二十七 再出発
冷たい雪が降り注いで、全身白の様相を見せる周りの景色たち。
そんな中、冬休みという最高のイベントが重なれば勿論外に出たくない、そんな風に思ってしまうこともある。
だけど、当たり前に人々は動いていて我が調貫高校にも沢山の生徒達が訪れる。
体育館に響き渡るボールがぶつかる音や動いた時になるシューズの音。
気合いを入れるためか、そうでもしないと熱いのか。
こんな雪景色でも扉は少し開いていて、部活動に精を出しているのがよく分かる激しい音がこちらにまで聞こえてくる。
部活動は冬休みも、継続して行われる。
そんな当たり前を噛み締めながら、俺は部室内を雑巾掛けしていた。
「早いな石金、あけましておめでとう」
俺の次に部室に入ってきたのは部長だ。
吐いた息は建物内なのにまだ白くて、今朝は強烈な寒さであったことを再確認させられる。
続々と集まってくる部員達は、遅くきた純ですら集合予定の十五分前には部室に足を入れる。
この前見た四国ブロック、本当にレベルの高い激戦。
あの時に感じた悔しさや、やってやろうと燃えた決意。
それらは、あれから一週間くらい経って正月を超えたこのタイミングでも、そう途切れることは無かった。
まあ、誰よりも早くきて掃除までしてしまってる俺はその最たる例ではあるのだが。
「よし、全員集合。
これから、この冬休みから来学期までについて話す」
部長の掛け声で、全員が椅子に座る。
いつもの作戦会議の様相は、すぐに再現される。
あまりのスムーズさに、言葉に詰まった部長だったがそれも一瞬だけ。
すぐに、話を再開する。
「私たちの一番直近となってる地区予選。
それがおおよそ来年の秋くらいに行われる。
つまり、私たちの準備期間はその前の一年ということだ」
全員が頷いた。
旅行中の車内でも、何度も確かめたことだしきっとそれぞれでも調べてしまったのではないだろうか。
とにかく、それぞれ理解はしていると思う。
「こっから、道は二つある。
じっくり良いものを作る為、今日かその周辺からシナリオを作り始めて、一年を尽力する。
もう一つは、それらを少しずつ進めながらも他の演目や演劇イベントに参加することでレベルアップを図る」
これに関しては、もう一択だろう。
周りの様子を確かめることなく、俺は手を挙げる。
「後者で行きましょう。
俺たちは、経験を蓄える必要があります」
「……だよな。
というわけで、ここまでは前提みたいなものだ。
ここからが今日一番の議題」
部長は一枚の紙を貼る。
そこには「地方活性芸術フェス」。
そう書かれていた。
「まあ、おおよそ理解は出来ると思うが。
私たちはこれに出ることにする。
演劇だけでなく、吹奏楽や書道……とにかく沢山の催し物を高校生やプロがやるイベントだな」
「あえてそのイベントを選んだ理由を聞いても良いですか?」
成島さんの質問に待ってましたと言わんばかり、嬉しそうな表情で返す部長。
「それはな、あの伊川高校も出るからだ!」
「伊川高校ですか……なるほど」
それだけの説明で納得する成島さんは相変わらず演劇の知識が深い。
……伊川高校演劇部、俺たちの地区大会できっと大きな壁となるであろう高校だ。
なんせ前回の地区大会を突破した強豪校だ。
俺たちはまず、一番上……つまり日本一に最も近い高校を見た。
それでいて、色々な現実を思い知らされたのだ。
勿論、最終的には刺激になったし単純に良いものを見ることができたと言える満足感もある。
だが、俺たちにはそれ以前に戦わなくちゃいけない高校が山ほどある。
まずは地区予選、演劇としての経験値を蓄えると同時に最初の壁のレベルを確認することも出来る。
まさしく、これから目標を細かく組み立てていく上での目安にもなるはずだ。
「というわけで、もうちょっと話し合いは必要だが。
とりあえず、個々で話したいやつがいるから一旦今日はそれぞれ練習に励むように!」
直近の目標が見えたことは大きい。
次の舞台は、二月末。
ここから二ヶ月後の短期決戦といったところだ。
話したい奴がいる……そう言っていた部長は俺の肩に手を置いて、ちょっと来いと声をかける。
とりあえず、俺はそのまま準備室へ向かう部長の背中を追いかけた。
「話したいって俺だったんですね。
地方活性芸術フェスのことですか?」
「ああそうだ……私たちに今最も足りていないことは何だと思う?」
「練習量と経験……俺はそう思ってます」
まあ、旅行でも時間をかけて話したことだ。
部長もある程度、この返事を予測してたと思う。
「いやまあ、そうなんだがな。
最近、ちょっと気づいたことがあるんだが……」
「はい」
「誰が台本書けば良いと思う」
死角からの攻撃、一瞬心臓が跳ねた。
台本……高校演劇で賞を取ってる高校では、演劇だけでなくその劇の内容、つまりは脚本の魅力によってレベルを底上げしていたりもする。
それを書く人は演劇部の誰かだったり顧問の先生だったり……それは勿論高校によってそれぞれなのだが。
俺たち演劇部には、そんな経験値がある人がいない。
「誰、が……ってこれ結構ヤバくないですか?
部長には、考えがあるっていうか書ける人に心当たりがあったりするんですか?」
「いやない……だが。
石金にやってみないかって、そう言おうと思っていた」
だからこそ、呼ばれたのだろう。
ちょっと前から、部長はそう言うんじゃないかって何となくそんな気がしていた。
「……俺は、演技に関しては昔にやっていたので決して0の状態ではないです。
でも、これに関しては本当にやったことがない。
それこそ、他の人に任せた方がよっぽどいいものを仕上げてくるかもしれないし、俺には全然才能が無くてただ時間を無駄にしてしまうかもしれないですよ」
「ああ、選んだ理由は想像以上にただの直感だ。
昔から演劇に多く触れてきて、とんでもない愛情を持っている石金なら、良いものを書けるんじゃないか。
そんな一般的な感覚でこうして頼んでいる」
部長は、出会った頃からこういう人だ。
俺に何を感じたのかずっと誘ってきたし、成島さんと話すのも緊張してたくせにそれでも話し合いを漕ぎ着ける。
でも、そんな彼女の直感をどうしても信じてついていきたくなってしまう。
これが、リーダーとしてのカリスマ性……そういうやつなのかもしれない。
「別に、それで行こうと振り切ったわけじゃない。
とりあえず、冬休み中に台本を書き上げてみてほしい。
イベントでの反応なんかもみて、これからどうしていくかは決めるとしよう」
「分かりました、勿論相談とかはさせてもらいます。
けど、とりあえずは任せてみてほしいです」
グーとグーを合わして、とりあえず頑張る意志を表す。
どうやら、今年の冬休みはゆっくりダラダラなんてことにはなってくれないらしい。
……四国ブロックを見たあの日から、分かっていたことだったが。




