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五十 一年の壁

 卒業式が終わったとしても、在校生にはまだまだ時間は残されていて。

 それでも、近づく春休みに多少のワクワクが生まれてきた頃。

 俺も、近づく長期休暇に向けて久しぶりにレンタルショップへと顔を出していた。


「……これ、とか。

 あ、でも成島さんのところに置きっぱにしてるのに同じやつあったりしたっけ……」


 店の前でカードのパック開封したりで遊んでいる純と拓馬を差し置いて、俺は春休みに見たい作品を詮索中だ。

 俺たち演劇部にとって、春休みはイベントが近いわけでは無いため、ある意味じゃ一番休める長期休暇であると言えるだろう。

 特に今年の夏休みと冬休みは、大会がチラついて休めたものじゃないだろう。


 ……そういえば、もう一周は見終わったと思っていた昔の映画や映像作品が置かれているあの場所。

 最後に見たのは二ヶ月ほど前だった気がする。

 一応、確認しておくとするか。


 ………………。

 俺は、そのコーナーに差し掛かって動きが止まる。

 そこには、部長が様々な作品をカゴに入れながら吟味している様子が広がっていたからだ。

 何度も言うが、部長は特別演劇に関心があるわけではない。

 そんな部長が、昔……現代で言えばマニアが見るような硬派な作品に手を出してる様子は、俺からすればかなり異質と言えるだろう。


「……部長」


 結局、俺は声をかけてしまう。

 ビクッと身体を震わせた後、すぐに身構えた部長はよく知っているであろう俺の顔を見た瞬間顔を紅潮させる。

 お互いが見つめ合うだけの時間が、一分に差し掛かるくらいは続いたと思う。


「……部長、こんなところで会うとは」

「はぁ、こっちのセリフ……いやそうでもないか。

 ……とにかく、会いたくなかった二台巨頭の一人。

 まさか、石金に会ってしまうとはな」


 おそらく、そのもう一人は成島さんだと思う。

 確かに、こう言う場面に立ちあうとつい俺は熱くなってしまって、拓馬の心を何度も折ったことを思い出す。


「……いえ、自分でも分かってるんで。

 何も言わないので、ゆっくり選んでください」

「それはそれで気持ち悪いな……。

 …………絶対、成島に告げ口するなよ」


 成島さんとは、春休みに一回くらいまた家で映画鑑賞会をしようという約束はしている。

 その時にポロッとこのことを溢してしまう……うん、正直隠し通せるかはかなり怪しい。

 成島さんは俺以上に部長に懐いてるし、ズバズバ斬り込んでくることだろう。

 ……まあ、言わないように頑張ってみよう。

 それでも、ゼロとは口が裂けても言えないが。


 まだまだ時間がかかるなら、先に帰るぞ。

 そういう趣旨のメッセージが届いていた。

 長い関係だからよく分かるが、二人は既に俺の家に向けて出発していることだろう。

 今日は母さんが家にいることも言っている。

 むしろ、時間を気にせずまだまだ作品を漁れるということらしい。


「……あの、部長」

「何だ、やっぱり口出ししたくなったか?」

「いいえ、そういうわけじゃないんですけど。

 その、何で借りようとしているのかな……と」


 部長は、並んでいる作品一つ一つを手に取って確認……そんな作業の片手間で答える。


「……別に、演劇部の部長だぞ。

 作品を見て勉強するなんて普通どころか勤勉だろ」

「俺がそれでなるほど、ってなると思います?」

「ふふっ、ならないだろうな」


 まだまだ作業の手は止まらない。

 俺は既に、ここにもう新作が入っていないことを知って部長の動きを目で追っている。

 何となく、部長とは沢山話しておきたい……そんな風に思うようになっていた。


「まあ、単に後悔してるんだろうな。

 私は全力でやっていたつもりだったけど、少なくともこうして映像を見ながら座学するなんてことはやってこなかった。

 それこそ、お前らがずっとやってきたことなんだろ?」

「……ですね、好きですから」

「だからまあ、そろそろ私もやらなくちゃな」


 俺が言葉を発そうとした瞬間、立ち上がる部長。

 抱えている籠を確認する様子からどうやら会計に行くのだと察する。


「じゃあ、部長……また部活で」

「おい、どうせ時間あるんだろ?

 あと三十分だけ付き合え」


 促されるように先に店から出て、部長が出てくるのを待つ。

 そういえば、結局何も借りずに出てきてしまった。

 次、部長が出てきた時にはその手にペットボトルを二本抱えている。


「今のレンタルショップはゲームとか飲み物とか。

 本当、何でも売ってるな」

「さっき拓馬たちもカード買ってましたよ」

「ああ、本当に時間いいのか?」

「はい、全然問題ないです」



 部長に手渡されるコーヒーを喉に通す。

 まさしく、先輩後輩のような一連のやり取りに何だか安心感すら覚えた。


「……今年が、私にとっては最後か。

 高校生活なんて驚くほど早く過ぎてくな」

「ですね、皆寂しがってると思います」

「石金は?」

「そりゃ、勿論。

 俺が一番悲しいと思ってますよきっと」


 このまま春休みに入って、その二週間が過ぎ去ればもう俺は二年生、部長は三年生になってしまっているのか。

 まるでカウントダウンみたいにその辺まで終わりが近づいているような気がして焦る気持ちがある。


「おいおい、気づけば素直で可愛い後輩になったな」

「……そりゃ、元々部長のことは尊敬してました。

 トラウマとかで、入るのは遅れちゃいましたけど。

 それでも、一番可愛がって貰ってるとは思ってます」

「そうだなぁ」


 ふと、俺の中で上がってきそうな言葉を堰き止める。

 ……部長には、本当にお世話になった。

 やっぱり、抱いた本心はいずれ隠しきれなくなってしまうものだ。


「俺は部長と全国行きたいです。

 ……どんな方法があるか……いや、ないことはわかってるんですけど。

 それでも、行きたかったです」

「……無いなんて、寂しいこと言うなよ」

「え?」

「全国、勿論見に行くよ。

 大学とかの事情とか、まだ分かんないけど。

 それでも、他に代えられない思い出になるはずなんだ」

「……たまにでいいから、部活に顔出してください」


 部長は最後、俺の頭をポンと撫でて帰路に着く。


「本当、可愛い後輩だ。

 全国に連れて行かなくちゃ気が済まないくらいに」


 手を挙げて、去っていく部長の後ろ姿を見つめる。

 やっぱり、部長と一緒に全国を見ることは出来ない。

 相変わらず、その事実が覆ることは奇跡が起きてもないようで、ゆっくりその事実に寄り添うように息を吐く。

 戦力が抜けるのが厳しいとか、部長がいなくなったら士気が下がるとか、あるだろうけどそこが一番ではない。

 まあ単に、寂しいだけなんだと……そう思う。

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