三十九 力こそ全て
「そいつが主人公……ふざけんなあ!!」
何となく、気に入らなかった。
俺と同じで何にも持ってなくて、俺が言うことには全部同意してくれていたはずのお前が……有生が。
気づけば、好きなこと見つけて今までと大きく人生を変えようとしていて、俺だけ取り残されている。
「そいつが、演劇習ってるからそんな風に思ったのかもしれないけど、皆騙されないで!
本当は……嫌なやつなんだ!
山口さんが人気者なのも知ってて、彼女のお母さんが通ってる演劇クラブにわざわざ通い詰めて、それで自分だけ抜きん出ようとして……!
そいつは嘘つきだ!普段も演技みたいに俺たちを騙して優越感に浸ってる悪魔だ!」
「違うよ、大ちゃ……」
「違うことないさ!
……だって、俺が主役になるはずだったんだ!
お前が俺を裏切って、俺の夢も……ぶっ壊した!!」
……もう止まることは出来なかった。
嫉妬なのか、もしかしたら寂しかっただけかも。
それでも、その時はただがむしゃらに言葉が口から流れてきてしまって。
有生が教室を逃げるように飛び出して、先生からめちゃくちゃに怒られて。
「大ちゃん……めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
「あんなに言えるの、すげー!!」
気づけば、俺の周りに人が集まっていた。
そいつらは取り巻きみたいに、俺の周りをうろちょろ歩いて俺のことを毎度毎度褒めちぎってくる。
その時初めて、ほとんどの人間は理屈なんかじゃなくて本能的な力加減に左右されるということを知った。
だから、強くあろうとした。
そのために、俺を必死に英雄に思わせようと有生の悪口も沢山並べた。
「だって有生のやつさ、ウザかったろ?
俺が一発言ってやんないとさ、クラスがおかしくなると思ってよ」
「うんうん、俺たちも昔から思ってたよな!」
気づけば格闘技も初めて、沢山運動もして。
誰よりも喧嘩が強くなった。
「てめぇ、舐めてんじゃねぇぞおい……!
次、喧嘩売ってくんなら……もっともっと地獄見ることになるぞ」
「そうだそうだ、俺らの大輝くん舐めんじゃねぇよ!」
誰よりも、人の言うことを聞かなくて。
それでいて、誰よりも強いから誰も俺に言い返せない。
……あの頃からずっと変わらない。
俺は一番強いから、一番上だ。
だけど、別に俺は特別何かをサボったわけでもない。
それだけ、自分が劣ってる部分なんか作りはしない。
受験だって、伊川高校を余裕で通過できる。
「ごめん、大輝くん。
俺たちちょっと、勉強不足でさ。
……高校に上がっても、仲良くできるよな」
「まあ、考えてやるよ」
俺はいつだって自信に溢れている。
……ふと見かけた有生の背中。
あいつは一体、どの高校を目指すんだろう。
別に何でも出来るはずなのに、俺には聞けなかった。
高校に上がる、俺は気づけば噂になるくらい恐れられていたらしい。
クラスメイトたちは、俺を見るなり恐怖に顔を歪ませて近づいてくることもない。
最初はそうでも、別に俺には関係ない。
俺に絡まれちゃ、断れるやつなんていない。
色んなやつに話しかけて、俺に気に入られなくちゃ辛い高校生活になるんじゃないかと皆が想像する。
そうすりゃ、中学と大して変わりはしない。
俺を中心にクラスが、学校が回る。
当たり前だ、俺が強かったと知っていて実際にそうだったのだと認知してしまったのだから。
俺は誰よりも早く気づいちまった、力があるやつが上に立てることを。
そんな風に、楽しく学校生活を送っていた頃。
今日もいつも通り自販機でジュースを買う。
一気に飲み干して、手元に残ったのは空き缶だけ。
勿論必要あるはずがなくて、その辺に投げた。
「おい、空き缶……ちゃんと拾え」
そう言って、投げた空き缶を俺の目の前に差し出す男。
坊主で整った眉に、きっちりとした格好。
まさしく俺とは正反対のイメージのやつだった。
「……あ?」
「空き缶、今地面に捨ててただろ?
拾ったから、せめてゴミ箱にはあんたが入れろ」
「おい、見て分かんだろ?
わざと捨てたんだよ、言ってること分かるか?」
はぁ、とため息をするその男。
たまにいる、わざわざ突っかかってくんなって格好も髪色も態度も……全部醸し出してやってるのにあえて突っかかってくる世間知らずなやつ。
「それも分かってる……けど、間違ってるだろ?」
「ゴミその辺に捨てたくらいで誰が困るんだよ」
「清掃の人がわざわざ拾わなくちゃならない。
単純に、その辺に落ちているゴミが視界に入れば校内を綺麗に保ってる人全員が少しずつ嫌な思いをする。
ゴミがその辺に落ちている理由はほとんどが人のエゴでしかないし、落ちていない方が良いというのは一般的な感覚としてあるだろう」
「……てめぇ、失せろよ。
まだお前に付き合ってられるほど暇じゃねえんだ」
その男は首を振る。
何だか、上から目線な感じがして癪に触った。
それだけじゃない、その後の言葉も俺をイラつかせる。
「一つ、聞くも聞かないも勝手だがアドバイスだ。
お前、ゴミを捨てたら誰が困るんだ……とか本当に思ってるのか?」
「……言ったよな、失せろって」
「分かってて、それでも自分の過ちを認めたくなくて。
あえて、強気な言葉と適当な思想で正当化してる」
「うるせえんだよ!」
俺は、ついに殴り飛ばした。
流石に、周りも騒ぎになって先生を呼んでこいだったりやばいやばいだったり、色んな声が飛び交う。
……それでも、その男は眼鏡はどこかに吹っ飛んで頬も大きく腫れてしまっていて、だけど確かに立って俺の目を見る。
「せめて、自分が間違っていないと思う道を選べ。
……二年C組、長谷部太郎だ。
もし、俺の言葉が少しでも響いて行動を起こして。
それでも難しいって思った時は俺を頼れ」
遅れてやってきた教師の怒号を受けながら、俺は頭の中でずっと考えていた。
あの日、小学生の頃……有生に色々言ったあの日。
俺は家に帰って、泣いていた。
謝ろうって、そう思っていたはずなのに。
いつからだろう、俺は自分の意見を素直に言えなくなって、最高に楽しいって心から笑えなくなったのは。
いつまでだろう、素直にごめんと謝れていたのは。
どんなパンチや、脅しなんかより。
俺は、長谷部という男が言った最後の言葉が恐ろしくて仕方ない。
俺は……何なんだ?




