表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/53

三十 本物との差

「成島、とりあえず来てみたのは良いんだが……本当に私でよかったのか?」


 冬休みも中盤、私は六倉先生を呼び出した。

 防音もバッチリで私たちの声が無いと、静寂を感じてしまうほどの理想な練習場所。

 少し前に授業で使った時、非常に理想的な場所であるとそう思わされた。

 ……だからこそ、六倉先生をこの多目的ホールに呼び出したのだ。


「勿論です。

 六倉先生には、この一年……沢山助けていただいて私の中でも信頼があります」

「そっか、先生冥利に尽きるな。

 ただ、今日呼んでくれたのは演劇についてだろう?」

「……はい」


 そう、この多目的ホールの防音性を気にしたのも気兼ねなく演技をやって、先生に見てもらえるからだ。

 先生は少しくらい、疑問に思っているのかもしれない。

 あえて部長や石金くんではなく、先生をこの場所に呼んだ理由を。


「……石金くんに、一度だけ相談したことがあります。

 どうやったら私は、演技が上手くなるのかと」

「それで、石金はなんて?」

「成島さんはオーラがあって、舞台に立ったら映える天性の役者さんだから、胸を張ってやったら良い……」


 六倉先生ははぁ……と一つため息をついた。


「あいつは理論派の皮を被った感覚派だからな。

 何だかんだ努力量とか、そういうことを言うのは容易に想像できる。

 ……それに、成島のこと信頼してるからな」


 私も石金くんのこと想像以上に信頼してしまっている。

 自分よりも演劇が好きで、自分以上に演劇をよく知っているから、きっと勝手にスキルアップするはず。

 もしかしたら、互いにそんなことを思っているのかも。

 少なくとも私は、石金くんにそんな理想を抱いている。


「前回の演劇……日々野さんをお招きしてやった究極の二択と言う作品。

 あの後、何度か声をかけられたことがあります」


「成島さん、この前の劇見たよ。

 やっぱり、何かスターなんだなって感じした!」

「あ……だよねぇ!

 ドレスとか似合っててめちゃめちゃ可愛かった!」

 

 私がそこまで言って、六倉先生は理解したようだ。

 頭に手を置いて、私のことをじっと見る。


「……もし、石金くんが言うように私に何かオーラや惹きつけるものがあるとするんなら。

 それは、部長や石金くんにもあってしまうものです」


 だって、部長にはファンがいた。

 あの時の演劇、ほとんどが部長の姿を見にやってきた人たちだったし、実際に演技を間近で見てその理由も分からせられた。

 ……そんな部長、それから私。

 きっとそれだけじゃない、色んな人が石金くんのために動いて、彼を戦力に加えたいと思わされた。

 二人にも絶対的に、そんな魅力は存在する。

 ……だったら、私は何で彼らに追いつけば良いんだろう。


「少なくとも、私はせめて自分くらいは自分を一番だって誇ってみたいです。

 あの二人が認めてくれるなら尚更、その思考の外まで飛び出すくらいの活躍をしてみたい。

 ……先生なら、きっと客観的に私に意見をくれる。

 どうか、力を貸してください」

「分かった、力になろう。

 ……けど、私だってどこまでやれるか分かんないぞ?

 私から見てもあの二人は演劇に関して飛び抜けてる」


 それでも私は静かに頷く。

 四国ブロックの絶望から、立ち直ってやる気になっているのは私含めた演劇部全員のはずだ。


「分かった、それじゃあやるとしよう。

 はっきり言ってな……成島は悪くないと思う。

 実際、究極の二択の令嬢はハマっていたしごく自然に作品に入り込むことができた」

「え……それってどうすれば良いんでしょう?」

「明確に、二人との違いを考える必要があるな」


 そういうと、先生はモニターに自分のパソコンの画面を映し出す。

 真っ白なその画面に、二人の魅力……そう打ち込んだ。

 何だか、先生とこんなことをやっているとこれから授業が始まるのではないかという不思議な感覚が湧く。


「例えば……何だと思う?」

「部長だったら、演技力……というか役を降ろす力でしょうか?

 まるでそこにいるみたいに、本人がキャラクターに共感して演じているから、本当にその人が存在しているのかもなんて、そう錯覚させられてしまう感じがあります」

「石金は?」


 先生は私が言ったことをそのまま、打ち込んでいく。

 質問もまだまだ止まることはない。


「……やっぱり観察力でしょうか。

 演劇の仕組みを理解することの早さ、それがあると思います。

 私も、究極の二択……最後のシーンで石金くん頼りになってしまいました。

 でも、ステージに上がってきた彼は知識も合わせる能力も高くてすぐに適応してる感じがありました」

「じゃあ、成島は?」


 ……………………長い沈黙。

 自分のことだからか、全く言葉が出ない。

 こういうところは工夫したとか、練習の時には特に意識してるとか。

 とにかく、そういうことですら浮かんでこない。


「私はな……正直言って才能とかセンスって言葉は嫌いだし、無いと思っている。

 いや、厳密には無いと思った方が良いと」

「無い……ですか?」

「そうだ、まあ、何でこんな話をしたかと言えば。

 私は才能の正体はステータスの尖りだと考えているからだよ」


 ステータスの尖り?……よく分からない。

 六倉先生はそんなことも承知らしい、続けて話す。


「自分の魅力、出てこなかったんだろ?

 実際の所、成島はよく頑張っているから演技に関してもあえて口を出せる部分が少ない。

 逆に言えば、オールラウンダーで全部がちゃんとやれているから、飛び抜けた魅力は見えづらい」


 ……自分で言うのもなんだが、一理あると思う。

 ある意味じゃ、自分の魅力は欠点が少ないところなのかもしれない。


「ただな、人間ってそれに魅力を感じづらい。

 例えば熊のぬいぐるみ、これを褒めろって言われたらどう思う?」

「……可愛い、ですかね」

「じゃあさ、胸元に大きいリボンがついていたら?

 もしくは外の毛皮がふわっふわだったら?」

「リボンが可愛い、ふわふわで可愛い……なるほど。

 先生が言いたいことが分かってきました」


 先生は、うんと頷き私の真正面に立つ。

 これが授業であるならまとめのパートと言ったところだろう。


「そう、つまりあいつらとの明確な違いは武器の無さ。

 それが無いせいで、成島はあえて褒めるところが出てこなくて役者として少し影が薄くなってる。

 つまりやるべきは自分だけの魅力作り。

 舞台に出てきて、明確にここが凄いという名刺代わりの特徴を作ることだと私は思うよ」

「凄い……先生、ありがとうございます」


 私は頭を下げる。

 感謝が伝わるよう、ゆっくりと……じっくりと。


「じゃあ先生、どうやって私は武器を作りましょうか?」

「そこだよな……一番分かりやすいのは自分にとっての憧れから武器を模倣することだ」

「憧れ……じゃあ、一人だけ」


 私にとっての重要な一日、追いかけ続けたその背中を見て並ぶため……なんなら追い越すため。

 私はきっと、この冬休み期間のほぼ毎日……学校に通うことになるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ