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四十九 終わり際

「ほら、三千回くらいは見られてるでしょ?」


 そこに上げられているのは俺たちの動画。

 芸術フェスでやった演目などはこうして、アップロードされ、全国の人々にも公開される。

 ……とは言っても、所詮は地方での取り組み。

 特別見られることはないのだが。


「……あの、部長?」

「何だよ」

「どうして、そんなに機嫌悪そうなんですか?」


 部長は思いきり机を叩き、その力で一気に立ち上がる。

 その場にいた部員たち一人一人と目を合わせた後、はぁと息を漏らした。


「あの時……和歌山に遠征に行った時だ。

 全員で悔しがって、もっと上手くなりたい。

 そうやって、皆で話し合ったよな」

「……はい」

「だったら、これは悔しくないのか!!」


 部長が並ぶ検索候補から、伊川高校の作品を開く。

 その視聴回数は四千回……まあ、負けてる。


「ほらぁ!私たちこうして敗北したんだぞ!」

「部長、お言葉ですが。

 演劇というのは見られるのが全てじゃないんです。

 伊川高校はここ二年くらいで注目度が高い演劇部であることを加味しても、一概に負けとは言えません」

「……だけどなぁ、私は悔しいよ」


 最近はこうして意見をぶつけ合う成島さんと部長だが、正直どちらの意見もわかってしまう。

 ただ、明確な指標としてこうして劣っている部分が出てきてしまうと、少し傷つくのには同意だ。

 俺は、二人の喧嘩を止めるという意味も込めてパソコンの電源を落とす。


「「あ!」」


 言い合っていた途中のはずなのに、息を揃えてそう言った二人に俺は冷静に問いかける。


「二人とも、これはどうしたって難しい話だよ。

 ……ただ、大ちゃんはきっとこの結果を見たからって満足することはないんじゃない?」

「……まあ、言いたいことは分かる」

「そう、地区予選……もしかしたら道予選。

 そこで残る結果が、俺たちにとっての決着」

 

 大ちゃんとは、少なくともそう約束した。

 きっと何かしら、お互いが不満や負けてるかもしれないという事情を抱えた上できっと良いものを作る。

 だから、今度は完膚なきまでに。

 全国の二位とすら大差をつけるほどのとんでもないステージを見せればいい。


「まあとにかく頑張りましょう。

 少なくとも、全国で一位になればその年一番見られる高校演劇になりますよ」

「……!石金くん」

「いやぁ、そうだな!

 ……よし、こっから更に気合い入れるぞ!」

「「おお!」」


 その時には、俺も思い出していた。

 部長たちは、全国大会には行けないのだ。

 ……また、気を遣わせてしまったな。


 こうして再開される練習、確かに部長が言っている通り練習量は増えていった。

 俺自身も、どんどんと台本の内容を生み出していき大会に向けて何かいいものが出来ないかと頭を悩ます。


 そんな風に忙しなく過ごしていたある日のお昼。

 今日はいつも通り一年生組でご飯を食べていた。


「おーい、拓馬!」


 ふと、声をかけられる拓馬。

 拓馬を呼び止めた人物は何となく見たことがあるくらいの認知であり、多分先輩の誰かなんだろうと思う。

 拓馬はいつも通り明るく応じて、先輩が用意していた色紙に、文字を書き込んでいく。

 俺たちはそんな様子を黙々と見送っていた。

 先輩が去って、ようやく会話が再開する。


「……そっか、もうそろ三年生は卒業なのか」

「ああ、俺と有生……成島さんも三年生の知り合いっていないもんなぁ」

「だね……演劇部の先輩方とか挨拶しておけば良かった」


 この後も、何度か先輩たちと話している拓馬の様子を何度も見かけたりする。

 その度に、卒業シーズンであることを理解した。

 それは、勿論間違いなんかじゃなくて演劇に夢中になっている内に、気づけば卒業式を迎える。


 三年生の先輩方たちの言葉を聞きながら、背筋を伸ばして話を聞く。

 この時、久しぶりに演劇以外のことを考えていた。

 それは、来年の卒業式の景色についてだ。

 今年の卒業式は何だか長くて、それでもここまでの数ヶ月が流れる時間の短さを考えればその次の卒業式ももしかしたらすぐ訪れるのかもしれないと自分自身で不安を煽いでしまう。


「さて、今日はとりあえず帰りのHRは無し。

 とりあえず先輩方を見送って、その後すぐ帰ったり先輩たちと話したりするかは任せる。

 ……一応、三年生にとっては最後なんだ。

 ちゃんと、同級生だったり親御さんと時間を過ごせるように気は回しとけよ」


 先生の言葉を最後に、今日の学校は終了する。

 ……拓馬は色々あるだろうけど、他の二人は特に何も無いだろうし帰るとしようかな。

 そう思っていたのだが、意外にも部長に捕まってしまった。


「よお、良いところにいたな石金。

 悪いけど、ちょっとだけ時間を貸してくれ」

「……返してくれます?」

「何だ、むしろ石金に私が奪われた時間の方が多いと思うんだけどな」

「……ですかね」


 結局、部長から逃れることはやっぱり出来なくて部長の後ろを追いかける。

 俺は意外に人見知りで、こういう経緯で初めて会う人と喋らなくちゃいけないのは、正直億劫だ。


「部長!」


 部長の部長呼び……俺からすれば違和感がある。

 大きく手を振る部長に手を振りかえすその人が、去年の部長さんということらしい。

 温厚そうで、包み込むような優しさを纏っているその人は、部長とはまた違った方向で人に慕われそうだなとそう感じる。


「祭ちゃん……その人が後輩なの?」

「はい、一年の石金有生です」

「先輩……卒業おめでとうございます」


 少し考えてみたけど、やっぱり言葉は思いつかない。

 嬉しそうに喋る部長は、やっぱり目の前にいるこの人に沢山お世話になったみたいで子供みたいだ。

 何だか穏やかな気持ちになりながら、二人の会話を聞いていたが、気づけば部長の身体は大きく震えていた。


「……部長、私……全然役不足で。

 結局、頑張ったけど……全国見せてあげれなくて」

「ううん、祭ちゃんが頑張ってたの私知ってたから」

「先輩なら、そうやって優しい言葉かけてくれるの知ってたんですけど……それでもこんなこと言っちゃって。

 やっぱり、私……駄目だぁ」


 遂に涙が溢れる部長の頭に手を置く先輩。


「……もっと、もっと。

 頑張れば良かったね、私たち」


 最後には悔しさが滲むように泣き崩れる二人。

 勿論、その悔しさに俺が共感することは出来ないけど。

 俺は何と無く、その二人の姿に自分と部長を重ねる。


 そんな数分の中で、俺はとあることを考えていた。

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