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洗濯機  作者: 小林 広平
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客:「こんなもんじゃないんです!こいつの真の実力は!」


 しかしながらに貧乏神、予想とはやや違った御返事。何故か更に力を込めますと、拳を振り上げて息巻くのでございます。


 いよいよ熱気を帯びてきて、店内で暴れられるのだけは敵わないと御主人が、


質屋主人:「と言いますと?」


 と、仕方なく内容を問いますと、


客:「夏場は暑くて布団はいりません」


 と、何とも普通の御答え。これには主人も(うなず)くしかございませんでして、


質屋主人:「はい」


 と、(あい)(づち)を打ちましたる所、


客:「梅雨の時期と台風の時期は湿気でジメジメとしていて黴が生えます」


 と、またまた普通の御答え。これには布団の状態を思い出しまして、


質屋主人:「以前のお前さんの布団ですね」


 と、更なる相槌を打ちましたる所、


客:「布団が必要なのはカラリと乾いた寒い冬と、(あかつき)を覚えない春だけでして」


 何とも調子の良い御話。そうなりますと、布団が必要ないのは初夏から初秋の間となります。これには、主人も驚きました。


客:「その顔は気付きましたね。そう、質に入れる事で黴予防と収納性を兼ね備えているという訳でございます!」


 と、貧乏神は見た事の無いような満面の笑みを湛える始末。「どうだ、参ったか」と言わんばかりに、何とも嬉しそうに自慢するのでございました。


 けれども、お金を借りようとしていますのに、こすっからい手口を晒した所で不都合ばかりが生じるのは当然でございまして、


質屋主人:「何ですか、その態度は!それでわざと質流れにしていたという訳ですか!もう勘弁なりませんよ!」


 と、質屋の御主人、今にも貧乏神に殴りかかりそうな御様子。店内で暴れる客を()()していた店主自身が、暴れてしまうとはこれ()()に。しかし、これには貧乏神も焦ったようでございまして、


客:「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。さっきは良く出来ていると、褒めてくれたじゃございませんか」


 と、尻餅をついては両手を振って、降参の意思を示したのでございます。


質屋主人:「それはそうですが、何がカラクリですか。全然人力じゃございませんか!」


 真っ赤に染まった御主人が尤もな言い分を重ねますと、


客:「自動…、ですか?そいつは思いもよりませんでした。実に見事でございますね。よっ、この商売上手!」


 と、貧乏神が持ち上げて参りました。これには頭の血管がプチリと音をたてまして、


質屋主人:「まだ物が無いでしょう、物が!」


 と、やや裏返った金切り声。


 そこで貧乏神は首を(ひね)りまして、うんと一回(うな)りますと、


客:「それではこうしましょう。あっしの頭脳と質屋さんの商売の腕で、一丁一儲けといこうじゃございませんか」


 と、質屋相手に(あきな)いの提案をし始めたのでございます。


 これには御主人、やや驚いてしまいました。とは言うものの、何せ年季が違います。何分先輩としてここは一つ冷静に、


質屋主人:「そんなに上手くいくもんですかね」


 と、まずは()(げん)な表情。


客:「ただし、先立つ物に金が必要でして」


 とうとう本性を表しましたる貧乏神に「それ見た事か」と御主人が、


質屋主人:「家は質屋です。質種が無ければ金は貸せませんよ」


 と、やや冷たくあしらいましたる所、


客:「分かりました。この布団を実験材料として、質に入れさせて頂きやす」


 と、貧乏神は(うやうや)しく、いつもながらの臭い布団を差し出しました。


質屋主人:「はあ、仕方がありませんね。まあ、物は試しです。一応はやってみましょうか」


 いつもと同じ流れとは言いましても、引かない貧乏神程たちの悪いものはございません。ここまで来たらもう祟られたと諦めまして、追い出してしまった方が(けん)(めい)というものでございますから、最後には質屋が折れる結果となったのでございます。


 と、まあ、こんなやり取りが実際に有ったか無かったかは、(わたくし)存じ上げませんが、電気で動く自動の洗濯機が出来ましたるは、それより百年以上後の事でございました。無論、当時は質流れ。この行程は貧乏神が死ぬまで回転し続けたという訳でございますから、どちらも止まらぬ、壊れかけの洗濯機。


 いやはや、生活に必要な家電と言いましても、壊れて止まるだけ、まだマシというものでございます。


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