七 彼女から見て
「成島さん?成島さーん」
「あ、ごめん……」
放課後、少し先を歩いていた石金くんが私に呼びかける。
今日一緒に帰ろうと提案したのは、私の方だというのに考え事ばかりしているのは失礼だと……そう思う。
「いや……にしても今日は凄い一日だったね」
「うん、本当に……」
「部長は明日から来いって言ってたけど、何かしら準備でも進めてるのかな?」
そう、今日は石金くんのいう通り本当に凄い日だった。
朝から、学校で友人と話をしてその知り合いである部長さんの勧誘を受けて演劇部になった。
今の目標は、目の前にいる石金くんが入部を考えてしまうほどの劇を作ることなんだけど。
「石金くんは……やっぱり演劇部には入りたくないの?」
「うん、さっきも言ったけど俺は見る専だから」
……そう、石金くんがそもそも入部を渋る理由が私には分からない。
彼は何度聞いても見る専だから、なんて理由で断っていいるけど本当にそんなことあるのだろうか。
見るのが好きだったとしても、彼ほどの熱量があれば一度は関わってみたいと思うのが普通な気がする。
それこそ自分が演技することに抵抗があったとしてもシナリオを作ったり、裏方の仕事をしたり。
……考えすぎなのかもしれないけど、とにかく私の中で納得がいかなかった。
「え、でも…………そうだよね」
だからって私にはそれを聞き出す話術もありはしない。
それで友人を一人失うリスクを負う勇気もない。
結局、このモヤモヤは時間と共に忘れるしかないのだ。
「……成島さん、大丈夫?
そうだな、近くにコンビニあるからそこで何か食べたりとかしない?」
「うん……」
また気を遣わせてしまった。
これ以上答えの出ない憶測を考えるのはもう辞めた方が良い。
切り替える意味も込めて、少し先に見えたコンビニへと入っていく。
普段、あえて学校帰りにコンビニに寄ることなんてほとんどなかった。
学校生活をテーマにした作品の定番シチュエーションに多少なりともワクワクがある。
「こういう時って石金くんは何買うの?」
沢山並ぶコンビニの商品たち。
私が普段コンビニに入る時は、緊急で何かを求めていた時か、喉が渇いたから飲み物を買う時くらいだ。
こういう知見が全く無い状況では、誰かにおすすめを聞くのが一番だと、そう思っている。
それが、石金くんのおすすめなら尚更信用もある。
「うーん、小腹が空いてるならレジ前のホットスナックとか、俺なら一番上の唐揚げとか買うかな?」
小腹……うん、空いてるといえば空いてる。
というか石金くんのおすすめならやっぱり食べたい。
水だけ手に取ってレジへと並ぶ。
ホットスナックを買ったことがない不安から、石金くんに先に行ってもらうことにした。
「いらっしゃいませ〜」
「じゃあ、タマカラ一つ下さい」
「はーい……って石金くんじゃん!」
「え、山口さん!?」
石金くんはネームプレートを見て、驚きの声を上げた。
山口……さん、突然現れた石金くんの知り合いに鼓動が早くなる。
私にとって、石金くんを知る人は今まさに出会いたい人だったからだ。
「……後ろの子、彼女?」
「ち、違うよ!普通にクラスメイト……」
「そっか、可愛い子だね」
一応頭を下げておく。
そんな風に話しながらも、手は動かしたままだ。
すぐにレジ袋に商品を入れて、会計を済ませる。
「久しぶりだから、びっくりした。
ありがとうございました!」
「うん、また」
石金くんは一足先に買い物を終えて、外に出る。
……ようやく私の番だ、頭は回らない。
「……本当に綺麗な人ですね。石金くん、羨ましいな〜」
「あの、私もタマカラ……」
「はーい」
……どうしよう、何から聞けばいいかよく分からない。
さらにそのタイミングで後ろに人が並んでしまった。
これ以上、多くの時間を取らせることは出来ない。
「……あ、あの。
少しだけ、お話できませんか……」
何を言っているんだろう。
そんなの無理な状況であることくらい分かっている。
やっぱり相当テンパってしまっているらしい。
「申し訳ありません。
ちょっとバックヤードの方に確認してまいります」
そういうと山口さんは一瞬だけ裏に行って、すぐに戻ってくる。
後は、石金くんと同じ要領で滑らかな流れで接客してくれた。
「おしぼり、つけておきましたので」
……そこが唯一、石金くんと違ったところ。
鈍感な私ですら、違和感を感じさせられる。
結局、話すことは出来ないままコンビニを出た。
「お待たせ」
「うん、それじゃどこかで食べようか?
……いや、ちょっと寒いし早めに帰った方が良いかな」
相変わらず、私の体調を心配してくれている石金くんの提案で、結局すぐに帰ることになった。
コンビニが丁度別れ道で、すぐに一人になる。
手にレジ袋の重みを感じながら、やっぱり考える。
せめて、石金くんの本当を……本心を知りたい。
やっぱり、彼が同じ部活に入っていたらきっと楽しいだろうし、私としても安心できる。
……でも、もし何か事情があってどうしても出来ないというんだったら仕方のないことだ。
どちらにせよ、とにかく知りたい。
家に着く、靴を揃えて二階に上がる。
すぐに家専用のだらけた服に着替えて、今日一日の疲れを実感しながら椅子に腰掛ける。
あれからずっと持っていたレジ袋からようやく商品を取り出した。
……そういえばおしぼり、何か変な感じだった。
確かにレジ袋の中にはおしぼりが入っている。
あれ……よく見れば袋が開けられている。
袋の中に入っていたのはおしぼりではなく、一枚の折り畳まれた紙で床にこぼれ落ちる。
急いで拾って紙の中身、それは電話番号と七時以降と書かれたメモだった。
これは、言うまでもないが山口さんの電話番号……。
何か、近づけそうで……石金くんにもし差し伸べられる手があるなら。
七時まで、後ニ〜三時間くらいある。
でも今頭は電話のこと一色になって、秒針を目で追ってしまう。
心を何とか落ち着けようと、石金くんオススメのタマカラを口の中に放り込む。
「……美味しい」
確かに、すごく美味しい。
今まで、同じ学校に通う子たちはこんなに美味しいものを食べたことがあったのだと思うと、少し嫉妬する。
勿論、今日これから通話もするけれど……。
また、感謝を伝えにあのコンビニに行ってみよう。
ついでに……本当についでだけど、またタマカラも買っちゃおうかな。
ここまで見ていただきありがとうございます!
良ければブクマ、評価、感想等よろしくお願いします!




