五十一 どこ吹く風
部長と結構しっかり喋れたそんな日。
俺は複雑で違和感のあるその感情を引きずったまま、ようやく家に戻ってくる。
元々、今日部長と会ったのは単なる偶然でしかなくて本来の目的は俺の家でいつもの二人と遊ぶことだった。
先に戻った二人はどうせ、俺の部屋でぐだぐだゲームをやっていることだろう。
「ただいま〜、拓馬と純来てる?」
「うん、二階にあげといたから〜」
リビングから聞こえる母の声に一安心する俺。
意外に破天荒な行動を起こす二人は気付かぬ間にどこかに行って、それを俺が追うということも何度かあった。
とりあえず、今日はメッセージの通りそのまま俺の家に向かってくれたらしい。
「ごめんごめん、部長に会ったからさ。
意外と長話しちゃったよ」
…………。
さて、部屋の中にいるのは俺を含めて五人。
さっきも言ったように、俺を驚かす選択を度々する二人の友達。
……だから、成島さんがいることはとりあえず良い。
…………いや、良くないけど。
だけど成島さんと向かい合って、お菓子を食べながら談笑していた見知らぬ女性。
そこに関しては、最早意味がわからないを通り越して恐怖すら覚える。
「……誰かの……隠し子……とか?」
「……あの、石金先輩。
それ私が幼く見えるってことですか?
…………それって結構なディスですよ?」
流れる空白の時間で何とか言葉の端々から考察する。
「高校の後輩……ですよね」
「はい!……良かったです、分かっていただいて!」
「いや、多分俺何にも理解できてないと思う」
一応、まだ入学式も行われていないはずなのだが。
突如俺の部屋に現れた後輩を名乗る謎の女性。
……こうして、情報を洗い出してみるとむしろさっきより恐怖が増す結果となった。
「あのね、私から説明させて!?」
噛み合わない俺たちの会話に割って入る成島さん。
さて、ようやく全ての謎を紐解いてくれるらしい。
「えと、この子は藤安雅ちゃん。
ほら……私たちこの前芸術フェス出たじゃない?
その時、興味持ってくれたみたいで。
あの後、石金くんがいなくなった後で声かけてくれて」
……ああ、なるほど。
こんなに一回の説明で思ったより人間は状況を理解できるらしい。
「連絡先交換してたから、今日二人で会ったんだね」
「そう、で俺が成島と丁度部活のことで連絡取り合ってて。俺たちのところ来たいって言われてさ」
「……凄い、成島先輩の言う通り鋭い人ですね」
そう言って、俺のことを色んな角度から観察する藤安さん。
成島さんはどうやら、俺のことを過剰に誉めてくれたらしい。驚くほどに初見から、尊敬を向けられている。
「でもさ、実際凄い行動力だよな……。
成島がいるとは言え、直接ここまで来るとは」
「へ……いや、そりゃ勿論ですよ。
一度演劇諦めて、入った高校の演劇部が急速的に成長しているんですから。
もう奇跡を感じたし、やっぱり演劇に関わりたいって。
そして今日、その急速成長の原因とも言える人に会えるって言うんですから」
……一度演劇を諦めた。
そういう事情はつい、自分と重ね合わせて気になってしまうところがある。
勿論、俺とは違う人間であり事情も大きく違う。
それは分かっているのだが、感情がある以上どうしても気になってしまうものだ。
「えと……何かあったの?」
「え?……ああ、シンプルに体力がないんです」
そうけろっと言っている彼女に緊張が解ける。
「やっぱり、演劇って疲れるじゃないですか?
体育とかずっと一……いや、二の時もあったんだっけ?
……とにかく、そんなだったので中学の時は練習とかついて行けなかったんです!」
「……いや、多分高校演劇の方が疲れるよ……」
そんな俺の非情な現実にドヤ顔を見せる藤安さん。
パンっと胸を叩いて咳き込んだ後、再び喋り始める。
「安心してください!高校ではそんな悲劇を繰り返さない策を持ってきたんですよ」
「一応……聞こうかな?」
「こほん、それでは。
……私が調貫高校のマネージャーになれば良いんです」
おお、と鳴り響く俺以外の拍手。
なんなら本人ですら、拍手をしているが……。
我が調貫高校は、総勢十人強の部員で成り立っている。
マネージャーはおろか、裏方も役者も足りていない状態だ。
「良ければ、役者として……」
「おい、有生。
良いじゃんかよ、マネージャー」
「……うーん、一人くらいいたら嬉しい……けど」
「それにさ、部長にこのこと言ったら何て言うと思う?」
部長……?
「良いな、面白いだろそいつ……それにさ。
最初はマネージャーとして入れてどんどん役者として育てたら良いな?」
……そんなことを言いそうだ。
「まあでもとにかく、一回諦めてた演劇にもう一度関わろうとしてくれるのは演劇好きとしては嬉しいし、尊敬するよ。どうなるかは、今後次第だけどそれでも。
これからよろしく、藤安さん」
「おお、時期部長候補に認めていただけたんですね!」
「……成島さん?」
どうやら、本当に成島さんはあることないこと適当に言ってるらしい。
その証拠に俺の鋭い視線を必死に交わして壁のポスターなんかを見ている。
「ていうかさ、こんなに演劇部員集まってるならいっそ何かしら映画でも見ようぜ」
「あ、じゃあ私のおすすめとかどうですか?
私も先輩方ほどじゃないですけど映画好きなので」
「おお!俺全然映画分かんないんだよ。
面白いやつ、おすすめしてくれ」
気づけば、あまりに普通に馴染んでいる藤安さんと男共はサブスクから作品を探し始める。
……何だか、情報量の多さに疲れて俺は後ろの方に座って上映を待つことにした。
「遅くなったけど、急に来てごめんね」
「いやいや、純に確認とったんでしょ?
それに俺だって、断らなかったよ」
「うん……藤安ちゃん……良い子でしょ?」
「分かんないけど、また賑やかになるね」
「うん……」
そう話している俺たちと横並ぶように他三人も座る。
どうやら、始まるようだ。
「……すいません、意外と拓馬先輩が初心者だったみたいなので、まずはシンデレラなんてどうでしょう?」
「良いよ、俺も好き」
「ですよね……私も……好きなんです」
こうして、さっきまで騒がしかった面々は静かに目の前の画面に集中する。
春休みに入る直前のこと、演劇部では珍しいマネージャー志望の女の子が入部することが決まった。




