九 まさかの来訪者
「お疲れ様でーす。
……あれ?何だかんだ、今日も有生来てるじゃん?」
掃除で、他の部員に比べて遅く部室までやってきた拓馬が不思議そうに俺のことを見る。
しかし、部室にいるのは俺と成島さん……それから部長くらいなものだ。
やっぱり拓馬もそのことは気になってしまうようで。
「あのさ……もしかして今日何かあったりする?」
「まあ、そういうことだ」
そんな風に返している俺も気が気ではない。
そう、あれは今日のお昼休み……成島さんと二人でご飯を食べていた時の話だ。
―
「話の内容を少し変えたい?」
「うん……時間のことだったり、学内でやることも踏まえて変えたい……それも、少しどころじゃないかも」
……まあ、これに関しては難しい話だ。
いわゆる二次創作に近いだろう、自己満足の範囲で好きなように設定を弄る。
学内でやる催しなどではよくあることだ。
恐らく、その程度の狭い範囲で身内で完結するならば大丈夫なんだろうとは思うものの、俺たちの気持ちは邪魔をする。
いわば、作品の否定と捉えられてもおかしくないものなのだから。
ましてや究極の二択は、俺たち二人も直接見に行った劇だし、小説も読んだしそれらを踏まえても完成度の高い作品だと思っている。
そんな作品を改変したい。
成島さんがわざわざそんなことを言い出すのだから、何かしら理由……というより目的があるのだろう。
成島さんは考えた末にまさかの行動に出る。
「……よし、DM……送っちゃお……」
「まあ、それで許可貰う分にはベストなの……かな?」
そう、いわゆる直談判というやつだ。
究極の二択の原作者さんは、SNSを個人で動かしているようだったため、そこに直接メッセージを送ったようだ。
「なんか……緊張する……」
「うーん、でも成島さん。
期待しすぎるのはちょっと危ないよ?
これで断られたら、またシナリオから選び直しだし」
これで断られたら少し悲しいな。
演劇部にとって、これは成島さんが入ったことで初めてやることになる、王道を逸れたシナリオなのだ。
多少介入すると言っても、魅力を全て潰すような真似は成島さんがいる限りないだろう。
あの、不思議な魅力が果たして味わえると思うとやっぱりここで断られるには惜しい。
「……!
あ、あの石金くん……!」
「…………え、もしかして許可出た!?」
「いや、それどころか……。
こ、ここ、ここに来るって……」
「あ、そうなんだ…………えええええええええええ!?」
成島さんが俺の目線に向けて思いっきり伸ばす手の先にあるスマートフォン。
そこには確かにこう書かれている。
―どこの高校ですか?
―調貫高校の演劇部です。
―職場に近いので、直接行っても良いでしょうか?
とりあえず、空いている時間を教えてください。
学校側への許可どりはこちらでしたいと思います。
「す、すげ〜!」
「……勿論、石金くんもくるでしょ?」
「いや、俺は……でも究極の二択の原作者さん……聞きたい解釈も何個か……でも部外者…………うーん……」
まあ、結論から言うと行くことにした。
特別顔を出したり、メディアに記事が多い人でもないのだ。正直、どんな人なのか知りたい気持ちもある。
―
……こうして、俺たちは今その人を待っているわけだ。
今日を含めて、何日か提案を出してみたがまさかこんな早くに行けるとは、思ってもいなかった。
「まあそれで、他の部員はとりあえず帰ったわけだ」
「へー……俺も帰んないとダメですか、部長」
「拓馬くん……か。
まあ、邪魔しないなら残っても良い……いやなんか馬鹿そうだし、どうしよう」
拓馬と部長は出会ってまだ一日経ってないぞ。
相変わらず、デリカシーのない人だ。
「やった!めっちゃ嬉しい!
……なんか物凄いテンション上がってきた!」
「あれ、拓馬もあれから究極の二択とかみたんだっけ?
それとも他の作品とか知ってるの?」
「いや、有名人ってことだろ!?」
あーそういうことか。
安心してください部長、あなたの人を見る目は物凄く優秀みたいです。
俺は緊張でカサカサの唇を潤すように、水を飲む。
「……そろそろ、来るみたいだよ」
成島さんはメッセージを受け取ったらしい。
俺たちは三人並んで席に座る。
拓馬は、多分会いたいだけだと思うからお菓子の準備みたいな雑用として活躍してもらうことになった。
本人もノリノリのようだ。
……それから、十分は経ったと思う。
対面する時に備えて、緊張感を纏わせていたつもりだったが、そう長くは持たないものだ。
成島さんもメッセージを送っているようだが、今度は全然返事が来ないらしい。
「これって、演劇部の場所わからないとかあったりするのかな」
俺は予測の一つに過ぎないが、それでも可能性を絞り出してみる。
部長は、微妙に納得いかない様子でそれでも頷いた。
「まあ、わかりづらいと言えば……わかりづらいのか?
探しに行ってこい…………石金」
「え、俺ですか!?……まあ、俺ですよね。
もし、部室の方に来ることがあれば連絡ください」
この状況ならば俺がいくのが一番丸い。
なんせ、演劇部員じゃないのだから。
周辺を捜索するが、それっぽい人が見当たらない。
なんなら、いつもより人が少ないのではないかと錯覚させられるほどである。
「ねぇ、ちょっと行ってみよっか?」
「待って!……何かあるの?」
何となく焦っていた俺は、話したこともない女生徒を引き留めてしまう。
だが、結果的にそれが功を奏した。
話を聞いて向かったのは、テニスコート。
人が少なく感じたのは、どうやら幻覚でも何でもなかったようだ。
いつもは、色んな場所にバラけて各々活動をしている生徒たちがテニスコートを囲むようにして集まっている。
俺もテニスコートの状況が見えるように、フェンスにしがみついてその中を確認する。
「それじゃ、行くぞ!」
何となく、分かってしまった。
テニス部の男子と一対一で試合をしている長身の女性。
その正体が誰かを。
「……これはテニス対決。
相手は次の動きをスムーズに行うため、身体を地味ながらも揺らし続ける。
状況への焦りか、それとも運動による発散か。
噴き出ている汗は、より今望んでいる試合への本気度を示しているかのようだ」
女性が放ったスマッシュは、良いところを打ち抜きどうやら勝負がついたらしい。
「素晴らしい、やっぱり高校は資料の聖地。
私の身体は今、確かな体験をものにした……!」
そう、その女性こそが恐らく究極の二択の原作者であり数々、名作を生み出したその人。
天才、日比野ゆらぎ……。
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