東京タワー
佐藤君は越谷の人で、私は春日部の人だったけど、二人とも、大学が東京だったので、東京でもよくデートをした。一緒に東京タワーに行った帰り道、私の最寄り駅で降りると佐藤君が言った。
「おわかれのキスをしてよ。」
そういうものは、なんとなく、雰囲気でとか。男性から。とか、そもそも、付き合いだしたと言っても、友達の延長線だったので、私は、かなりとまどった。無視して帰ろうかとも思ったが、えいっ、とフレンチキスをすると、思わず、「ありえない!!」と小さく叫び、私は階段を駆け上った。
初めてのHも、全然、ロマンチックじゃなかった。上野のビアガーデンで飲んだ後、したたか酔っ払った佐藤君が帰れそうもなかったからか、終電がなかったからか、私がそのあたりを歩き回って、なんとか、しょぼい旅館を見つけた。会社(大学だけど)帰りで、着替えもなかったので、服をハンガーにかけ、裸でベッドに入ったものの、彼は、「俺、もうセックスはしないことにしたんだ。」
・・・???
でも、結局、いろいろあって、私たちは結ばれた。よかったのか、どうか、全然、覚えていない。
そんなふうにして、私たちは、飲みに行ったり、カラオケに行ったり、ボーリングに行ったり、ホテルにしけこんだりして、仲良くなっていった。
若い男の子とのセックスは、心地よかった。私のつたない経験では、上手いとか、下手とか、よくわからなかったけど、相性がいいとは、こういうことをいうのかしら?と思える関係だった。佐藤君は、とにかく肌がきれいだった。私は、高校、大学時代くらいに、にきびがひどくて、肌もおせじにもきれいとは言えなかったので、至近距離で見つめられるのは嫌だったけど、「佐藤君、視力いいよね?私、肌が汚いんだよなあ。。。」と言うと、「知ってたよ。でも、沙希ちゃんだから、いいよ。」と言ってくれた言葉を妙に覚えてる。
私が15分くらい歯磨きしてると、「長すぎだよ!!」と洗面所へやってきたりしたけど、別にそれも嫌だとは思わなかった。
ある日、「なんで指輪してないの?」と聞かれた。「だって、もらってないもん。」と言うと、「じゃあ、買ったらしてくれる?」「うん。」
二人で、草加のマルイのアクセサリー売り場へ出かけた。それは、私が初めてする指輪だった。5000円のシルバーのシンプルなもので、ペアにはしなかったけど、一緒に選んで、薬指に指輪をはめるというのは、思っていたより邪魔くさいものではなく、意外にいいものだった。
職場では早速、「どこのブランド?」「彼氏、何やってる人?」とおじさんたち(30代は当時のわたしにとって、おじさんだった)に質問攻めにあったけど、あまり世間の常識がよくわかっていなかった私は、普通にのろけていた。
楽しかった。いい時期だったと思う。
恋をしたからなのかは、わからないけど、当時、よく友達にきれいになったと言われた。メイク変えた?とか。仕事の関係の人から、ちょっと個人的なメールが来たり、職場の先輩から、個人的に誘われたり、全部、そつなく断ってしまったけど、「もて期」というものがあるなら、佐藤君と付き合っていた1年半が、しいていえば、私のもて期だったのかなあ。。。と思うことがある。
修羅場をへて、絶縁した後は、「あんな男と付き合うんじゃなかった。私はただ愚痴を聞いてくれる人が必要だっただけなんだ、別に好きだったわけじゃない。」とか、いろいろ思ったけど、当時の写真を懐かしく見れるようになった今、あの笑顔は恋する女の子、特有のものだろうと思う。
そんな、いい時代が、私たちにもあったのだ。