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二十九 テンプレート

「なるほどね、それで私を頼ったってこと。

 石金くんらしい、合理的な判断だと思うよ」

「……今日はお話し受けていただいて有難うございます」


 待ち合わせは駅近のとあるカフェ。

 俺の目の前に座る長身のスラっとした女性はその風格から周りの目を一瞬引く。

 実際、それは間違っていない。

 今日俺が会うことになったのは、小説家の日々野さんである。


「私も会いたいと思っていたところだったから。

 良いものを見せてもらったと未だに思っているし、色々あったらしい石金くんのことも心配していた」

「本当に、あれから楽しい生活を送らせて頂いてます」

「うん、それなら良かった。

 ……じゃあ、早速見せてもらおうか。

 一応、言っておくけど私は評価する側の人間は一度も経験がないんだ。

 全部の意見、鵜呑みにする必要はないからね」


 俺は、アイデアをとりあえず形にした紙を見せる。

 あれから綺麗にパソコンで打ち直したものだ、読みづらいということはとりあえず無いはず。


 ぺらり……ぺらりと読む手が進んでいる。

 所詮はアイデアの段階、なるべく細かく書いたつもりでもページ数は十にすら達していない。

 それなのに、この時間は物凄く長く感じてしまう。

 俺自身、勿論評価する側の立場には行ったことがないが立場される側だって経験はない。

 どうしても緊張してしまうものだ。


 少しして、紙がふわりと机に触る。

 コーヒーを一口、喉に通した日々野さんを見てこれから意見が行われるのだと、何となく察することができた。

 机の下で握っている手が更に硬く絞められる。

 想像は大きく外れることはなく、彼女は口を開いた。


「何個かあるアイデア……発想自体は非常に面白いと思う部分もあるよ。

 けど、まあ言葉を選ばずに言うならば……非常に発想が初心者寄りって感じだ」


 ここまで言葉を選ばずに言われると、正直来る部分もある。

 だけど、こうしてぼかさず言ってくれるだろうという信頼もあった上で彼女に教えを乞うたのだ。

 とりあえず話を聞く体制に入る。


「続き……お願いしても良いですか?」

「分かった、じゃあとりあえず案一を利用して話してみるとしよう。これは、他の案にも通ずることだからね」


 再び、日々野さんが俺のアイデアが記された紙を持つ。

 俺の第一案について深掘りするということらしい。


 ……とある高校、そこにはある噂があった。

 乗っ取り、そう呼ばれる現象により深夜に学校に乗り込んだ高校生たちの誰かが意識を奪われ、非情にも命を奪っていくらしい。

 仲良しだが、臆病なとある高校生グループ。

 そんな彼らもまた、この現象に挑戦してどんどんと高校の秘密を解き明かしていく。


「まあ、そういうホラーテイストの作品……と言ったところなのかな?」

「はい、そうですね……」


 新町さんたちの劇にも、影響を受けているのかもしれない。

 恐怖やハラハラ感、そう言ったものにはどうしても目を奪われてしまう感覚があった。


「とりあえず、この作品には違和感がある」

「違和感……ですか?」

「そう、まずどうしてこのグループは乗っ取りという現象を信じて深夜の学校に乗り込んだのだろう?」

「えと、そこは考えなきゃいけないことですけど。

 まあ、例えば動画でバズろうとしたとか……単純に好奇心とか」

「臆病なのに?」


 まあ、確かに。

 そう考えてみれば、今の時代あえて深夜の高校に乗り込んでそれで心霊現象を試す……っていうのには少し違和感を覚えるかもしれない。

 学校祭の準備とか、諸々理由があれば何とかなるかもしれないが、少なくとも臆病な性格という設定とはこれまたそりが合わない感じがする。


「テンプレって言葉、最近はよく作品を批判する時に出てくる言葉だけど……すごく重要な要素だと私は思う」

「テンプレ……ですか?」

「そう、こういう時にヤンチャな奴とか幽霊を信じていない奴が検証に乗り出すとか、こういう展開はよくありがちだけど、理由は作るのが簡単だからだけじゃない」


 あまり意識していなかったけれど、自分の中でオリジナリティを出そうと思って、そういう役回りを出すのを避けていた節はあったかもしれない。

 とにかく日々野さんの次の言葉を待つ。


「これは単純に理にかなっているんだよ。

 導入が自然になるし、観客も設定に入りやすい。

 それでいて流れのまま進むと脳が思い込むから見やすい作品を作れるし、逆に裏切りも作りやすい」


 こうして俺の作品を見てみると、凄く背伸びしているように見えてくる。

 一般的な設定の中に無理やり、違いを出そうとしてそれが違和感となって全体を通して見た時の後味の悪さのようなものに繋がっている。

 シナリオとしては、あまり良いとは言えないような気がしてくる。

 少なくとも、もうちょっとレベルは上げれるはずだ。


「石金くんの武器は、作品に対する膨大な知識だ。

 あえて、最初は自分色を出しすぎなくても良い。

 丸パクリは駄目だけど、自分の中でいいと思った構成だったりシステムはどんどん活用してみな」

「はい、ありがとうございます……」


 こうして、一度講評は終わった。

 正直まだ日々野さんに見せれるレベルでは無かったのだと落ち込んでしまう部分もある。


「ふー、私もこんな経験初めてだ。

 力になれたかは分からないけど、とりあえず疲れたよ」


 そう言って日々野さんは手を挙げる。

 その後俺にメニューを見せてきたが、そこには甘味が記されていて、どうやら食べる?と聞かれているらしい。

 店員さんが到着したタイミングで俺が率先して言う。


「俺、チョコレートパフェ」

「私もそれで」


 そのすぐ後、店員さんは二つのパフェを運んでくれる。

 ……確かに、疲れているのかもしれない。

 脳がドキドキと呼吸しているかのような感覚だ。

 今日のアドバイスを吸収しようと、今も頑張ってくれている。


「いただきます」


 だから、パフェもすぐに平らげてしまう。

 早く、糖分を身体に回したくて仕方がなかった。

 そんな俺を見て、ニヤリと笑う日々野さん。

 様子を見る暇もなく、ティッシュで俺の口を拭いてくれた。


「えっ……あ、ありがとう……ございます」

「ふふっ、ほら。

 テンプレートな展開は理解が早くて、ドキドキするでしょ?」

「……ちょっと、辞めて下さいよ」

「アハハ、違うよ。

 今のは私に教えを乞う可愛い作家の卵に、意地悪したくなっちゃっただけ」


 そう言って、ようやくパフェを一口食べ始めた彼女には敵わない……そう感じさせられた。

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