女と男と結婚式
性懲りもなく第二段。
強くていい女とハイスペックな色男の組み合わせが大好物な奴なのでしかたないと思ってやってください。
前話と雰囲気ががらっと変わってます。
「あれ、アリーじゃないか」
ちょうど一人になったタイミングで耳に馴染んだ声がした。
振り向けば、見映えのする長身に藍色のオーダースーツをまとった恋人クリスが嬉しそうに近づいてくるところだった。どうやら彼の周りにできていた女性の輪から、私を見つけて抜け出してきたらしい。
「まあクリス。まさか私の友人の結婚式であなたに会うとは思わなかったわ」
「ふふ、運命ってやつかな。新郎は大学時代の知り合いで友人でも何でもないが、来てくれと言うから顔を出そうと思って。ちょうど仕事先から家に帰るまでの途中で寄れる場所と時間だったし」
「もう、正直も時には害悪ね。せっかくの祝いの場なんだから、せめてもう少し猫を被ってあげて。式の最中は私の隣にいるつもりならね」
クリスの気持ちは分からなくもないが、彼よりは一般常識に従順な私は軽く苦言を呈する。クリスはどうでも良さそうに肩をすくめたが、特に反論も立ち去ることもなく私の前にいる。多少の融通は利かせてくれるということだろう。
「でも、新郎があなたの知り合いなのを私が知らなかったのは当然ね。仕事以外であなたが私に紹介してくれるのは、知り合いどころか友人の中でも厳選された人たちばかりだから」
「そりゃあそうさ。うっかり信用できない奴に美しい君を紹介して、そいつが君につきまとうようになったら厄介だろう? いくら俺でも、仮にも友人と呼べる存在を痛め付けることになる事態は避けたいから」
「もしもあなたが関与していない状況で、あなたの信用の置けない友人と私が偶然出会ったりしたら、あなたと私とその友人、三人にとってさぞ厄介なことになりそう。偶然と言えば──」
着心地のいいエレガントなドレスに目を落とす。
「お互い同じ式に招待されたことも知らなかったのに、あなたのスーツと私のドレスがよく似た色合いなのが驚きだわ。こんなこともあるのね」
「それこそ運命ってやつじゃないか? そのドレス、エレガントかつさりげなくセクシーでとてもよく似合ってる。もっと近くで見せてくれ」
「どうぞ好きなだけ。あなたは披露宴にも出るの?」
知り合い程度の仲でわざわざ出るクリスではないと断言できるが、それでも確認はしておきたい。今は騒ぎたい気分だから、という可能性もゼロではないし。
「もちろん。君が出るなら」
「私は出ないわ。式だけで失礼するつもりだから。新婦とは友人と言ったけど、頭にお花畑が咲き乱れてる今の彼女とは距離を置きたいの」
「ふうん? なるほど」
こういう察しの良さは助かる。
私とクリスはお互い今の関係に満足しているのだ。そんな私たちにとって、現在進行形で「愛する人との結婚こそが人生最大の幸せよ!」とでも力説しつつ無駄な説得をしてきそうな存在など、迷惑以外の何者でもない。
「そういうことなら式の後は二人で過ごそう。海沿いのホテルに部屋を取ってるんだ。ホテルの質はうちの影すら踏めないレベルだが、部屋からの景観は素晴らしい。月明かりに輝く海辺を歩くロマンティックな夜はどう?」
恐ろしく傲慢な評価だが、それを下したのがクリスならば誰も異論は唱えない。
クリストファー・ルード──名門ルード家の次男にして、世界屈指の最高級リゾートホテルのオーナーである男。家業のホテルの一部を相続するや否や、部屋数を最小限にする代わりにあらゆる質を限界にまで向上させて生み出した超セレブ向けの最高級ホテルは、コロナ禍など問題にもせず──むしろ世界最高の医療を提供する貴重な場として名を上げる実績になったほど。
密かに「ホテル界の皇帝」とも呼ばれる彼ならば、知り合い程度の関係であったとしても、結婚式に招待したいと思うのは至極当然。新郎の気持ちは誰もが理解している──無論クリス当人も。知っていてあえて無視しているだけの話だ。
そんな彼に誘うように微笑まれて拒める女など存在しない。私以外には。
「ロマンティック、ね。結婚式の空気にあてられたのかしら?」
「かもしれないな。アリー、君は? 俺と結婚したくなった?」
冗談めかしてはいるが、いつもは滑らかな口調がほんの少しだけ硬い。それを鋭敏に感じ取った私は、正直に誠実に答える。
「したくないとは言えないわ。でもどうしてもってレベルでもない。だってあなた、結婚願望なんてないでしょう? そんな相手に無理強いするくらいなら、結婚なんてしなくていいわ」
「そうか。まあ結婚なんかしなくとも、君は俺のもので俺は君のものだからな。形式や立場なんて関係なく、君が俺の側にいてくれるならそれでいい」
「私もあなたが側にいてくれるだけで幸せよ、クリス。でも──」
そっと彼の腕に手をかけて寄り添い、睦みあう距離で願いを告げる。
「もしもあなたが構わなければ、いずれ二人だけのこじんまりした式を挙げたいわ。あなたが年を取って、素敵なおじいさまになった時にでも」
「……ふっ。素敵なおじいさま、か」
私以外にはなかなか見せない素の笑顔にクリスはなった。
「つまり君は、あと四十年後、俺が老人と呼ばれる年齢になるまでずっと側にいてくれるってことだな?」
「それ以降もよ。あなたが望むなら死ぬまで」
「……アリー。本当に君は……」
クリスに触れている方とは逆の手が、そっと彼に持ち上げられる。
そして、その甲に優しく唇が落とされ、手首、手のひらにもキスされる。
「クリス……?」
「……そうだな。君となら、結婚するのもいいかもしれない。今すぐでも四十年後でもなく、君が本当に望んだ時に」
──衝撃的な発言。間違いなくそのはずなのに、それはあらかじめ知っていたかのような響きでアリーの心に優しく触れた。
ふっ、と花が咲きこぼれるような笑みが浮かぶ。
「ありがとう。いずれ、ね。ふふっ」
そう、いずれ。クリスを愛し続けることで、彼のトラウマが治れば。
その時には──
「ねえ、クリス。愛してるわ」
「俺も君を愛してるよ。このままさらっていきたくなるくらい」
もうこれが最終回でいいんじゃね?って流れになったのでちょろっと不穏な情報を追加してます。
だってこの後も浮気する男がクリス(台無し)。あくまでも肉体的浮気であって精神的浮気は有り得ないキャラですが。だからアリーは揺らがない。ただ絶対に許せない一点が彼女にはあって、そこを突かれると……?
そして金と権力を持ち合わせた男から逃げたら全力でストーキングされた過去のあるアリーちゃん。そりゃ捕まるわうん。
ちなみに二人の年齢はアリー27、クリス30です。たぶんこの男、高校まででホテルのコンセプトと経営計画固めて、大学在学中に独自のコネ作りまくるのと並行して相続済ホテル大幅改築(むしろ新築)進めて、卒業するかしないかで新ホテル開業してます。三年前にアリーと出会った頃には既に億万長者。




