三 ミステリアスな少女
「やっぱりさ、あの時の照明ってかなり意識されてたんだろうなって思うんだよね。
あれによって、皆の視線がそっちに行って主人公の行動に気づき辛く出来てたっていうか……」
「うん、私もそこは凄いと思った。
演出の藤木さんは……あの照明多用するから好きな手法なんだろうなとは思ってたけど……。
それでも……究極の二択っていうしっとりしたイメージの作品にまで使ってくるとは思ってなかったから」
あー、最高に楽しい。
色々迷ったけど、こうしてやっぱり話せる人がいるというのは新鮮だ。
成島さんは、話してみれば相当演劇に関心があることが分かる。
こうして、滑らかに会話が進んでいるのがその証拠だ。
「あ、そういえば。
当たり前みたいに流してたけど、隣の席だったのは本当凄い偶然だったね」
「あ、それ……」
成島さんは、顔を赤らめている。
こうして、コミュニケーションを取っているほとんどの時間、真顔しか見せてくれない彼女の表情の変化は本当に貴重だ。
「それね、偶然は偶然なんだけど。
私がお芝居見に行くとたまに石金くんがいて……。
その……真ん中の席ってそんなに良いのかなって」
あー、なるほど。
確かに昨日俺が成島さんと出会った時、驚いて声をあげる場面があった。
あれは、一方的に俺が認知されていたのか。
……思えば制服でそのまま行っちゃうなんてこともあったもんな。
「それで、やっぱり席は良かったでしょ?」
「うん、体制も辛くなりづらいし音響も良い。
役者さんの顔だってちゃんと見れた」
役者さん……そっか、こうして話していても相変わらず成島さんから、気品やオーラのようなものを感じているがあくまで彼女は俺と同じ観客という立場なのか。
好きなものを語れる同志が増えたことは嬉しいが、そんな彼女が役者になる気は無いようで少しだけ残念だ。
「……ねえ、石金くんに相談があるだけど」
「相談?」
俺のパラメータは、演劇鑑賞特化。
むしろ演劇が関わってこないと全部普通と言えるレベルだしあえてアドバイスをできることもない。
そんな俺に、相談をこなすことは出来るのだろうか。
「あ、相談なら……他の人がいいかもしれない。
ほら、見て分かる通り俺ってただの演劇好きでそれ以上特別出来ることがあるわけでも無いし……」
「でも、相談相手石金くんしかいない……」
ああ、友達……俺が初めてって言ってたよな。
仕方ない、しっかり成島さんの目を見て相談を受ける体制であることを訴える。
全てを理解して、コクリと頷いた彼女は早速相談内容を話し始めた。
「あの、私って結構学校では悪目立ちしちゃってて……」
してるな、よくわかる。
とはいっても、悪目立ちというよりは神格化が近い表現だろうか。
とにかく、友達が出来ない大きな原因はまずそこにあるとは断定できる。
「それで、何か私のこと素直に捉えてくれている人ってそんなに多くないんじゃないかって……」
「ああ、なるほど」
まあ、それは間違いないだろう。
俺もこんなに話せる人だとは思っていなかった。
……というか、俺と友達になる未来があるとは絶対に予測できなかった。
「だから、石金くんと練習したいなって。
……ちゃんと、自分を出せる練習」
「自分……か」
自分を出す、これは難しい……というより正しいか分からない。
あえての言い方をするなら、コミュニケーションが上手い人間ほど、演技が上手い。
悪口が思いついて、その場で本人に素直にぶつけてしまえば嫌われるし、それこそ素一つで広い人間関係を作るのは性格の相性がある限り難しい。
だから相手にとって都合が良いように自分を変えるのは決して悪ではないと思うのだ。
「自分を出すのは、友達が欲しいから?」
「……まあ、それも絶対にあると思う。
でも、本当のところはもっと私を知ってちゃんと私として仲良くして欲しいから。
それで、こうやって白金くんとも友達になれた」
「そっか」
……さっきまでの話は理屈だ。
今でも俺の意見は間違ってないと思うし、そういうやり方できちんと周りとコミュニケーションを取れる人は尊敬できる。
でも、ありのままで生きていけたらそれは凄く良い。
さっきみたいに自分の好きなこと押し付けあって、不完全……例えそうだったとしても楽しくて。
俺はきっと今の真っ直ぐな成島さんに憧れを抱いてしまったのだろう。
……だから、彼女が自由に人生を謳歌する姿が見たい。
役者になって欲しいと願うほど、俺は彼女のファンだ。
「……どんなことをやるかとか。
どうやったら自分を出せるのかとか。
俺はそんなこと分からないけど、協力はするよ」
友達として、手を伸ばす。
この船に乗ったからには、最後まで彼女の肩を持とう。
この日、俺たちはガッチリと強く握手をして協力者という関係になるのだった。
「……とはいっても、本当にどうしよっか。
俺もそんなに知り合いは多くないし、異性の友達なんてそもそもほとんどいないからな……」
「だったら……私が自主的にやるしかないね。
白金くんはとりあえず実験体として協力して」
成島さんは急に立ち上がると俺の隣に座る。
あまりに勢いよく身体を寄せてきたから、飲んでいたコーラが波を打った。
「あの、成島さん……?
一体何をしようとしてるの?」
「昔、お母さんにこうやられたら安心したし嬉しかった」
何だか悪い予感がしたが、それはすぐに的中する。
俺との距離を更に詰めて、頭を肩に置く成島さん。
あまりに急なことで、心臓が大きく跳ねる。
急いで彼女と距離を取ろうとするが、窓側の席で逃げることができない。
「成島さん、一旦離れて……」
「……どうかな、安心した?
友達は安心感が一番大事だって何かで見た」
まあ、確かに電車とかで親子のこんな状況を見たらホッコリするかもしれないけど……。
正直言って、さっきの状況は安心から一番かけ離れた行動だったと言えるだろう。
……これは、先が思いやられる。
「とりあえず、また作戦会議はしよう。
……今のは一旦なしね」
「え、うん……あの……石金くんは嬉しかった……かな」
「俺!?……嬉しかったは嬉しかったよ。
でも、ちょっとビックリしちゃったかもね」
「ビックリしちゃっただけだよね……良かったぁ」
とりあえず、俺は早急に作戦を考えるとしよう。
このまま独断で行動を起こしてしまっては成島さんが危険だ。
「じゃあ、作戦はまた今度」
「今のって、『夕日が落ちる前に』のセリフ!?」
「違う違う、たまたまだよ。
……ってか成島さんそこそこマイナー作品だけど知ってるんだ」
結局、門限ギリギリまで演劇の話題は尽きることはなかった。
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