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三十八 あの頃から

 地方活性芸術フェス、元々は町おこしの一環として始まったこのイベントだが、その効果は絶大でありだんだんとその規模と協賛を拡張しながら長い歴史と共に歩んできた知名度のある祭典である。


 実際、ある程度の経済効果を生み出しているのは事実のようであり、ホール内での音楽やパフォーマンス……それから演劇。

 それらを見ること自体は無料となっており、劇場の外の広いスペースには沢山の出店たちが立ち並ぶ。

 豪華ゲストも呼んでいるようで、それは入場料がかかるし倍率も高いため俺たちが入ることはないが、少なくともかなり盛り上がっているイベントであることを理解してもらえたと思う。


「いやー、さっき出店回ってきたんだけどよ。

 めちゃめちゃ色々あって、何なら食べてきちゃったよ」

「えー、十分くらいしか経ってないじゃん。

 ちゃんと味わえてんの?」


 拓馬とそんないつも通りの会話をしているこの場所こそがまさしくこれからステージを見れる場所である。

 段差上に立ち並ぶ席たちは雄大な雰囲気を醸し出しており、よくこれと似たような場所に足を運ぶ俺にとってここは実家のような安心感だ。


 実家と言えば、お母さんたちはどうなっているのだろうか。

 何となく周りを見渡してみるけど、特にそれらしい人は見当たらない。

 公演時間のスケジュールについては共有しているからもしかしたらそのタイミングで来るのかもしれない。


 このイベント、勿論俺たちにとって伊川高校との実力比べの側面が強いとは思うが、そもそも冬にやるお祭りというのが一般的なイメージである。

 正直、俺たちのステージは二日開催のたかが一時間行かない程度のものである。

 そのほとんどは、楽しむ側に回っていないと損であるということだ。

 一応、今回のスケジュールでやる出し物についてはあらかた勉強してきたはず。


「えー、マイクテスマイクテス……。

 それじゃ、早速芸術フェスステージの方を始めさせていただきたいと思いますよ!」


 パチパチ……朝であることと、こんなすぐには目的のものが行われる人はそんなにないのだろう。

 まばらな拍手から、ステージが始まる。

 とはいえ、いる人数でいえば五十数人くらいだろうか。

 演劇ステージの時には、もうちょっと増えるという話だったため、家族を除いても百人くらいには見られると思うとやはり緊張感が高まった。


「まずは、書道パフォーマンス!

 町内会長である、藤原さんの趣味である書道!

 そんな藤原さんとそのお友達から成る迫力満点な……」


 兎にも角にも、ステージが盛り上がり始める。

 ああ、そういえばこうして何かを客席から直接鑑賞するのはいつぶりだろうか。

 まさに俺の趣味、そう言えるものだったはずなのに最近は行けていなかった。

 それだけ演劇部の練習は濃密であり、あっという間だったのだと、そう実感させられた。

 ……やっぱり、こうして誰かが本気でやったものを見ることができるのは良いな。

 こうして久しぶりだとしても、やっぱり俺は見ることも好きで仕方がない。


「そろそろ……じゃない?」


 ついつい見惚れていたステージ。

 時間が流れるのが本当に早い。

 気づけば時刻はお昼前まで回っていて、午前の部の最終まで行っていた。

 俺は、このステージのほとんどを成島さんと見ていてたまに拓馬だったり順だったりが交代交代くらいで声をかけてくれていたのだが、気づけば演劇部員たちのほとんどが席に腰掛けている。


 その理由は勿論明確……来年、俺たちがまず戦わなくちゃいけない相手、伊川高校の演劇がこれから始まるからだ。

 強豪校と呼ばれるほどの結果を残す前から、このイベントには毎年参加していて、その度に面白いという話が回ったり、結果を残していることから今年も相当な人数が集まっている。

 事実、今年は気合いを入れているはず……勝手にそんな予想を立ててしまってとは言え、あの時の大ちゃんの反応を見る限り、とんでもない演劇が見れる可能性は高いのではないかと思う。

 手を強く握りしめ、内側の熱が上がるのを感じる。


「はい、それでは次……午前の部ではメインとなるでしょう伊川高校の演劇ステージになります。

 毎年参加していただいて、その度に非常にクオリティの高い作品を用意していただいております。

 今年も楽しみですね〜!……それでは、どうぞ!」


 照明が落ち、周りが暗くなる。

 そうか、いよいよ始まってしまうのか。

 そんな俺の心の準備を待つことなく……始まる。


 演目……「折れた剣を剣と呼ぶか」


「英雄、英雄の凱旋だー!」


 この物語は最初、主人公である英雄の男が帰ってくるシーンから始まる。

 

 …………え?


 他の誰でもない、俺以外はきっと違和感を感じないシーン。

 だけど、そこに佇む英雄役の男。

 そして、そこに手を擦りながら並ぶ大ちゃん。

 俺は、あまりの異質な状況に戦慄した。


「勿論レッド……つまり主人公は俺!」

「……だって、俺が主役になるはずだったんだ!

 お前が俺を裏切って、俺の夢も……ぶっ壊した!!」

「当日、俺らが一番やべえもん見せるから覚悟しろ。

 これは、宣戦布告ってやつだ」


 分かってる……大ちゃんはまだ一年生で、俺たちみたいな特殊な状況じゃない限り、主人公なんてポジションには中々いけないことも。

 分かってる……分かってるけど。

 それでも、あの大ちゃんが自信に溢れていて自分たちが一番だって、俺に宣戦布告しにきたんだ。

 自分が主人公じゃないっていうのに。


 俺が小学生の時に得られなかった信頼。

 俺にはきっと一生賭けても彼を納得させることができなかったであろうという確信。

 そして、それを成し遂げて大ちゃんという人間性まで変えることができてしまった……今もこうして目の前で堂々と立っている主人公の男。


 これから始まる劇、それを最後まで見届けることができるのが恐ろしいと思うほどに。

 俺は、伊川高校演劇部は想像以上にとんでもない実力者揃いであると、そう確信してしまう。

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