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三十一 休みの予定

「うーん……これなら……えと……」


 チ、チ、チ……定期的に鳴り響く時計の音を聞きながら

俺は部室でただ一人、まだ未完成の台本と向き合う。

 他の皆は、成島さんが見つけたぴったりの練習場所である多目的ホールに行って、練習を重ねているようだった。

 俺自身も練習はしているし、もっとしたい。

 ……だけど、今は完成に向けてもっと集中しないと周りにだって、更に迷惑がかかってしまうのだ。


 それから、二時間……そこをもう少し過ぎたくらい。

 俺は、息を大きく吐き背もたれに体重をかける。

 冬の外は既に暗くて、この季節は寒いんだから早く家に帰って過ごせ……そんな風に言われているようだ。


「……あの、石金くん」

「できたあああああああああああああああ!!!」


 俺は飛び上がった。

 ようやく完成した台本を掲げ、自分のここまでの頑張りにとりあえず浸る。

 終わったその瞬間、疲れからか何だが少し落ち着いた気分になっていたが、達成感は遅れて迫ってきた。

 ……と、目の前には二年の先輩方。

 高橋先輩に、本木先輩に……とにかく今日来ていた先輩ほぼ全員。


「あの、ごめんなさい。

 台本完成したことが嬉しくてつい……」

「あ……いや。

 全然大丈夫だよ、お疲れ様……」


 その言葉を皮切りに、先輩方も散らばっていく。

 もしかして用事があったのかもしれないが、俺が疲れていると感じて、気を遣ってくれたのかもしれない。

 ……だとしたら、少し申し訳ないな。


「おい、廊下まで聞こえてきたぞ石金。

 ……中々の力作なんだろうな?」

「うーん、自分では判断は難しいですけど。

 それでも、頑張ってみたつもりです」


 後に続くように、部長……それから一年生グループも戻ってきたようだ。

 成島さんは戻ってきた勢いのまま、部長の肩を叩く。


「台本丁度できたって言うなら……あの話。

 凄く良いタイミングなんじゃないですか?」

「だな……よし、さっき多目的ホールでおおよその部員には話していたことを石金にも共有しよう」


 鼻を鳴らす部長、物凄く自信を感じる立ち振る舞いだ。

 それだけ、また大きなことが重なるのかと身構える。


「……ずばり、我々はこの冬休みのラスト期間。

 追い込みで演劇合宿を行いたいと思う!」


 合宿……か。

 俺たちは残り一年で誰よりも演劇が上手くならないといけない都合上、こういったがっつりの練習時間も入れるべきだと、そう思っていた。

 その点において、一日中演劇について考えることができる合宿という行事は、非常に優秀だと思う。


「めっちゃくちゃ良いですね!」

「……だろ?

 必要なものはまず映画だろ?……それからトランプなんかも必要かもしれないな。

 後、マストで必要なのはゲームだな。

 少なくともコントローラーは各自で持ち寄って……」

「ごめんなさい、前言撤回です……」


 もう部長は遊ぶ気満々のようだ。

 呆れながらも、成島さんの方を見れば嬉しそうに笑っている。

 

 ……まあ、そっか。

 こんな風に皆で集まって、ゲームしたり沢山雑談とかしちゃったり。

 そんなことができるのは、きっと今だけだ。

 俺も台本完成させたし、それのご褒美くらいに冬休みの思い出を作ることは決して罰当たりではないはずだ。

 それに、正直テンションも上がってしまっている。


「コホン、その代わり午前はしっかり練習させて下さい。

 俺は追いつかないといけない部分もあるし、芸術フェスの時に伊川高校と大差でレベルが違ったら今度こそ立ち直ることができないので」

「それは……まあ……勿論だよなぁ?」

「は、はい。

 それはもう……頑張りましょう」


 俺たちはこれからとんでもなく高い壁を越えなくちゃいけないというのに、呑気な部活だ。

 だからこそ、俺はこういう場面でちゃんと折れずに意見していこう。

 さて、とにかく今日はもうかなり暗くなっている。

 台本が完成した余韻にも少し浸りたいが、帰らなくちゃいけない。


「冬休み後半……って言うなら合宿もすぐやっちゃうくらいの感じなんですよね?」

「そうだな、宿の予約とか値段とか……色々相談しなくちゃいけないこともあるけどとりあえず私が色々候補を出しておくよ。

 まあ、練習日のどこかで行くから少なくとも休日減ったりはしないからな」

「はーい、じゃあ今日は失礼しますね」


 俺はそう言い残すと、急いで部室を飛び出した。

 ……実は一つだけ、懸念点があってそれについて考えたかったからだ。


「おーい、有生。

 ……合宿の話、部長から聞いたんだよな」


 俺を追いかけてきた拓馬と純。

 さっきまで、多目的ホールの鍵を返したり……とにかく色々雑務をしていたようだ。


「うん、二人も勿論行くんでしょ?」

「そりゃ行くに決まってんだろ!

 俺たちは足引っ張んないように、とにかく時間だけでも食いついて行かなきゃな!

 ……それで有生、多分言ってないんだろ」


 二人が追いかけてきた理由、それは俺のことをよく知っている親友たちだからだ。

 ……勿論、成島さんみたく小学校の頃の俺について誰かに聞いたわけでもないと思う。

 だけど、逆に言えばそれ以外の記憶なら結構深いところまで、つい話してしまったし事情を知ってくれている。

 今回……俺が少しだけ迷っていることについても。


「うん……やっぱり、言いづらいよね。

 俺が、演劇また始めたこと……」


 そう、それは俺のお母さんについて。

 あの時、トラウマを背負ったのはきっと俺だけなんかではないだろう。

 つい強く言ってしまったお父さん、その様子を目の前で見ていて、俺が演劇から離れた瞬間を見ていたお母さん。

 お母さんにとって、俺が演劇をやることはあの時を直接思い出すことに繋がってる……かもしれない。

 本当のところは分からないけど、それでも向き合わないようにしてきたことだった。


「もし、何かあったら……それこそ嫌な気持ちになったりとかあったら……俺たちに連絡しろ。

 通話でも何でも、とにかく我儘は聞くから」


 純はこう言う時、本当にかっこいい。

 ……だけど、この瞬間だけは。

 やっぱりあのトラウマにわざわざ手を伸ばすときだけは俺が一番に頑張らなくちゃいけない。

 重い足を何とか動かして、一歩……また一歩と俺の家へのルートを進んでいく。

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