二十五 白が思うまま
あまりにも精巧に緻密に作られたシナリオたち。
それを最大限に引き出す、恐ろしいほどに感情を揺さぶる演技。
四国ブロック、ここまで一つも外れがないと言えるほどのレベルの高い戦いで、身体が震える。
もし明日、俺たちがこのレベルの演劇を叩き出せと言われた場合、きっと奇跡が起きても不可能だろう。
そう思わされるほどに、全国の壁は高くて厚い。
……次がラストだ。
前回全国最優秀校、徳島県代表三成高校。
演目、「白が思うまま」
まず出てきた女性に衝撃を受ける。
そこにいたのは新町さん、ここまでの激戦に他のことを考える余裕はなく、そういえば彼女の姿を見ていなかったことに驚いた。
そっか、去年のトップ……そんな高校に新町さんは身を置いていたのか。
……とりあえず、その辺の話は聞ける時に聞けばいい。
今は、目の前で行われている演劇に意識を戻す。
この演目は、高校内の誰かが書いた創作脚本を元にしたものであり、俺自身も勿論事前情報を持っていない。
ただ、今のところの感想を言えば非常に「静」を意識させられる台本だと感じる。
新町さんの服装はいわゆる巫女服、つまり神を祀るものなのだろう。
彼女が静かに座ったところで現れる一人の男性。
その奇怪で豊かな動きと、こんな場でやけに陽気な様子を見る限り、彼は神と呼ばれるやつなのだろう。
「新人か、よく来たな……」
「はい、それでは準備を……」
きっと、ここまでで喋ったセリフはそれくらい。
だけど、俺たちは今その状況のおおよそを理解できてしまっている。
本来、演劇をやる上で最低限必要なセリフ回しというものがある。
例えば、俺に幼馴染がいるという設定を作るとしよう。
それを周りに、自然に周知させるために基本的にはセリフを使って状況を伝える必要がある。
「ほら、幼馴染の私に任せておきない」
「ちょっと……一応家が隣同士でしょ?」
「おはよ、ほら。
あんたのお母さんが弁当持ってけって私に」
まあ、今のは一例だ。
とにかく、どれだけ自然に演劇の基礎となる情報を組み込めるかも台本を書く上では非常に大切になるということである。だが、その点においてこの台本は異質だ。
巫女が、美しい所作で儀式のようなことを行いそれを満足そうに、神様が眺める。
神は一枚の神を地面に投げ捨てその場を去る。
それを見た巫女はゆっくりと立ち上がり準備を進める。
今のも同じく、ほとんどセリフが無い。
だけど儀式をやっていたこと、神が何かしらのお告げを残したこと、それを見た巫女がそのままお告げを遂行するのであろうこと、その多くをまた俺たちが理解する。
あまりの静寂はたくさんの効果をもたらす。
巫女が淡々とお告げをこなし、そのお告げ通りであれば極悪非道なことにも手を染める様子。
神秘的かつ、事務的に行われるような儀式とお告げが何回も繰り返されることの恐ろしさ。
そして、あまりにも巫女の感情や神様の感情が全く動く気配がないという救いのなさ。
とにかくそれらはゆったりと客の心を冷やして、ただこの先の展望の無さに、客ですら息が詰まる。
そんな中、当たり前のようにまた神様はお告げを書いて巫女の前に置く……そんな流れは断ち切られる。
遂に、あまりにも巫女が自分の意のままに動くことが気持ちよくて、神様自身から直接命を下す。
「……私は、まだまだ上にいく必要がある。
他の神すらも、食べてしまうことにしよう」
つまるところ、神の命令はこうだった。
他の神、それらが持つ祠や施設などを破壊して回ったり信者にホラを吹き込んで、自分のものにしたり。
そうなるよう巫女に動いて欲しいということらしい。
最後に神は、親愛なる自分の僕である巫女に自分の力の一部を寄越すことにした。
「………………この、愚か者が」
突如、巫女はボソリと呟く。
神は、何を言ったのか聞こえず聞き返した。
「おい、今なんて」
「この愚か者がと、そう言ったんだ!」
巫女が手をかざすと、神はそのまま吹き飛ぶ。
唖然とそこに座り込む神に対して更に追撃が入る。
「自らを信仰するものでも気に入らなければ命を奪い。
糸で操れる人形には簡単に力を渡してしまう。
ましてや、他の神に手を出そうとは。
これまた、実に罪深い男だ……」
急に、セリフが今までの分を取り戻すかのように飛び出してくる。
神にとって、自分に脅威が訪れるはずないと。
そう考えていたはずなのだろう。
しかし、突然巫女は裏切り行為を働き一瞬にしてピンチに陥ってしまった。
そして、さっきの力……恐らく巫女は神を信仰したふりをしていた別の神……そんなところだろうか。
「愚かしい……愚かしい!
お前のような愚か者が、私たちと肩を並べて神を演じていようとは!
貴様のような奴には天罰が下る!
この世界では不条理を働いたものには必ず返ってくるというものだ!!」
「や、やだ……。
俺の力、返して……」
光が消えて、すぐについた時には神は床に伏せていた。
巫女はさっきまで怒ったいた様子が嘘かのように静かにただ立っている。
「もし、愚かしいほどの欲に簡単に飲まれるような輩がいるとするならば……次はお前の前に姿を変えて、品を変えて……現れることもあるだろう」
そのまま姿を消す、巫女……いやもう一人の神。
それと同タイミング、照明も終わりを告げるようにゆっくりと落ちていくのだった。
「……終わった……のか?」
部長の言葉に、周りにいた人はハッとする。
拍手が起きたのは、その数十秒後。
それほどまでに、皆がこの作品の本質を逃すまいと頭を使わされてしまった。
結果、拍手という演劇を観た後で最優先で行われる行為を後回しにしてしまうほどの異常事態が発生したのだ。
「これが、四国ブロック……これが、前回の王者」
勿論、最後まで結果は分からない……そう言いたい気持ちもあるけれど。
今の演劇は非常に挑戦的で、それでいて美しくとんでもない仕上がりで、まさしく完成されていた。
恐らく、客のほとんどが今年も四国ブロックは徳島県が取るのだと理解させられてしまったのだろう。
他の地域から応援に来ていた他の高校の家族や友達の中には既に涙をこぼし始めてしまっている人もいる。
俺も少しの間くらい、落ち込んでも許されるくらいにはメンタルを破壊される。
誰もが絶望を感じることが出来るくらいには、度を越した素晴らしさの演劇だったといえる。
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