少々お時間をいただいておりますので、奥にお座りになってお待ちくださいませ。」


「急いでいるんだ。」


「かしこまりました。」


態度には出さないものの胸には苦々しい思いが立ち込めていた。

ここで焦っても仕方がないのは理解しているが、それでも焦らずにはいられない。

花子自身もどうやら体調の変化に気づいたらしく、小さな手でアデルのコートをぎゅっと握っている。

しかし、アデルに気づかれたくないのか必死に平静を装っている姿が痛々しい。

アデルには長く感じられた待ち時間だが、実際はとても早く対応してくれたようでアデルよりも早く来ていた隣の窓口の人間がまだ終わっていないうちに、ウェントスソリへと案内された。

有難いことにアデルたちに用意されたウェントスソリは最高級の箱型で乗務員付だった。


アデルはクッションを借り、並べるとその上に花子を横たえた。


「すまないが、二人にしてくれ。」


乗務員はドリンクと毛布を準備し終えるとすぐに姿を消した。

アデルはそれを確認した後、水に睡眠薬を混ぜ花子に飲ませた。

すると間もなく、花子は熱で苦しそうにしながらも眠りについた。

アデルがそれを確認すると着ていたコートの袖口からするりするりと一匹の黒蛇が音もなく姿を現した。


「治せ。」


アデルが一声命じると、蛇の身体は液体になり花子の全身を包み込んだ。次の瞬間には黒い液体は再び蛇の姿に戻り、アデルの腕に絡みついていた。アデルは花子の額に手を当て呼吸と熱を確認したが、問題なく正常であった。治療したことで睡眠薬の効果も切れたのか花子の瞼がピクリと動いた。


「ア、デル?ごめ、私、寝てた......?」


「構わない。もう時期つくからあと少し寝てろ。」


アデルは悩みながらもそっと花子の頭に手を置き、不器用ながら撫でると、花子は安心したのかすっと眠りに落ちていった。それを確認したアデルはベルを鳴らし、乗務員を呼ぶ。


「お呼びでございましょうか?」


「なぜ、お前がここにいる?」


アデルは鋭い眼光で女を睨んだ。女は困惑した表情を浮かべ首を傾げるだけであったが、アデルが確信を持っていることに気づくと、根負けし、夜会巻きに結っていた髪を下ろした。


「なぁ~んでバレルかなぁ?俺の変装完璧なのに。」


「ふんっ、変装するんならもっと普通の見た目にするんだな。」


「俺が美女過ぎるってこと?」


「派手過ぎるんだ。」


「えぇ~、けど、これが俺の美学だしぃ~。生まれ持ったこの男前な顔を、そこら辺の人並な造形まで堕とすなんて神に対する冒涜だね。」


「俺の質問に答えろ。」


「ん~、花子ちゃんと離れたくなくて~。」


フィリーは大仰に嘆いて見せながらアデルに縋り付いてきた。


「あの兄弟はどうした?」


「兄の方はあそこにいるよ~。」


そう言ってフィリーはウェントスソリの御者台に続く窓のカーテンを開いた。

御者席には二人の男が座っていたが、片方の男がチラリと振り返り、会釈をした。

フィリーはさっとカーテンを下ろすとドカッと乗客用の席に腰を下ろした。


「早く元の姿に戻れ。」


「戻ったら、服が破れちゃうじゃぁ~ん。あ、むしろそれをお望みですか?」


「ただの幻術だろ。」


フィリーのニヤつく顔に我慢がならず、力を込めて拳を叩きこんだが、同時に御者台に座っていた男がいつの間にか乗客用の部屋に来ていて、後頭部を思いっきり叩いた為、フィリーは頭の前後にたんこぶを作ることになった。後ほど、そのたんこぶは見事にぷっくりと膨れ上がり、そのあまりの無様さにアデルは笑いを堪えるために腹筋を総動員する羽目になった。


「っっったぁ~~~~~~~~~。」


殴られた衝撃で幻術が解け、フィリーが元の男の姿に戻った。

二人から同時に制裁を加えられたフィリーは、その後拗ねてしまい情報を聞き出すことができなかったが、代わりにフィリーの従者だという男に事情を説明してきた。

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