四十五 ゲームは続く
実際、成島の演技はとんでもないものだった。
それだけに現状、この演劇においても絶大な効果をもたらしている。
お客さんのほとんどは、吸い寄せられるように目の前の舞台をじっと眺めており、これからの展開に期待感を高めている。
……一言で表すならば、この劇に没頭している。
成島さんは体育館倉庫にあった、細い縄でその身体を縛られ、教室に閉じ込められた。
実質的なリタイアということになるだろう。
皆、複雑な表情を見せている。
事件は解決したはずだが、その正体は顔見知りでありあんなに取り乱す様子すら見せたのだ。
「……本当にこれで良いのかな?」
ポツリとそう呟く白川……そうなる気持ちも分かる。
石金たちが見つけたのは、その動機だけであり実際の凶器や犯行現場を目撃したわけじゃない。
決め打ったものの、不安が完全に拭えたわけではなかったのだ。
「よし、だったら今度は二人ずつで夜を過ごそう。
何か行動を起こす場合は相方を起こして一緒に行動することを約束してくれ。
小浜に関しては、女性だから不安かもしれないけどせめて誰と過ごすかを選んで欲しい……」
「じゃあ、石金……かな」
「分かった、それじゃ全員基本的には教室から出ないようにすること。
それから、成島さんのご飯とかについても明日全員で私にいくから、近づかないように」
こうしておけば、行動を起こしづらいし被害に遭った人がいれば、その人と一緒にいた人が怪しくなる。
もし、犯人が別にいたとしても行動を起こしづらい。
抑止力としても、一役勝ってくれる。
……外はまだ吹雪いている。
これからどれだけ、この場所に居続けるのか分からない。
なんなら、明日……またその次の日。
いつまでも吹雪が続くようならば、どこかのタイミングでここを出ることになるかもしれない。
だけど、少なくとも今日は寝ることは難しそうだ。
考え事が多くて、不安や恐怖にも包まれていて。
「…………石金、まだ……寝てないよね」
「うん、正直言って不安で寝れないよ」
「私も、まさか恭子が犯人かもしれないなんて。
……………………怖い」
「ねえ、今日はずっと話をしよう。
少なくとも、こうして話せているうちは安心できる感じがするんだ」
猛吹雪の中なのだ、寒くて仕方ない。
二人は身を寄せ合って他のことを考えないように、必死に……必死に言葉を途切れさせないように。
小さくて、それでもはっきりと言葉になった。
そんな声が、教室中に優しく響き続けている。
気づけば、陽は登っている。
差し込んでくる陽は、普段なら朝であることを伝えてくれて、目覚めに一役買ってくれるが昨日から一睡もしていない俺たちには煩わしてくて仕方ない。
……だが、それ以上に吹雪が終わったと言う事実にも繋がっており、最後にはほぼ意識を失いかけていた二人のテンションも上げてくれる。
ようやく、この惨劇は終わりを告げるのだ。
「良かった、本当に。
最後皆、飢えだったり吹雪の中に突っ込んで行ったりしているうちに全員駄目になっちゃうんじゃないかって。
……本当に、辛くて」
「うん、もう大丈夫だ。
警察を呼んで、ちゃんと事情説明して。
そこから、また日常に帰ろう。
あんなに当たり前にあった普通の一日が俺にとっては嬉しくて仕方がないんだ」
二人はゆっくりと、疲れた身体だけどそれでもゆっくりと教室の外へ出る。
次のシーンの時に立っていたのは、もう一組……つまりは白川と元木がいる教室の前だった。
トントン……扉を叩く。
特に返事はない、もしかしたらもう外に出ているのかもしれないし、前日にあんなことがあった疲れで深く寝ているのかもしれない。
「……もう、警察の人は呼んだし寝ていても良いとは思うけど、どうする?」
祭の提案も、確かに同意できるが今欲しいのはとにかく安心感だ。
それに、もう少しすれば帰ることができるのだ。
だったら、休むのはそれからでも良い。
祭は、あえてそれを否定する理由もなく分かったと頷いてくれる。
一応、祭が頷いたのを確認した後石金は扉を開いた。
スー……スー……。
静かな寝息が聞こえてくる。
やっぱり、深く寝ているようだった彼らを起こそうとした時、違和感に気づいた。
「……あれ、純は?」
ここにいるべきなのは今寝ている元木……それから純。
だけど、何故かそこには元木の姿しか見えない。
彼の身体を揺らして、目覚めさせる。
「ん……おはよう。
そっちは大丈夫だったの、っていうかもしかして吹雪が収まった!?
はぁ……本当に良かった……」
そう言って、俺たちと同じように喜びと安堵。
とまあ、ぐちゃぐちゃの感情を吐露する元木。
だが、今の俺たちにとっての関心はそこじゃない。
「あの……純は……」
「純、ああ白川くんね。
……いないの?……昨日寝る直前くらいまではいたけどなぁ」
「トイレとか……ですかね」
「かもね、ほらもう天気も良くなったし。
それに昨日の時点で何も起きてないんだろ?」
「……はい」
だけど、何となく……いやこの状況なら普通に気になってしまうだろう。
白川は石金にとって、大事な友人であり今日までの数年間……とにかく長い付き合いの中で特別な感情もあった。
まさしく、親友というやつだ。
彼と、今の喜びを共有し合いたい。
彼と、ここまでの恐怖体験に涙を流したい。
彼と、これから先について話してより一層絆を深め合いたい。
もしかしたら、外に出ていることだってあるのかもしれない。
それでも、友人を置いて先に帰ってしまうような奴じゃない気がして、校内を探し回る。
……そして、見つけることができた。
「純、純。
一体どうしてこんなところにいるんだよ。
一体何があったって言うんだよ」
純は疲れて寝てしまっている。
場所は玄関近く、こんなところだったら寒いだろう。
「純、何かあったなら俺に相談してよ。
昨日の夜、俺が一緒にいてあげても良かったのに……」
それどころか純は動かない。
この意味は……ああ、頭が痛い。
「ああああああああああああ!!!」
遂に叫び声を上げた、石金の元に二人が集まってくる。
そこに広がる、俺が叫んだ理由に絶望の表情が落ちる。
この、長い長い吹雪はまだ終わっていない。
だって、純の身体は冷たいままだ。
「……なぁ、お前ら二人……始めようか。
この事件の全貌を確かめる、二回目の会議を」
ここから、物語は一気にクライマックスを辿る。




