四 戻ってきた学校生活
クラスの席に腰を下ろす俺。
この前まで散々言われていた、授業をすっぽかした話も気づけば話題に上がらなくなり、友達と雑談をしながら朝の時間を過ごす。
……にしても、やっぱり土曜日は最高だった。
勿論、成島さんと友達になれたこともそうだが何より素晴らしい作品に触れてしまった。
あれば良かった……日曜日に何度も思い返して他の人の考察なんかを眺め、自分なりに何度も解釈を繰り返しては理解を深めた。
最終的に、自分のブログで相当な文量を上げてしまったくらいには良かったと思っている。
実際、ブログを見てくれた人たちの反応も概ね同意見だった。周りも満場一致の名作という判定らしい。
「おい、また演劇のこと考えてんのか?
顔に出てるぞ……」
友人の一人に言われてハッとする。
危ない、前の失敗を繰り返さないようになるべく頭の中で演劇について考えることはやめようと決めたんだ。
急いで、友人の会話に参加する。
「ごめんごめん、それで?」
「いやだから、趣味がないのって寂しいじゃん?
それこそ本気になれるもんって言うのかな……。
だからさ、最近配信とかでよく見るゲームの中からどれか極めようかなって思って」
「うん、いいじゃん」
聞いていたもう一人の友人がやれやれと首を振る。
聞いている限りは問題がないように思ったが。
「違う違う、こいつゲームめちゃくちゃ上手くなってさ。
それで異性の知り合いとか作っちゃって。
とにかくモテようとしてるんだ、絶対三日坊主なのは分かってるんだけどさ……」
「違うわ!
……いや、違くもないけどそれが一番の理由じゃない!
ほら有生羨ましいじゃん、演劇好きでそれに打ち込んでてさ」
ぴくっ、俺の身体がつい反応してしまう。
前言った、趣味が合わずとも仲良くしてくれている友人というのは目の前の彼らのことだ。
ただ、そんな身近な友人が演劇に興味があるというならば逃がさない手はない。
「え!?
拓馬、演劇に興味あんの!?
いいじゃん、色々映像持ってるし貸してあげる!」
「いやいや、そういうことじゃねーぞ」
「えー……何でさ。
演劇好きなの羨ましいって言ってたじゃん」
「いや……まあ……そのほら……。
有生って別に……モテ……」
なんかモジモジしている友人。
その状況を救うかのように周りがざわつき始める。
朝のHRにはまだ少し早いようだったが……。
「っておい、成島さん来てんじゃねーか!」
そこでようやく気づく、成島さんが扉の方から顔を出していた。
……まあ、多分俺なんだと思う。
一応少しだけある疑念を取っ払うかのように自分のことを指差す。
成島さんはそれを見た瞬間くらいでもう頷いていた。
「ちょっとごめん、また後で話聞かせて?」
俺は立ち上がって、成島さんの元へ向かった。
俺がこの人生経験の中で、もっとも注目を浴びた瞬間だったと思う。
「成島さん、ちょっと移動しよう」
「え……うん」
やっぱり俺は人目にどうしても慣れない。
彼女を連れて、場所を移動する。
結局しっくり来たのは、廊下を真っ直ぐ進んだところにある掲示板の前。
授業が始まってから、二十分くらい経っても先生にバレない穴場であることを俺が証明済みだ。
「それで……呼んだのは俺であってる?」
「う、うん」
「そっか、良かった。
じゃあ用事のこと聞かせてもらっていい?」
俺も含めて全員が、成島さん自身に注目していたために彼女の手元にあった紙袋に気づかなかった。
成島さんはそのままそれを手渡してくれる。
中に入っていたのは沢山の映画や劇たちだ。
「あ、この前言ってたやつ!
一回も見たことないやつ、見たかったけど映像化されたやつを入手できなかったやつ……覚えててくれたんだ!」
やっぱり俺は演劇に関することに弱い。
どうしてもテンションが上がってしまう。
……っていうかもう分かっていたつもりだったが、成島さんは本当に演劇オタクらしい。
俺が持っていないということはそれだけ入手難易度が高いか、時間が経ち過ぎているということだ。
それが一本二本というレベルじゃなく目の前に揃ってしまっている。
「良かった……これ渡したくて……」
「あー、困ったなぁ。
貸してもらったやつとりあえず全部二周はしたい。
というか成島さんも、言ってくれれば貸すからね」
渡されたDVDやブルーレイたちは状態が非常に良い。
大事にしている俺のコレクションたちも成島さんなら綺麗な状態で返してくれることだろう。
「それじゃ、そろそろ行くね。
また見終わったら作品の感想とか聞いてもらうかも」
「あ……ちょっと待って」
成島さんは後ろを振り向いた俺のことを引き留める。
手元にはもう何もないようだったが、他に思いつく用事といえば、やっぱり作戦のこととかだろうか。
「……あの、今日のお昼とか一緒にどう……かな」
「ああ、良いね。
じゃあ待ち合わせ場所は、玄関前で」
「玄関前……?どうして?」
「外に凄くおすすめの食事スポットがあるんだよ。
よく友達と一緒に食べてた場所で……」
「友達!?……うん、じゃあ玄関前で」
友達同士の秘密の共有……きっとそんな感じにワクワクしたのだろう。
明らかに嬉しそうにする成島さん。
……っていうか、学校で用事があるたびにさっきみたいに教室で騒がれるのも困ったものだ。
「じゃあ俺からも一つ。
連絡先、聞かせてくれない?」
「え……うん!」
こうして俺は成島さんの連絡先を手に入れた。
……こんな貴重なものを入手したとなると、ワンチャン刺されるんじゃないかと少しだけ冷や冷やする。
それこそ、映画の見過ぎだろうか。
ようやく教室に戻った俺は、クラスからの視線が明らかに減ったのを感じて、成島さんの影響力を思い知らされる。
ただ、友人だけは俺のことをじっと睨んでいた。
「ただいま」
「……もしかして、成島さんって演劇好きなの?」
「好き……なんてレベルじゃない。
もしかしたら、俺越えるレベルかもしれないんだ!」
「えー、有生より凄いのかよ……それは厳しい。
いや、今から頑張れば何とか……?」
まあ、そりゃそうだ。
学校内で俺を越える逸材など現れるとは思っていなかった。俺のことを知っている友人たちなら尚更その意味が分かることだろう。
「もう、とりあえず色々教えてくれ!
……い、一週間くらいで有生に追いつきたい!」
「マジか!勿論良いよ。
でも、一週間で俺についてこれるレベルとなるとかなり厳しい道のりだよ。じゃあ、まず……」
結果を言えば、朝のHRまで持たずして拓馬はリタイアした。
……やっぱり、もうちょっとゆっくり魅力を教えてあげるべきだったかな。
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