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四十八 大ちゃん

 俺たちと伊川高校、それぞれがあまりに本気の演劇を披露してしまったことで忘れそうだから改めて言おう。

 この演劇フェスというイベントはあくまでお祭りという側面が強い。

 俺たちの他にも沢山の高校生たちが出演しているが一番出ている割合として大きいのは、それぞれの地元などで練習している大人たちである。


 今も、昔の歌謡曲を演奏しながらそれに合わせて客が歌ったり懐かしんだりする。

 そんなワイワイした雰囲気のものをステージでは行っている。


 そんな楽しそうな景色を眺めながら、俺も席に着く。


「久しぶりだね、大ちゃん」

「……ん」


 俺の隣には、さっき俺たちの演劇を見てからきっと動いていなかったのだろう大ちゃんの姿があった。


「俺から、会いにくるとは思ってなかった?」

「まあな……演劇、見たよ」

「そっか、どうだった……かな」


 まずはそんな、何気ない会話……になるはずだった。

 だけど、大ちゃんは急に俺の方を見る。

 その顔はやっぱり少しだけ強張っている。


「俺は……俺は絶対自分たちが勝てると思ってた。

 勿論、明確に評価されるわけじゃないし……誰かが順位をつけてくれるわけでもない。

 ……けど、だからこそ誰でも分かってしまうくらいには圧倒的な差がつくって……そう思ってた」


 大ちゃんは、やっぱり変わったらしい。

 なんていうか……今は、明確に信用してる人がいるんだろうな。

 中学の頃、何度か見かけた彼はいつも周りに人がいたりして、だけど楽しくなさそうにムスッとした顔で一番前を歩いていた。

 けど今は、劇なら誰かをたてるように動いている。

 今回なら主人公……当たり前のことなんだけど、それでも俺の中ではありえないことで……やっぱりそんな風に彼を変えてしまった誰かがいて。


 小学生のあの頃まで、俺たちはお互いに友達とか知り合いと呼べる人がそんなにいなくて。

 気づけば、同じように先輩とか周りに変えられて今こうして向き合うことが出来ている。


「……俺らだってさ、勝てたとは思わないよ」

「当然だろ……」

「うん、最初見た時背筋が凍った。

 あんなに面白いもの、先手で見せてくんなって」

「その時に、折れろよ……」


 俺たちは不器用で臆病で、まだあの時がちらついて楽しそうに大笑いすることはできないけど。

 それでも確かに、ふふっと笑みが溢れる。


「……あのさ、あの時。

 いや、どう思ってるかとか俺には分かんないけど。

 あの……俺が有生に怒鳴った時……ごめん」

「……そっかぁ」

「何……だよ」


 背もたれに思いっきり体重をかける。

 そっか、大ちゃんにまさか謝られることがあるなんて思ってもみなかった。

 実際、今思い返してみればあれは対して大ちゃんが悪いというわけではないと思うけど……それでも。

 やっぱり亀裂が入った原因の一つではあったと思う。


「あの時さ、俺たちどっちも。

 多分、嫌な思いとかしたわけじゃん?」

「……まあ……な」


 答えづらそうにする大ちゃんにそれでも畳み掛ける。


「それでもさ、俺たち今演劇しちゃってるんだよ。

 ……不思議だよね……人間」

「何だよ、それ」


 俺たちはステージに立てばあんなに滑らかに演技して喋ったりして……それでもこんな風に普通に喋ってみたらテンポも悪くて不器用な感じがする。

 お互い、まだまだ変な感じがするしきっと少しは苦手意識もついてしまっているだろう。


 でも、俺たちは小学生の頃は仲良くて。

 あの時だって、お互いが主人公になりたくて。

 大ちゃんに言ったら驚かれるのかもしれないけど、少し似ているような気がする。

 ……もしかしたら、もっと早く。

 友達に、ライバルになれることだってあったのかもしれないな。


「俺さ、今凄い仲良い友達いるんだ」

「……知ってるよ。

 あの演劇見てたら、信頼し合ってるのわかる」

「皆、演劇好きでさ……」

「ああ」


 今度こそ、真正面から。

 俺にだって、あの時の後悔はあるのだから。

 ……今度は逃げたりなんかしない。


「だから、次はちゃんと勝負が決まる場所。

 地区大会……もっといえば道大会。

 そこで、どっちがいい演劇が決めようよ」

「……謝ったりはしたけど。

 それでも、折れたわけでもないし負けもしないから。

 今度は、ちゃんと圧倒的差でぶっちぎる」


 まだまだ、盛り上がりを見せるステージの中。

 俺と大ちゃんはお互いの腕をぶつけ合う。

 今度こそ、勝負を決めたい……俺たちは思ったより負けず嫌いで勝負好きみたいだ。


「あ、そういえばさ……」



 日曜日、昨日の芸術フェスのこともあって今日はお休みになっていた。

 俺たちの意思とはいえ、最近はほとんど休みなく練習を入れていたし、仮に休みがあっても何かしらの作業をこなしていることが多かった。

 だから、久しぶりの休み……というかお出かけは普通にテンションが上がってしまう。


「おっす、それじゃいこーぜ」


 メンツはいつもの一年生四人。

 最後の拓馬ですら余裕で待ち合わせ場所に辿り着いたためのんびりと電車を待つ。

 少しして来た電車に乗り込んだ。


「いや、凄い楽しみ……!

 まさか、私の好きな小説が映画化されるなんて。

 ……勿論、演劇ブログにも書き込むんでしょ?」

「多分ね、なんせ俺自身も読んだことあって面白いと思ってた作品だし、映像化したらいいかもなぁって思ってたからさ」


 そう、俺たちの目的は映画である。

 ようやく目的地に辿り着いた俺たちはまだまだ時間ことを時計で確認しておく。


「悪い、ちょっとトイレ行ってくるわ。

 純、付き合ってくれ」

「おっけ、ごめん二人とも待ってて」


 二人の背中を見送ると、人通りを見送りながら相変わらず成島さんと言葉を交わす。

 そんな俺たちの前に、影がかかった。


「あ、待ってた……」

「おー、めっちゃ可愛いっすね。

 名前なんて言うんですか?」

「……え、私……ちょっと……すみません」


 初めてみた、ナンパというやつだろうか。

 俺は急いで割って入る。


「すいません、待ち合わせしてるので」

「……今、この子と話してるんだけど?」

「いや、だからその子の連れなので」

「うるせーよ」


 ……やばい、成島さんも完璧に怯えきっている。

 俺が何とかするしかないと何度も注意をしてみるのだが男はしつこかった。

 瞬間、その男の肩に手がかかる。


「あ?」

「あ……じゃねーよ。

 てめえ、どっか行けや」


 その圧に気押された男は、すぐにどこかへ行く。

 ……ようやく、もう一人待ち合わせしていた友達も来てくれたようだ。


「あ、大ちゃんさん……ですよね」

「おい有生、そういえば言おうと思ってたんだけどよ。

 大ちゃん……はちょっと辞めてくれ」

「え〜、何で」

「そうですよ、大ちゃんさん……いいあだ名です」

「…………勝手にしろもう」


 そう、今日はもう一人呼んでいたんだ。

 三國大輝……通称大ちゃん。

 俺にとっての小学校からの友人であり……ライバルだ。

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