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洗濯機  作者: 小林 広平
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客:「御免ください」


 一人の男が質屋の()(れん)をくぐりました。


質屋主人:「はいはい、いらっしゃいませ」


 と、質屋の主人が奥の方から顔を出しましたる所、男は貧乏神の様な()(すぼ)らしい(ふう)(てい)ではございませんか。とは言え商売でございますから、幾ら客が貧乏臭いとは言いましても話を聞くまでは分かりません。いつもながらの丁寧な口調で応じる事にしたのでございます。


客:「少しお金を貸して頂きたく存じます」


質屋主人:「家は質屋です。(しち)(ぐさ)が無ければお金は貸せませんよ」


 今となっては少なくなってしまいましたが、お江戸の時代ではお金を借りる時には質屋でございまして、質種というお金の代わりになる物が必ず必要になったのでございました。


客:「分かりました。この布団を質に入れさせて頂きやす」


 現在の質屋に布団なんか持っていってはいけませんよ。ブランド品しか受け付けて頂けません。ですが、当時は対価というよりも保証という位置付けでございまして、無くては困る日用品程、質種には向いておりました。必ず必要になるので、金利を含めてきちんと借金を返してくれるという訳でございます。


 主人が見定めようと、どれどれと布団を手に取った瞬間でした。むわっと周りの空気が澱んだのでございます。


質屋主人:「しかし、臭い布団だね。洗わなくてはならないじゃないか」


 ひん曲がった鼻を押さえながら、思わず苦言を呈します質屋主人。そう来るならばと貧乏神は、


客:「そりゃあ、洗っておりませんからね」


 と、人差し指を鼻の下に当てつつ、(すす)りながらも誇らしげ。


質屋主人:「おいおい、それじゃあ干してもいないんじゃないだろうね」


 まあ、こんな布団で金を借りようと言うのでございますから、常識を疑われて当然でございます。貧乏神の大きな態度に質屋さんはすっかり嫌気が差してしまいました。しかし、勢いは(とど)まる事を知らずとばかりに、


客:「(さす)()にそれはご安心を。干しはしますが、洗うのは質屋さんの仕事でござんす」


 と、エヘンと胸を張りまして、まさかの大威張りときたものですから、こいつは吐く息吐く息、溜息に変わってしまう程の貧乏神。何とも変わった客でございます。


質屋主人:「ああ、良かった。って、全然良くありませんよ!家は洗濯屋ではございません」


 そうなれば、とっとと追い返してしまおうと、主人は布団を突き返しました。


客:「ええ、質屋兼洗濯屋でございまして」


 しかし、貧乏神も引き下がらない。負けじと布団を押し付けます。


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