八 部活見学
さて、今日の放課後は始めて成島さんが部活に行く日となっている。
昨日に比べるとそれなりに落ち着いた一日になっており成島さんと一緒にいるところを見られても特別反応されなくなってきた。
部長とも何度か話している様子が目撃されており、成島さんが演劇部関連の人間と関わっていることが自然と伝わったからなのだろう。
……まあ、厳密にいえば俺は演劇部という輪からは外れているはずなのだが。
まあ何が言いたいかと言えば、俺は今日一日は平和だったということだ。
初めての部活という成島さんにとっての大イベントはあるものの、演劇部じゃない俺が関わることじゃない。
部長がいるというのも、安心要素として大きい。
俺がやることといえば……いつも通り友人たちと雑談を交わすことくらいだ。
「……まあ、ここ数日演劇……?勉強してみたけど。
やっぱり何も分かんねえわ」
「そっか、いや一回見に行ってみたら魅力も伝わるとは思うんだけど……」
相変わらず拓馬は、演劇の興味を持とうとはしてくれているらしい。何度も折れたりはしているようだが。
動機は何であれ、俺には嬉しいことだ。
「っていうか何だっけあれ……。
有生が土曜日見に行ってた、選択肢みたいな……」
「究極の二択!…………あ」
何と訂正の声を上げたのは、もう一人の友人白川純。
反射的に訂正したことに気づいて、恥ずかしそうに頭を掻く。
「え……純!
もしかして、調べたりとかしたの!」
「……まあな、ほら……嫌じゃん?
お前ら二人だけで盛り上がんのとか」
マジか、俺は正直拓馬より純の方が演劇を好きになる確率は低いと思っていた。
成島さんの登場により、拓馬が演劇を調べ始めて更に純まで知識をつけてきている。
彼女がもたらした恩恵は本当に凄まじい。
自分の知識を一瞬で抜かれた拓馬は、机に顔を落とす。
「正直さ、成島さんに演劇好きすぎて俺は仲良くなるの難しいかもしれないけどよ……。
何か、あんまり演劇知らないけどそれでも演劇部に所属してる人っていたりしないの?」
急にそんなことを言い出す拓馬。
俺は考えることもせず、ノータイムで答えを出す。
「いるよ、アニメとかは好きだけど演劇はそんなな人」
まあ、その人が何故か部長なのだが。
「え…………マジ?
……おい、俺たちで演劇部入ろう」
「は?」
「俺は無理だよ、見る専だし」
困惑に否定、入部に対してかなりマイナスな感情を露わにする俺たちだが、拓馬がそんなことで止まらないこともよく知っている。
俺たち二人の手を掴んで思いっきり引っ張る拓馬に振り回されるまま、部室へと駆り出される。
「ここか……」
「ちょっと待て、本当に行くのか?」
一応最後の話し合いを試みた純の意思も虚しく、拓馬によって思いきりその扉は開かれた。
中を覗くと、数人の演劇部員が椅子を並べて座っている。
その注目の先はやっぱり部長、掲げられたホワイトボードに書いてあるのは有名な作品たちだった。
「お、早速新入部員が三人入ったっぽいな」
強制的に入らされるものではないが、とりあえず邪険に扱われているようでもないらしい。
とりあえず用意してもらった席に座らせてもらう。
「まあ、後ろの三人……いや石金は入らないだろうから二人かな?そこが入るとなるとやれる演目も増える。
とりあえず、昨日の内に出したこの案の中からやりたいやつを決めるってことでいいか?」
俺たちが入ってきたタイミングは次の演目決めの途中だったらしい。
自分で言うのも変な感じだが、俺が演劇部に入りたいと思わせることが目標のやつだ。
うん……並んでいる作品達はどれも王道で成島さんや拓馬たちまで、初心者が入ることを想定すればそう悪くないと思う。
演劇をあまり知らないとはいえ、流石に部長だ。
よく考えられている。
「あの……ちょっと良いですか?」
他はもう、この中で決めようとしていた。
そんな中で、手を挙げる成島さん。
部長も久しぶりに反論が出たのだろう、心なしか嬉しそうに見える。
「何だ成島、良いアイデアがあるのか?」
「良いアイデア……というよりやりたい作品があります」
成島さんのやりたい作品……正直思い当たる節が無限個思いつくな。
歴代雑談してきた中で、出てきた作品の数はもう既に三桁は行っていることだろう。
「やりたい作品……それは?」
「それは、究極の二択です……!」
究極の二択……調べ始めるもの、まさか出てくるとは思わず驚くもの、反応はそれぞれだが全員がその名前を聞くとは予測できなかったはずだ。
何せ究極の二択が舞台用としてブラッシュアップされたのはつい最近のことだ。
俺もあの日見に行ってからまだ一週間も経っていない。
つまりはそのレベルの新しい作品である。
「よし、それにしよう」
しかし、部長は簡単にそれで決定を下す。
俺は見てきたから分かるが、あれは役者の表現に相当重きを置いた作品である。
部長はまだしも、他の人たちが完成度の高いものを出せるかと言われれば微妙な話だ。
たかが、学内での見せ物……そう割り切れば別に良いと思うが、部長は恐らく本気で仕上げるつもりだ。
「……まあ、ヒロイン二人は私と成島。
っていうか厳密に言えば幼馴染が私で令嬢が成島。
問題は主人公といったところか?」
こうも簡単に意見が通り、あっさりと良い役を成島さんに任せられるのは、むしろ他の部員は部長と並ぶ二大ヒロインをやりたくないからなのだろう。
成島さんは困惑しているようだが、これから部長と並んで演技をすることになるのだ。
むしろ、これからの方が苦労をすることになるだろう。
それにしても、部長が言った主人公候補……究極の二択の主人公か。
やれるとするなら……………………。
その瞬間、俺の目の前まで移動してきた部長が俺と視線をぴったり合わせる。
「お前、主人公候補思いついてるだろ」
「いえ」
「高橋、元木、戸部……じゃないなら、一緒に来た友達のどっちか?……ほう」
部長は純を指差して、大きく息を吸う。
……この人、マジで何者だよ。
「君が主人公で決定だ!」
「へ……何で?」
当然の疑問に驚く純。
純が演劇に触れ始めたのなんてずっと最近のことだし勿論自分が演じること自体も初めてレベルだろう。
「もう、部長!
俺の表情から情報抜き取るのやめてください!」
「別にそういうのじゃないし。
私も本当にこの子がいいと思ったんだよ」
ったく……この人はこういうことしてくるから嫌だ。
まあ、それでもとにかく作品と配役はこうして決まったのだった。
俺が演劇部に入るかは別として、成島さんたちが自分なりに落とし込む究極の二択……それは楽しみで仕方ない。
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