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四十六 満月の光が届く前に

 教室に三人、ついにここまで人数が減ってしまった。

 ここで事件の全貌、つまりは白川に手を下したやつが分かる。

 白川に、目立った傷はなくてそれでも唯一違和感があったのは首だった。

 首についていた跡……あれは。

 ……というか、俺にはとっくに分かりきってる。


「……おい、元木。

 お前しか、いないだろ」


 石金は元木を指差す。

 元木は焦ったような表情を見せて首を横に振った。


「違う、違うよ……!

 確かに、今回に関して言えば俺は明らかに怪しい。

 あの部屋で二人きりの時間があったことも周知だ。

 でも、俺は疲れて寝ちゃったんだよ。

 起きたら、あんな風になっていて……俺ですらよく分からない状況なんだよ!」

「うるさい!!」


 バン!……壁に元木を叩きつける。

 祭も今回は、あえてそんな状況を静観している。

 二人は互いが証人でありお互いが無実だとわかり合っているのだ。

 正直、これでも怒りはまだおさえている方だと思う。


「本当に俺じゃないんだって!

 おい、お前ら朝まで起きてたって言ってたな。

 それは本当か?……昨日まで寝れてなかった状況で一秒でも意識を保って、ずっとあそこに居続けたことをお互い確認したとでも言うのかよ」

「……は?」


 元木を突き飛ばして、少し考えてみる。

 ……そう言われてしまえば、よく分からない。

 話していない時間は少なくともあってしまっただろうし確実に意識が途切れていないかもよく覚えていない。


「……ちょっと、石金!

 何黙り込んでるの、昨日のこと覚えてないの?

 ねぇったら、絶対元木に決まってるじゃん!」

「うん、うん……」


 とにかく、記憶を遡る。

 ……けど、確証という確証は持てない。

 そもそも、所詮は人の記憶だ。


「一回冷静になれよ。

 石金の言うこともよく分かるが、感情が先走って見えなくなってる。

 俺だって、怖いんだよ」

「怖いって……ふざけないでよ!

 あんたみたいな犯罪者と、こんな風に真正面から話し合わなくちゃいけない私たちの身になって!」

「はぁ……!?

 俺から言わせてもらえばなぁ、お前ら二人の共犯だとすら考えてるんだぞ!

 複数人の犯行ならならなぁ……今一人しかいない俺を少数に見立てて、犯罪者呼ばわりもできるだろうからな!」


 また、元木は石金に突き飛ばされる。


「あ……?

 俺が純のこと……元木……ふざけるなよ!」

「そうやって、感情任せになるんじゃねぇよ!

 ……良いか、お前らが俺のこと消すつもりなら俺だってやってやる覚悟あるからな!」

「……俺は、お前を許さない!」

「待って石金……やめて!

 私たちじゃないってことは私たちが一番分かってるはずでしょ!

 こんな無意味なことしないで」


 こうして、危機的な状況ので石金がこんな風に荒くなってしまっているのは、単に怒りから来る感情の抑制が効かなくなっているからだろう。

 こうなってしまえば、大抵の話し合いは駄目になる。

 皆が感情任せで思い思いに言葉を吐きあい、遂にはこんな風な事態にまで発展してしまっている。

 もう皆、ギリギリの状態なのだ。


「はぁ、はぁ……俺は許しちゃ駄目なんだ。

 絶対に、純に危害を加えたやつを許しちゃ……」

「それが俺じゃないって言ってるのが、何で分からないんだよ!」

「はぁ、はぁ……」


 石金は、もうとっくにおかしくなっている。

 怒りのまま、握った拳を元木に向ける。

 冷静に考えれば、こいつに違いないんだ。


「そこまで……!

 今から一人も動くんじゃないぞ!」


 振り向いたところにいたのは警察だった。

 全員が感情的になっていたし、客観的に見てみれば何かしらの危うさがあった。

 すぐに手錠をかけられて連れて行かれる。


 次、石金がいたのは取り調べ室……目の前の刑事と一対一で対面する。


「刑事さん……事件の犯人は絶対元木です。

 俺たちは、自分たちの目でその全てを見てきました!」

「……一度、落ち着いた方がいい。

 君以外にも話を聞いて、分かったことがあるんだ」


 ……警察の言うことだ。

 何かしら、証拠を見つけたということらしい。


「吹雪の中に閉じ込められた中には、二人被害者がいた。

 ……そして、生存者は三人……これが私の見解だった」

「………………え?」

「そう、本当はもう一人いたはずなんよな。

 成島恭子という女が」


 急に身体が冷える、それと同時に冷静さを取り戻す。

 成島さん、俺たちは確かに拘束したはずでこれ以上危害が出るはずもなかった。

 だけど、もし……白川がその縄を解いたとしたら?

 白川は成島のことをずっと好きで、あの時の投票でもそんなわけがないと訴えをしていた。

 首にも痕があって、それが成島自身を縛っていた縄だとすれば。

 ……沢山の証拠はあっはずなのに気づけなかった。

 演劇の中の彼らは感情に支配されていて冷静になれなかった。

 劇を見てるお客さんは、それが人狼ゲームと構造が同じだと勘違いして、成島が最初縛られた時に候補から外してしまった。

 おおよその人がその可能性を外していたのだろう、驚いたような声が所々で漏れる。

 人狼ゲームというテンプレートにより頭の中に常識が植え込まれ、ここまでの効果を生み出した。


 石金は、夜になってようやく取り調べを終えたようで外に出る。

 家族が来るのにはまだかかるようで、精神的に不安じゃないかと何度も聞かれたが、それを振り切って何とか外に出てくる。

 ふと、空を見上げると満月が見えた。


 犯人は分かった、あの時いなくなった成島は未だに逃走を続けているようだ。

 何度も何度も、白川の顔を思い浮かべる。


 今日の満月は本当に大きい。

 石金はじっと、その満月の中心を見つめている。

 ウォーン……鳴り響いた遠吠え。

 それは、この世界がまた新たな狼をうみだしたことを告げているかのようだった。


 観客全員が、幕を閉じるその数秒を見つめている。

 伊川高校の演劇は凄まじかった、だけどそれとはまた違う……別角度からの強烈なパンチ。

 鳴り響く拍手は、確かにこの作品が名作だったことを伝えてくれている。

 石金が作り上げた初めての台本による初の大舞台。

 それは、大成功に終わることとなったのだった。

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