五十三 密談
テンテンテン……テンテンテン……プッ……
「……もしもし」
「もしもし、まさかこのタイミングでまたお話出来るとは思ってなかったので嬉しいです」
「本当、忙しいタイミングだと思うのにすいません……」
「ふふっ、そんなこと言っても普段はただの高校生ですからね。こうしてゆっくりお友達と話せる時間があるのは嬉しいことです」
あまりにも淡々と進んでいく会話は時計の針の音すら拾ってしまうほど静かで、心地が良い。
そういえば、最近の部活はやけに騒がしいイメージがあったからか、それと対比している部分もあるのかも。
「……落ち着いた雰囲気が好みなんですか?
もし心地いいと思っていただけたのなら、更に親交を深めることだって、私はやぶさかではないんですよ」
「あの、心読まれてます?」
「心を読みたい……そう思ってはいます」
そういえば、前に部長にも心を読まれて純が主人公に選ばれるなんてことがあった。
自覚はないが、案外心を読まれやすいタイプなんだろうか。
……いや、二人が化け物じみた観察力を持っているだけだよな。
「……とにかく、ちょっと本題というか……」
「ああ、そうでしたそうでした。
わざわざそのために連絡してくださったんですもんね」
「はい……そろそろ夏休みも近いじゃないですか。
良ければ、地域……それから県予選に向けてやってることなんかあればなと」
「あら、そうですね。
二連覇する私たちの助言は一番説得力あるんじゃないんですか?」
……二連覇、簡単に言ってくれる。
まだまだ今年の全国大会は終わっていないというのに。
それだけ、今年も徳島は仕上げてくる……最早仕上げてきているということか。
「それは、凄い自信ですね」
「ええ、去年優秀してますから。
それより面白いものを完成させていれば当然それは自信に繋がります」
ここまで結果を残しているかつ、あの県予選を見せられていたら、これが単なる見栄ではないことも良くわかる。
……だからこそ、嫌味だな……そう思った。
「……おっと、何回も話を逸れてしまいましたね。
こうして話せるのが嬉しいのかもしれません」
「…………それで、聞かせていただいてもいいですか?」
「んー、そうですね。
大抵、この時期は時間が殆どなくて一気にレベルアップというのがし辛い時期なんです」
まあ、やる演劇を完成させ細かな調整を始める。
一月前と言うならば、確かにそんなものかもしれない。
「……ただ、もし不安だと言うのなら。
一つだけ、抜け道のようなものがありますよ?」
「抜け道……ですか?」
「はい、聞きたいですか?」
やけに勿体ぶる電話の声に、それでもまだまだ良いものができる可能性があるならばなり降り構っていられない俺は、すぐに答えを出す。
「勿論、聞かせていただきたいです!」
「おお、良いですね。
じゃあ早速……抜け道……というか即座にレベルを上げる可能性があるとするならば実力のある高校との合同練習、なんて言うのはどうでしょうか?」
「……合同練習、なるほど」
確かに、自分たちと同じレベル……何なら圧倒的に上手い演劇部とやることで、学べることは多いし必死についていくというだけでも上手くなっていそうな気はする。
それだけ聞けば、非常に魅力的なのだが……。
「……良いと思います」
「まあ、分かりますよ。
高校演劇において、これまで特別な賞を取ったことの無い学校ですからね。
全国レベルに上手くて、自分たちも学べる部分がある。
この時期にそんな条件で関わりを持ってくれる高校なんて珍しいとは思いますよ」
……まあ、まさしく言われた通りだった。
ですよね……と俺は大きく息を吐く。
「私たち……も、流石に厳しいですしね。
私は良いんですけど、他の部員に流石に怒られます」
「いやいや、勿論そんな。
メリットが無いのに協力して頂くのは申し訳ないです」
「メリットならありますよ……家とか行けますし」
「え……?」
「いえ、何でも無いです」
流石に、冗談だよな?
……まあとにかく、むしろこうして全国レベルの高校生に相談することが出来ているのですら奇跡なのだ。
「とにかく、頑張ってみます。
すいません、結局結論出ないまま終わらせて」
「ええ、ただ。
もしかしたら、諦めるには早いかもしれないですね」
「早い、ですか?」
「いえ、これ以上はこっちの話です。
練習頑張って下さい、来年お待ちしてます」
ふう……何となく緊張もしたが、とりあえず今日はここまでということらしい。
まあ特別ピンとくる策も思いつかなかったが、合宿……なんていうのはありかもしれない。
どこか、別の地区予選の高校と合同練習なんていうのも悪くはないのか?
伊川高校……ふと、出てきたその名前は胸にしまい込む。
あそことは地区予選でぶつかる完全なライバルなのだ。
仲良く練習……なんていうことにはならないだろう。
「……とにかく、色々思いついたこともあるので相談してみたいと思います。
今日はありがとうございました」
「…………あの、最後に苗字くらい呼んでいただいても」
「え……分か、りました。
それではおやすみなさい、新町さん」
「……今の、録音しときましたので。
これで演劇ブログさんのAIとか作れますね?
……冗談、ですよ」
ガチャ……
…………冗談……なんだよな?
少し固まっていた俺だが、新町さんが言ったことを確かめる術はないことに気づき、自分たちの活動に脳みそを戻す。
新しくメッセージが届いたのは通話が終わった五分後くらいのことだ。
演劇部たち全員が入っている連絡ルーム。
そこに投下された一文は度肝を抜かされたし、多分俺が一番驚いたことだろう。
メッセージの主は、六倉先生だった。
―つい先ほど、東京代表の演劇部さんから合同練習をしたいという連絡をいただきました。
明日の部活で話し合いをしてどうするか決めましょう。
俺以外……あまりに突然の自体に唖然としてると思う。
新町さん、恐るべし。
ただ、何となく禁忌の力に触れている感覚を覚えて今後彼女に何かをお願いするのは控えよう、そう思った。




