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二十八 惰性の活動力

 目を覚ます……部長から脚本をやらないかと提案されたのは昨日のことだ。

 冬休み期間、流石に毎日部活があるわけじゃない。

 だけど、むしろこういった何も無い一日の方がこの後の行動を自分で決めて、自分の覚悟で行動しないといけない気がして、気だるい気持ちを覚えた。


 はぁ、深く息を吐いてからとりあえず時間を確認する。

 十一時、どうやら昨日の夜布団に入ってから全く眠れなくて脳内を考えに支配されるのを掻き消すのに多大な時間がかかってしまったことが効いているらしい。


 こんな時間に起きたのは久しぶりだ。

 とりあえずご飯だけは買いにいこうとコンビニへ向かう。


 一番近くのコンビニ、そこでは小中の同級生である山口さんがバイトしている。

 特別仲が良かった期間があったわけでは無いし、中学卒業後は関わる機会は全く無かったけれど、それでも気楽に話せるくらいには、彼女には魅力的な人柄があった。


「お疲れ〜、ここまで寒いと駐車場小さいこのコンビニじゃ、全然お客さん入らないね」

「あ、本当だ。

 そういえば、全然いない」


 こんな風に適度の雑談をすることも全く苦にならない。

 こうして、お客さんがいない状況だとどうしても話題が繋がってしまう。


「あ……そういえば成島さん元気?」

「成島さん?……部活が忙しいから大変な日々は送ってると思うけど元気は元気だよ」

「やっぱり石金くんも部活、入ったんだよね。

 ……良かった、最近連絡なくて心配……あっ」


 急いで口を塞ぐ彼女だが、勿論その言葉を聞き逃すことはない。

 というより、何となく成島さんが俺の元同級生と知り合いになっていたことはよく分かっていた。

 その同級生として、知り合いになれる可能性があるとすれば山口さんだけということも。


「………………怒った?」

「いや、複雑な気持ちがないわけじゃないけど。

 それでも、あの頃の話を聞いて成島さんが演目を提案して……それで最終的に、俺が救われた部分もあるから」

「優しいね、でもごめん。

 ……演劇に戻ってくれるかもって私の独断で成島さんに色々話しちゃった。

 怒っていたとしても、いなかったとしても。

 とにかく……ごめんなさい」


 少なくとも、彼女は謝ってくれた。

 結果的にうまくいったから、こんなことが言えるのかもしれないけど、彼女に怒りを覚える理由はもう無い。


「……それでさ、芸術フェス出るんでしょ?

 この前、サイトで見つけてびっくりしちゃった」

「あー、そういえば伊川高校だっけ」


 俺たちくらいの場所に住んでいると、伊川高校はそれなりに近い。

 勿論、高校進学は成績ややりたいことによってある程度ばらけるが、その中でも俺の中学では伊川高校に進む人が多かった。


「そう、私もちょっとお手伝いしてるの。

 ほら、お母さんとか色々道具とか貸してくれたりするし裏方はいくらいても良いって」

「そうだよね、高校の演劇部もやっぱり人手多い方が色々出来るのになって思うことも沢山あったから」

「ふふっ、だよね。

 ……とにかく、来るってことで良いんでしょ?」

「うん、絶対行くし……俺も役者として絶対参加する。

 伊川高校の演劇部も楽しみにしてる」

「……そっか、じゃあまた……次は、芸術フェスで」


 コンビニを出ると、頭を抱える。

 あんなこと言ったけど、まだ台本の構想も出来上がってないことを思い出した。

 とりあえず、ご飯食べてから考えることにしよう。

 フラフラと来た道を戻っていく。


 帰ってからは地獄のような時間を過ごした。

 本当に何も思いつかない、頭がおかしくなりそうだ。

 ついつい秒針を目で追ってしまう、ここまで何も出来ない自分が情けなくてしょうがない。

 伊川高校……はきっと、良いシナリオを思い付いていることだろう。


 テンテンテン……部屋に鳴り響く通話の音に全身の筋肉が強張る。

 何となくの緊張感で表示された名前を見るが、純と書かれていて、とりあえず安心した。

 勿論、今どん詰まりしているかつ断る理由も特にないため、気分転換を兼ねて電話に出る。


「おっす、なんかあった?」

「いや、急ぎの用事ってわけじゃないんだけど。

 この前借りた作品あったじゃん」


 そう、あれから純は知識としても色々知っておきたいと俺から沢山の映像作品を借りてくれた。

 相変わらずの努力家だ、この電話もそれに関する話ということらしい。


「あのさ……勿論演じるわけじゃないんだけどさ。

 正直、自分がやるとしたらどうするべきなのか考えてみたくて、良ければ有生のブログの記事、教えてくれない」


 うーん、友達に見せるという恥ずかしさにちょっとむず痒しさを覚えるが、自分の知識や熱量にはにはちゃんと自信を持っている。

 純ならそれを理解してくれていると思って、貸した映像たちの感想に飛べるURLを何個も貼り付ける。


「おー!

 ありがとう、ちょっと見てみるわ」

「うん、今度感想含めて話したりしよう」

「了解……あ、そういえばさ。

 成島さん、今日は多目的ホールの使用許可とったらしいよ」


 成島さんが?……一体何をしようと言うのだろうか。


「まあ、きっと成島さんも頑張ってるんだろうね。

 体力作りとかしたいって言ってたし」

「……そっか……そうだよなぁ。

 …………悪いけど、ちょっと切るね」


 何となく、拓馬にメッセージを送ってみる。

 今、何してる?……と。


 その数秒後に送られてきた動画は雪道に足を取られながらも全力で走り回る様子だった。

 そのすぐ後には、次のイベントのために体力作り!と文章が添えられる。


「駄目だ、まだまだこんなもんじゃ」


 勿論、俺も考えなしにこんな惰性を過ごしているわけじゃない。

 だけど、とりあえずその前に案くらいは出しておきたいと思っていた。

 それは、今日中に終えないと効率が悪い。

 それが出来なければ後々の演劇部自体の進行も遅れる。


 皆、動き続けてる。

 周りの知り合いは、休日である今日ですらも何かしら行動を起こし続けている。

 ……俺だけだ、時間ばかりを気にして何も無い時間を過ごし続けていたのは。

 別に映像を見ても良い、寝てこの後に繋いだって良い。

 だけど、無の時間だけ……今は作るな。


「集中して……集中……集中……」



 ……え、何だか部屋が少し暗い。

 とりあえず電気をつけて、今の状況を確認する。

 四時……おおよそ三時間程度、ノンストップだったらしい。

 雑とはいえ、確かにそこに書き記されたその文字たちは少なくとも今日、俺が確かに生きていた証だ。

 とりあえず第一段階終了、スマホに手を伸ばす。

 ようやく、この部屋から出る段階まで進めた。

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